第57話お前のお袋に怒ってもらう棺から母出し並び寝た鯨先

両脚を伸ばして、無防備に口を開けて鼾を奏でていた鯨先とは違い胡坐を整えて両膝の上に両手を乗せ、上体を安定させて脊柱起立筋をピン!


と立たせて勿論背筋は伸びていた。


「今から食べようと思っとったのに勝手に食べるなよ!


お袋さんに怒ってもらうからな。」


と、子供の様に言うが早い棺桶の中で安らかに眠っている母親を抱き抱え棺の前に出し寝かせた!


 それには葬儀会社のスタッフも慌てて、鯨先を制止するもてんやわんやの騒動の中、僕が止める間も無く鯨先の動きは鮮やかで酔っぱらって饒舌を披露していた夜中の時間と違うよと、思う位にマッハで成し遂げやがった。


 その母親の横に並んで寝てしまった鯨先はヘルパーの主婦連中や僕の親戚縁者が取って代わって幾ら激しく起こしても鼾が和らぐくらいで起きなかった。


 鯨先は、還暦で初心者研修を修了した暫定2級ヘルパーの資格を得ている。

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