怪記 

いち。 

 夫はちょうど10年前。亡くなった。

あの頃のことを思い出すと現実だったのか。そうでなかったのか。そうでなかったと思い込みたかったのか…とぐちゃぐちゃと頭をかき乱すような感情がぐちゃぐちゃとわきでてくる。

あのとき。なにがあったのか。

     なにを間違えたのか。

   "ナニ"が私を支配していたのか…




 亡き夫と結婚する前、私はのどかな小さな町の建設会社で働いていた。

夫は、新入社員として入ってきた私に仕事を教えてくれる先輩だった。

優しくまっすぐな夫に私は惹かれお付き合いし結婚した。

仕事ひと筋。だけれど家族にも愛情を注いでくれる優しい夫だった。

仕事を頑張ってくれたおかげもあって夫は念願の起業もできた。

企業したあと、少しお金に困る事もあったけれど私たちは力を合わせて家庭と仕事をこなしていった。

事業も落ち着いてきた頃、娘は大学へ行き、息子は学校の部活でいそがしくなり2人の時間が増えた。

 終わりは突然だった。

 ある朝起きると。

 夫が息をしていなかったのだ。

 急いで救急に連絡し、いろいろなてを尽くしたが…

 夫は帰ってこなかった。


 それからすぐ。

私は、夫の代わりに社長となった。

初めはわからないことだらけだったが、夫が築いてきた人脈や社員さんたちのおかげでなんとか会社を切り盛りしてこれた。

娘や息子たちはそれぞれの夢や目標に向かって頑張っている最中。


 お母さんも負けてられない。


なんて自分に言い聞かせながら毎日仕事をこなしていた。

そんな目まぐるしくも必死に業務をこなしていたある日。

新しい社員募集を見て連絡してきたという男性から会社に電話がかかってきた。

男性の声は丁寧ながらもハキハキとしていて電話は短時間であったが、不思議な魅力があった。


 当日。面接会場に来た人物を見て静かに息を呑む自分がいた。

隣に目配せをすると隣の面接担当の男性社員も思ったのか目を丸くしていた。

就活生らしい装いであるが、顔は小柄で鼻筋の通った美男。すらっとした背丈に馴染んだスーツを着こなし、頭から指の先まで完璧に整えられた姿はまさにどこかの有名ブランド雑誌からでてきたような美しさだった。

社長室のドアを開けて入ってきた事を疑うような完璧な立ち振る舞いに面接担当の社員さんと目を合わせ、もう一度就活生を見るといった失礼なことをしてしまった。

気を取り直し、面接を行っていく。


面接をしていくうちに就活生はリラックスし始めたのか質問に対してスラスラと答え始めた。

面接会場は笑いに溢れ、こちらまで楽しい思いをしていることに気づいた。

面接終了後、面接担当の社員さんと話をして採用を決めた。

正式に働いてもらうのは合格通知を出した次の月からだったが、正社員になる前にボランティアでもいいから経験をさせてほしいと言われた私は社員達と話し合った後、期限付きアルバイトとして雇うことにした。


