異世界を救って帰ったら女神様が「結婚しよ!」と誘惑してくるようになった
猫野 ジム
第1話 二週間くらいで魔王を倒した
何も無い真っ白な空間。今俺の目の前には女神様が立っている。腰の辺りまである金髪に、神様と呼ぶには少し幼い印象を受ける童顔。
でもパッチリとした目、シュッとした鼻筋、ほどよい厚みで柔らかそうな唇。『美人』というよりは『美少女』と表現したほうがいいだろう。つまり、めちゃくちゃ可愛い。
服装は白いドレスだけど、なんかもう『布』と呼んだ方がいいんじゃないかと思うほど、不自然なほどに服としての役目が果たせていない。『布が絡みついているだけ』と言っても間違いじゃないと思う。
もちろん大事な部分は隠れているけど、上半身は明らかに『着けていない』。それによって分かる膨らみの大きさ。ますますもって顔の印象とは不釣り合いだ。もうハッキリ言う。デカい。
下半身はというと、さすがに細かくは確認できないけど、白い太ももはハッキリと確認できる。背はそんなに高くない。女性の平均身長より少し低いくらいだろうか。
俺がなぜ女神様だと思ったのか。それは今朝のこと。三学期が終わった日、春休みは何しようかと家で考えていたところ、突然目の前が真っ白になり、気がつくとここに居た。普段から異世界もの作品を見ている俺はすぐに理解することができた。
「よく来てくれました。海堂(かいどう) 修羅人(しゅらと)様」
「勝手に呼ばれただけなんですけど」
「まっ、まあそう言わずに話だけでも聞いてくれませんか?」
そして俺は女神様からいろんな説明を受けた。まずこれは異世界転生ではなくて異世界転移だということ。つまり死んだわけじゃない。一番の不安が解消されてまずは一安心。
次にこの世界は魔王からの支配の危機に陥っているということ。そして例のように別世界から勇者召喚しないと、この世界に魔王と戦える実力者はいないらしい。
最後に勇者として一番適性があるのが俺だということ。ラノベの異世界転移ものそのままのような状況だった。
「急にそんなこと言われても信じられませんよ」
俺が信じられないのは異世界とか魔王とかじゃなくて、俺に勇者としての力があるということだ。
「海堂様はそれはもう最強ですよ。ほとんどの魔物を
「そう言われても俺、魔物と戦うなんてできませんから。でもどうせ魔王を倒さないと
「帰れますよ?」
「えっ? 帰れるの!?」
「はい。元の世界に帰るなら右の扉から、魔王討伐に行ってくれるなら左の扉から外に出てください」
「一応聞きますけど、もし俺が魔王討伐に行かなかったらどうなるんでしょうか?」
「二番目に勇者適性がある人を召喚することになりますね。ただ、海堂様より戦闘能力はかなり劣るでしょう。それでも時間をかけて強くなれば、十分に魔王を倒せる実力はあると思いますので心配ありません」
つまりまた元の世界の誰かに迷惑がかかり、異世界が救われるのが遅れるということか。
「これも一応聞きますけど、女神様は魔王をどうすることもできないんですか?」
「あくまで私は神なので、私が見守る世界への直接の干渉はできません」
まあ予想通りかな。
「私だって神ですから、嫌がる人を無理やり危険な環境に送り出すつもりはありません。勝手に呼び出して本当にごめんなさい。元の世界に帰れるのは右の扉だから間違えないようにね。……って、あれ!?」
今俺が向かっているのは左の扉、つまり異世界へと続くほうの扉だ。
「そっちはあなたで言うところの異世界へと続く扉なんだけど、間違えてない?」
「だって魔王をすぐに倒せるのは俺だけなんでしょ? 俺で世界を救えるならやりますよ。あと一つ聞いていいですか? 俺が異世界にいる間は、元の世界での時間経過に影響は出ませんよね?」
「どちらの世界も時間の進み方は同じですよ?」
「えっ!? 異世界での一日が元の世界では一分だったりするんでしょ?」
「まさかー! 時間を操るなんていくら私でもできませんよぉ! でも心配ありませんよ。そのこともきちんと考えて解決策を用意してありますから」
「さすが女神様。どんな解決策なんですか?」
「あなたが通う高校に休学届を出しましょう!」
「全然解決じゃない!」
休学届なんて出したら、留年に限りなく近づいてしまう。いやまあ確かに元の世界の時間に影響が無いなんて、俺の思い込みではあったんだけど!
最悪だ。春休みが終われば二年生になるからクラス替えがあるのに、もし初日から不参加なら友達作りの出遅れ確定じゃないか。
「俺の家族のこととか、もっと考えるべきことがありますよね?」
「だって高校生で一人暮らししてる子なんて、そうそういないんだもん。そういうことも含めてあなたが適任なんです」
「いや別に両親がいないとかじゃないですよ? ただ行きたい高校に通うために離れて暮らしてるだけです」
「もちろん知ってますよ。あ、異世界でもスマホは使えるから安心してね。連絡は取れるよ。バッテリー残量が減らないようにしておきますね」
「女神様って変なところで不思議な力を発揮しますよね」
「やっぱり元の世界に帰りますか?」
「いや、帰らない。一度引き受けたし、俺で世界を救えるなら喜んでやりましょう!」
「それと言い忘れてましたけど、もし元の世界に帰りたくなったら、この場所まで戻る必要があります。ただここは特別な場所なので、ここまで戻るのに一年はかかると思います」
「やる気になってから言うのやめてもらっていいですか」
そうして魔王討伐に出発した俺はとにかく急いだ。春休みが終わるまでに、なんとしても魔王を倒さないと。
驚くべきは本当に全ての魔物をワンパンで倒せたことだ。でも戦闘能力は高くても、移動まで速いとは限らない。魔王のところへたどり着くだけでも時間がかかることなんだ。まさに
それからの俺は少しでも時間短縮をするため、鍵という鍵をぶち壊し、宝箱という宝箱を全部ミミックということにしてスルーし、魔王討伐に関すること以外の会話という会話をせず、多分どこかにいるであろう仲間と会うこともなく、一人で魔王のもとへたどり着いた。
魔王軍の四天王ですらワンパンで倒した俺にとって、もはや魔王は敵ではなかった。唯一ツーパンだったのはさすが魔王といったところ。魔王を倒すと邪悪な力が消えたようで、すぐに女神様のもとへ戻ることができた。
こうして無事に異世界を救った俺は、女神様から多大なる感謝をされて元の世界へと帰って来た。その日付は春休みの最終日だった。
その翌日には学校が始まった。結局、春休みは全部異世界で過ごす羽目になってしまった。
クラス替えの結果を確認してから二年生の教室へと入る。俺と仲がいいメンバーを見つけて、とりあえずは一安心。
そして教室の中に一際目立つ金髪の美少女がいる。どこかで見たような……。しかも最近。
忘れるわけがない。昨日会ったばかりだ。その美少女は俺を異世界転移させた張本人、女神様で間違いなかった。
女神様も俺に気がついたようで、少し離れた俺に向かって手を振り、口を開いた。
「シュラトー! 来たよー!」
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