第18話 神々の王




 ――サクラ一度目の人生・2054年11月12日――



「ぅぅ……」



 目を覚ますとそこは瓦礫と土砂の残骸が広がっていた。



「そんな……」



 その日......世界の山頂で人類は絶滅した。

 かつて世界の頂とされたエベレストには、信じられないような風穴が空いている。


『人間』という種は完全に敗北したのだ。



「どうして......どうして私だけ......」



 怪異達はナンバーズから優先的に殺した。弱い私など後回し......

 崩れた瓦礫の下で気絶した私は、そのまま見逃されたのだ。



「誰か......誰かいないの?」



 ひたすらに冷たいエベレストの吹雪の音だけが告げてくる。


 ......お前が最後の人類だと。



「月乃ちゃん、私……勝てなかったよ。頑張ったけど……ダメだったよぉ。」



 大好きだった......彼女の笑顔がたまらなく好きだった。

 この地獄のような地球の中で、彼女だけが私の月明りだったのだ。



「もう一度......もう一度だけ......」



 月.....彼女を象徴する言葉。

 私は朦朧とした意識の中で漠然と思い立つ......最後に月を見たいと。


 地球で最も月に近いのは......エベレストの山頂……

 とにかく月に近づいていたかった。


 バカだ......月はただの衛星であって月乃ちゃんではないのに......

 そうして傷だらけの体をむち打ち、エベレストを登る。



「......ヒラリーステップかぁ。」



 そこは1999年以前は多くの登山家が命を落とす、最後の難所として恐れられた。

 しかし……この世に異能が発現してからは、ただの崖に成り下がってしまった。



「私が......ここを上がる最後の人類になるんだね......」



 私はヒラリーステップを『異能』で難なく駆け上がった。。

 これまでの人類の軌跡を確かめるように......大切に踏みしめて。



「お月様......人はもうあなたを見上げる事はありません。どうか......人間亡き後も太陽と共に世界に光を......」



 しかし……突然声が聞こえる。



「ん〜む。まぁ実際のところ月は光ってないのだがね。」




 しかし地球最頂のそこには......先客がいた。

 何を隠そう「FCT」序列5位『観測のゼニス』だ。



「ほう?予定調和の外には出ているな。私の範疇は超えていないが。」


「あなた......何者?もしかして人間じゃ……」


「全ての頂だよ。この世界全ての頂点。」


「......頂?」


「かつて創った世界ではこう呼ばれた事もあった。『初代全神王』とな。」



 意味が分からない......頂ならどうして私達の中に紛れていた?

 どうして私の仲間や、月乃ちゃんはあんな死に方をした?



「全ては安寧の作る、因果の流れの中にある。」


「え?」



 心を読まれた!?



「最もオリジナル世界には、再現しきれない存在もいるがな?君の友達の月乃も、その内の一つだな。」


「ど、どういうこと?」



 しかし……彼は答えない。私の話など何処吹く風で自分の話をし始めた。



「予定調和から僅かとはいえ外れたのだ。何か祝福をやろう。何が欲しい?」


「ふざけないで。こんな……こんな世界で?あったって意味無いよ!!だったら……だったらもっと早く!世界を助けてよ!月乃ちゃんを帰してよ!!」


「うーむ。オリジナルと比べるとかなり末端の軸だからな。にしてもやはり地球は誤差が小さいな。」


「さっきから何言って……とにかく!!もう何もいらない。私は……最後の時間月を見上げて死にたいだけだよ……だから1人に……」


「ほう?なるほど。では……」



 その後……初代全神王と名乗る人物は衝撃の言葉を吐いた。



「やり直す能力なんて言うのはどうだね?」


「え?」


「過去軸に舞い戻る力だよ。今の力を持ったままね。」


「そんなこと……可能なの?」


「私に不可能はない。」


「戻……れる?やり直せる?全部?」



 月乃ちゃん……ラナちゃん……

「FCT」のみんな……エツコ先生。私が救えるの?



「あぁ。回帰後は私に協力は仰がない事だ。何せ次の軸に私はいない。」


「……行く。過去に戻る!全部私が変える!!」


「いいのだな?地獄だぞ?きっと何度も打ちのめされる。何度も心折られるだろう。それでも行くか?」


「やるよ……だから、私に力を!!」



 私の目は淡い希望に包まれていた。

 しかし同時に私は……自分の幸せの一切を諦めた。

 私の原動力は自分への憎しみと怪異への怒りだった。



「素晴らしい。だが一つだけ教えておいてやる。君は月乃の一番にはなれないぞ?」


「別にいいよ。」


「良かろう。では固有能力をやる。名前はそうだな……『死桜・舞戻り』だ。」


「黒い……紋章?」



 私に漆黒に近い紋章が刻まれた。

 曰くこれは固有能力ではなく、副次効果らしい……


 あぁ……目の前にいるこいつは本当に全能なんだ……



「私が友の灰もこんな気分だったのだろうかね?まぁいい。その能力は諦めた時点の人生で消失する。忘れるなよ?」


「分かった。」


「では私は帰るとするよ。愛する小鳥も待っている事だ。それに閃く光の来客もいる。」


「え?帰る?どこに?」


「私の世界。起源樹の世界さ。」


「起源……樹?」



 そうして頂きは地球の頂から立ち去っていった。

 私は月を見ながら自身の死を待つ。


 しかしそれは先程のような最後の願いではない。

 今、月を見ている理由は誓いなのだ。



「今度こそ……今度こそ全てを変えてみせる。」



 そして1度目の人生、私はエベレストの山頂で……


『凍死』した。








 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


 どうもこんにちわ。G.なぎさです!

 第18話をここまで読んでくださりありがとうございます!


 サクラが味わった最初の人生......人類は滅亡した。

 そして出会ったのは天上神界を作った伝説の頂点者『初代全神王』


 全能を超えた存在に戯れに与えられた祝福で、サクラは地獄の人生を歩みだす? 


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をしてくれると.....超嬉しいです!!

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