 就活生の名前は 真栄原拓夢まえはらたくむ

地元の有名大学卒業後に一度就職しているが、働くうちに何か別のことに挑戦したいと思いが募っていた時に私の会社の求人が目に入ったとのことだった。

…ここまでは就活生のテンプレートだろう。

後に、ここに就職した決め手を「社長には話せる気がする。」と話てくれた。

真栄原が大学生だった頃。大学生向けの就職セミナーに参加した際、私の夫から働かないかと誘いをもらっていたという。その時は別のことをしたくて断ってしまったそう。

だが、断ってしまったあとも親身になって話を聞いてくれたり、事業について話してくれたりととても親切に接してくれたと笑顔で語ってくれた。

こんな親切にしてくれた方のためにも頑張ろう!と決めて働いていたが、体調を崩し退職に追い込まれてしまった。

そんなとき、夫の会社の求人を見て働こう!と思い、面接を受けたと話してくれた。

きっとアルバイトからって言うのも早く仕事を覚え、職場の一員として今はいない夫を思って働きたいと考えてくれたのかなと思ってしまった……


それから数ヶ月。正社員となりバリバリと仕事をこなしてくれる様になってきた頃。

何か用事をつけて真栄原まえはらは私の側にいることが多くなった。

初めは息子が一人増えたような気持ちで接していた。 

だが、仕事を通して少しづつ。少しづつ。真栄原からの優しさを感じるたびに距離が縮まるような心地があった。

そのうち、私は真栄原から視線をずらす事が難しくなっていった。

夫に先立たれ。娘、息子とは忙しくなかなか会えない日々。

私の話を聞いてくれる唯一の存在が真栄原になっていった。

でも。これはいけない。周囲の社員さんたちは

「また社長さんに懐いて。はっはっは。」

なんて笑っているけど私にも立場がある。


 そして。真栄原には奥さんがいる。


私は。真栄原に距離が近い事をそれとなく伝えた。

あまりいい顔はされなかったもののその後、必要以上に近づく事は少なくなっていった。

だが。私の目は…真栄原を追ってしまっていた。

自分から遠ざけたはずなのに…


 幾日か過ぎたある日。

それは台風とも間違えそうな大雨が降った日。

私は、一人残り仕事をしていた。

社員は、早めに帰して私にできる仕事を教えてもらい作業をしていた。

分厚い雲のせいで外は薄暗かった。

時折大きな雷がなり、その度に身を縮めるしかできなかった。


その時。会社の玄関の鍵が開く音がした。

ひたっ。ひたっ。と ナニ かが歩いてくるおとがする。

外はいまだに雷の音が聞こえる。今はそれどころではない。

ひたっ。ひたっ。という足音は私のいる社長室へ向かってきている…

ひたっひたっひたっ。

社長室の前で止まった。

私はドアから目を離さずすこしづつ防犯用の刺股さすまたに近づいた。

ガチャッと扉が開いた瞬間私は刺股を握りしめドアにむけた。

「スッすみません。真栄原…です。」

真栄原は両手を上げて降参するようなポーズで立っていた。

私は、ホッと安堵し膝から崩れ落ちた。

「はぁ。良かった…真栄原さんね…」

真栄原は床に崩れ落ちた私へかけより手を握り立たせてくれた。

なんて…冷たい手…駐車場から傘もささずに来たのね…でもなぜ…?

「…なんであなたがここにいるの?」

真栄原は少し頭を掻いた後少し照れくさそうに

「ケイタイ…デスクに忘れちゃって…急いで事務の部長さんに電話して鍵借りたんです。ケイタイとったら帰ろうと思ったんですけど…社長室の電気が付いてるのに気がついて消して帰ろうと思ったんです。あと…社長…いないかなって…ちょっと淡い期待もあったんですよね。ははっ。…キモいですよね。俺。」

…私は。真栄原を見ながらどうしようもない感情にさいなまれていた。

私に照れくさそうに笑うこの人はどうして…

気づいたときには私は真栄原を抱きしめていた。

ハッと気づき離れようとするが身動きできない。

いつの間にか私の腰には真栄原の手が回されていた。

必死にもがき離れようとするが。離れることはできなかった。

流されるまま流れるままに私は求めてしまった。

 どうしようもない。どうしようもない。寂しさ。愛しさを埋めてしまった。

 

