第20話 ブラッドの帰宅

 ブラッド様が盗賊を城に連れて行ってから、もう三日が過ぎた。


「ブラッド、大丈夫かしら」

 私は中庭で草木の様子を見ながら、ぼんやりとしていた。

「今帰った」

 ブラッド様の低いけれど、よく通る声が聞こえた。


私は玄関に駆け付けた。

「ブラッド! おかえりなさい!」

 疲れた様子のブラッド様は、私を見つけると顔を輝かせた。

「ローラ! 会いたかった!」

 ブラッド様は私に走り寄り、私を抱き上げ、私の頬にキスをした。

「大げさね、ブラッド。おろしてくれるかしら?」

 私は笑いながら、ブラッド様の首に回した腕を緩めた。


「ローラと離れて、どれだけ寂しい思いをしたと思っているんだ?」

「たった三日でしょう?」

 ブラッド様は抱き上げていた私をしぶしぶおろした。


「まったく……こんな物騒なことが家の近くで起きるとは」

 ブラッド様は腰に手を当てて、ため息交じりに言った。

「でも、もう盗賊団はやっつけたんでしょう?」

 私がブラッド様の目を覗き込むと、ブラッド様はまっすぐに私の目を見つめて言った。


「盗賊団のボスたちは処刑された。だが、下っ端たちはむち打ちの後で解放だ。あいつら全員を牢屋に入れておけるわけでは無いんだ」

 ブラッド様はまた、ため息をついてから言った。

「私は騎士をやめ、ローラのそばを離れないほうが良いだろう」

 切なげなブラッド様の眼差しを受け、私は目をしばたかせた。


「まさか! ブラッド、騎士になるために色々な苦労をしたのでしょう?」

「ローラの安全の方が大切だ」

 ブラッド様はそう言って、私の手を取った。

「……気持ちは嬉しいわ、ブラッド。でも、騎士として働いているあなたの姿が、私には輝いて見えるの」

 私はブラッド様の頬を両手で挟み、優しく微笑みかける。

「……んっ」

 ブラッドは赤い顔で咳をした。


「あら? ブラッド、風邪をひいたの?」

「違う、大丈夫だ」

 ブラッド様は頬に当てられた私の両手を包むように、自分の大きな手をそえると私の鼻先にキスをおとした。

 その時、ブラッド様のお腹がぐう、と間の抜けた音を立てた。


「ブラッド、食事にする?」

 私は笑いをこらえて、ブラッド様に尋ねた。

「いや、その前に……。ハロルド、風呂の用意は出来るか?」

 ブラッド様はハロルドに声をかけた。


「はい、すぐに準備いたします」

「頼む」

 ブラッド様は外套をハロルドに渡し、家の中に進んだ。


「あ、一つ言い忘れたことがあった」

 そう言うと、ブラッド様は苦虫をかみつぶしたような顔をした。


「モーリスの奴が、怪我の手当ての礼をしたいから家にくると言った。あいつなど来ないほうがよっぽどありがたいというのに」

 ブラッド様は吐き出すように言う。

「あら、モーリス様がいらっしゃるの?」

「ああ、なにかローラに渡したいものもあると言っていた。あいつはやはり殺さねばならん」

「ブラッドったら、冗談が好きね」

 私はブラッド様の腕を軽くたたいた。


 ブラッド様は眉間にしわを寄せ、部屋に戻ると言い、なごりおしそうに私から離れて行った。


「モーリス様、何を持ってくるつもりなのかしら?」

 私は頬に手を当てて首を傾げた。


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