第27話 バタフライ効果

「もげ?」

「MoGeな、携帯電話のゲーム会社だ。Moble Generationの略だったと思う」

「その会社が上場するってことか」

「俺の記憶では、上場が近いはずだ」


柊は神妙な顔をしていた。


「なにか問題があるのか?」

「以前、バタフライ効果の話をしただろ?」

「あぁ、言ってたな」

「俺がMoGeに干渉してしまったんだよ」

「ええぇっ!?」


柊は順を追って話すことにした。


「MoGeが『ユニコーン』のスポンサーになる予定だったんだ」

「だった?」


景隆は柊の表情から、何らかの問題が発生したと推察した。


「俺が映画の脚本を監修をしていることは知ってるよな?」

「あぁ」

「映画のシーンにスポンサー企業の製品が登場することはよくあるよな?

なので、MoGeの意向を聞きに行ったんだ」

「脚本にモバイルゲームのシーンを入れたりするってことだな」

「その意味で合っている」


「それで、梨花さんを連れてMoGeに行ったところ――」

「ちょっと待て、なんで神代さんが?」


「俺は映画の素人なので、脚本については梨花さんが手伝ってくれるようになったんだ。

それで、MoGeに同行してくれたんだけど――」


柊は「はぁっと」ため息をつきながら言い放った。


「MoGeの担当者が梨花さんにセクハラしたんだ」

「はあぁっ!?」


「その場にいた蒼さんにもセクハラをした」

「何だと!!!」


蒼は柊の姉だ。

蒼は映画の広報を担当していたため、その場にいたのだろう。


景隆の胸の奥底で、抑えきれない怒りが胸に燃え上がった。

自分がその場にいたら衝動的にやってはいけないことをしてしまいそうだ。


「それで……どうなったんだ?」

「色々あって、その担当者は懲戒免職となったんだ。法的手段は取らず、示談という形で決着した」


景隆は「ほぉーっ」と胸をなでおろした。

柊のことだから、うまく対処したのだろう。

(人生経験が浅い俺が対処できただろうか……?)


デルタファイブの社内においても、景隆はハラスメントの場面を目にすることはあった。

景隆自身も江鳩からパワハラのような発言をされたこともある。


「未来ではハラスメントの基準が厳格になったため、こういうことは少なくなってきたんだけどな」

「それはよかった」

「まぁ、いいことばかりでもないんだけどな……」


柊の言うことが気になったが、柊はこの先を話すつもりはなさそうだ。


「そんなこんなで、俺がMoGeにガッツリと干渉してしまったので、俺が知っている結果にはならない可能性がある」

「バタフライ効果でMoGeが上場しない世界線に突入しているかもしれないのか……出資をやめるか?」


柊は「うーん」と考え込んだ後に言った。


「いゃ、MoGeには出資しよう」

「マジで?!」


柊の決断は景隆の予想とは正反対だった。

景隆は柊が思いつかないことをするように意識していたが、逆にそれをされてしまった。


「上場基準の一つに、コーポレートガバナンスが整備されていて、それが機能しているかが審査されるんだ。

今回の件でMoGeのコンプライアンス部門はしっかりやっていたので、プラスに働く可能性がある」

「なるほどー、ちょっとした賭けになるな」


「どうする? 降りるか?」

「やるに決まってんだろ!」


柊は景隆の返事を予想していたかのように頷いた。


「これだけだと心もとないので、俺の方でMoGeの上場を後押しするように動いてみる」

「?」

景隆は柊がやろうとしていることがさっぱりわからなかった。


「俺も何かやったほうがいいか?」

「MoGeの件がうまくいくかわからないので、石動は引き続き運用を進めてくれ」

「あぁ、わかった。ユニケーションの開発も進めておくよ」


二人は映画のスポンサー資金確保のため、別行動をとることになった。

そして、この後の柊の行動は景隆の想像よりはるかに斜め上だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る