第386話 幻惑の魔眼

エース・ブンダーの剣はブンダー侯爵に届くことはなく、爆発してエースの右腕を消し飛ばしていた。

エースは無くした右腕を抑えて、片膝を打ちて痛みに耐えていた。


「愚か者め、貴様の剣や鎧に強化の付与をした時、俺に逆らったら爆発するように細工をしていたんだよ。人は裏切る生き物だからな、俺はだれも信用しない、それが身内でもだ」

「きさまーっ。どこまでも、卑怯な」

「真に王になる人間は、孤独なのだよ。息子だからとやみくもに信用するわけがないだろう。勇者になり俺の駒として働けば生きて行けたのに、残念だよ」

そう言って、ブンダー侯爵は剣を抜き、息子エースの首を跳ねた。


護衛が、エースとブンダー侯爵のことで気を取られたスキをついて、ピッケルは右目の眼帯を取った。

ピッケルの瞳は黄金色で、魔法陣が浮かんでいる。

ピッケルの右目は魔眼だった。

魔眼が光ると、周りの人間の姿がすべてピッケルになった。

魔眼の力でここにいる人間全てがピッケルの姿に見えるようになっていた。

ピッケルの隠していたスキルがこの魔眼だったのだ。


「同士討ちを狙っている、みんな動くな。魔眼の範囲はせまく、長時間は持たないはずだ!」

ブンダー侯爵の指示で、全員動きを止めた、逆にこの中で攻撃を仕掛けて来た者が、ピッケルだと判明することで、ピッケルも動くことが出来ない状態になった。


そして、全員の姿が元に戻ると、ピッケルの姿はなかった。

ピッケル自身は、どうどうと部屋から出て行った、魔眼でピッケル本人は見えないという幻覚をみせて。

「奴の右目は『幻惑の魔眼』だったのか。みごと、あざむいてくれたな、しかし奴は右手を失っている、血の跡を追って必ず仕留めろ。やつは、今回の事を知られているし俺のスキルも見られている、いかして返すな」


ブンダー侯爵からの追手が多く屋敷から出たが。

しかし、ピッケルを捕まえ、始末することは出来なかった。


そして、ストロード領へ瀕死の状態でもどって、ブンダー侯爵のたくらみを話してくれたのだった。


ストロード辺境伯は、目をつぶって考え込んでいた。

「息子の仇を討ちたいが、ここで軍を上げてブンダー侯爵と対決は出来ない。下手をすると国を二分する戦になる。それに、彼が我が息子を殺したと言う証拠がない」

「ああ、だから俺が暗殺と言う手段でブンダー侯爵を無きものにしようとしたが、返り討ちにあった。やつの付与魔法があれほど協力で同時に何人もの人間に賭けられるなんて思ってもいなかった、油断した」

ピッケルは無くなった右腕のひじの部分を抑えながら悔しそうにつぶやいた。


「だか、私は息子の仇を打つのをあきらめたわけではない。密かにブンダー侯爵の身辺を探ぐり、やつの悪事を暴き、侯爵の地位から引きずりおろすんだ。そうすれば軍を出して戦う事もなく。奴を始末できる」

ストロード辺境伯は、ブンダー侯爵との対決を決意した。

そして、ピッケルはブンダー侯爵の身辺を調べると言って、ストロード領を出てから行方不明となった。


アトランティスの話は、そこで終わった。


「なぜ俺に、そんな話をする」

「それは、君が元勇者候補だったからだよ。ブンダー侯爵は勇者候補2人を殺している、間接的に直接的にね。彼がいまだに王座を狙っているなら、勇者や勇者候補の人間は邪魔な存在だとは思わないかい」

「つまり、ブンダー侯爵に気を付けろと、忠告してくれているんだ」


俺の反応を見て

「どうやら、もうすでにブンダー侯爵に警戒しているみたいだね」

「ブンダー侯爵派閥の、ミダクド商会にうちの領がひどい目にあったからね。デーマン領を経済破壊しようとしていたみたいだったからね」


ちいさな宿場町が見えた、ここを通り過ぎた先がロンマの町だ

「ここで止めてくれ」

アトランティスはロンマの町の手前の宿場町で降りると言った。

「ククルに会わないのか」

「いずれ、会いに行くよ。今はまだその時じゃないからね」


黒いフードをかぶった男が、アトランティスを迎えに来た。

ここで、待ち合わせをしていたようだ。

「では、また会う時を楽しみにしている」

そして、魔導バスから降りると、アトランティスは魔導バスに手を振って見送った。


迎えに来た黒いフードをかぶった男をよく見ると、右目に眼帯をした片腕の男だった。



死亡予定日まで後 499日

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