 それから私たちは秘密に会う仲になってしまった。

どんどんと募っていく想いに押しつぶされそうになりながらも私たちの関係は続いてしまった。


 ある日の休日。私は、いつも通っている美容室へ行った。カットやシャンプートリートメントなど終え、店を出たとき。

…みてしまった…。

店の向かい側にある歩道を仲睦まじく歩く若い夫婦。自分の奥さんに笑いかけるその顔。真栄原だった。奥さんは少し膨らんだお腹を擦りながら大事そうに慈しんでいる。

真栄原も同様…


 私は咄嗟に近くのカフェに入り2人と鉢合わせないようにした。

カフェのガラス窓から見える若い二人の姿をじとっと追いかけた。

あんな表情。私は…見たことが…

買ったコーヒーカップに映る黒く淀んだ私。

はぁ。恨めしい…

私の手のひらはいつの間にか筋張り…若さのかけらもない。

恨めしい…はぁ…恨めしい…

奥さんが…恨めしい…


 私はハッと我に返った。

何を考えているんだ。バカバカしい。

そもそも。あの状態が正常なのだ。

私が…雨の日にあんなことをしなければ…

私はコーヒーを飲んだ後、少し落ちついてから帰ることにした。


「ただいまぁ…」

 家に帰っても誰もいない。

娘から友達の家に泊まるとメールがきた。

息子は部活で遠征に行っており、遠征先で合宿もするため、まだ帰ってこない。

少しため息を吐きながら冷蔵庫を漁る。

娘が作ってくれたおかずと冷凍していたご飯を温めお湯だけで作れる味噌汁を作ってからたべた。

夫が生きていた頃はみんなで食卓を囲んで大皿に作ったおかずや炊飯器で炊いたご飯、お出汁の効いたお味噌汁…遠い昔のよう…

 あぁ。あの若夫婦。真栄原夫婦は今頃…

恨めしい…恨めしい…恨めしい…

真栄原は私に言っていた。


「妻は。気難しいところがあって疲れてしまう事もありますが、社長には。甘えてしまいます。」

「妻とはなかなかこういうこと…話せないし…できないし…すみません。弱音吐いちゃって…」

「妻との関係を考え直そうとか思っているんです…」


そう 言っていた じゃない 私に 甘えてくれた… あれは 嘘 ? 嘘じゃない 

言って。

恨めしい  恨めしい  悲しい 


 気づくと机にポタッポタッと水たまりができていた。

ご飯を食べながら泣いてしまうなんて。涙を拭いながら片付けを始めた。

これはだめだわ。

切り替えなきゃ。今日は早めにお風呂に入って寝ましょう…

私は食器洗いなど済ませたあとお風呂に入りベッドに入った。

だが、その日は不思議な夢を見た。


 何故か真栄原の奥さんが眠る寝室のベッドの足元が見える。

関係があったときでさえ行ったことも無い部屋。

薄暗い室内に2人分の寝息とまるで獣のような荒い息が聞こえる。

布団へ視線が向けられると…少しはだけた掛ふとんからスラリとした足がみえた。

はぁ。憎らしい…

真栄原の奥さんの足首…スラリときれいな足…羨ましい…

気がつくと手が真栄原の奥さんの足首をギリギリと掴んでいた。

細い真っ白な艶のある足がどんどんと窮屈に歪んでいく。

ほしい。ほしい…

真栄原の奥さんは足を誰かに握られている事に気づき

「痛い!痛い!足!なにかいる!」

と叫び始める。それにきづき足がつっただけだよ。と優しく諭す真栄原。

奥さんは、違うだのなんだのと喚いていたが、真栄原は奥さんに優しくよりそうように肩を抱きさすりながら優しく語りかけた。

「足。痛いなら見てみよう。」

真栄原の手が奥さんの肩を離れ私の方へ近づく私は驚き手を離した…


 ピピピピピピ…

目覚ましがなる。大きなあくびをしたあと

少し体をのばす。

なんだか少し体が重いような…

まぁ。いいか。

私は出社の準備をし出かけた。

その日も卒なく仕事を済ませた。

会社での仕事終わり。個人用の携帯でメールを確認する。

いつも来ていた真栄原からのメールが来ない。

今日も。次の日も…その次の日も……

私は待ち続けたが来ることはなかった。

そして会社でも真栄原と会えなくなることが多くなっていった。

どうして…どうして…

結局待つこと一ヶ月ひとつき。メールは来なかった。

…私は…

もう諦めなければ。この想い。抱え続けるのはこの年ではしんどい…

そう思うようになっていった。

それに…真栄原の奥さんを裏切っている。

やめよう。やめよう。


 その日の夜も夢を見た。

真栄原の奥さんの髪を鷲掴み、廊下をズリズリと進んでいる。奥さんの口や鼻は紅に染まり、抵抗することもできないような有り様だった。

か細く時折聞こえるのは

「たすけて」のみ。

奥さんを引きずりながら真栄原の家を徘徊する。

玄関へ来たとき。靴棚の扉に備え付けてある鏡が目に入った。

髪を振り乱し、眼光鋭くこちらを見つめる…

みすぼらしい女…

…これは誰?

私じゃない… 私じゃない… 私じゃない…

誰…? 誰? だれ? だれ? だあれ? だあれ? だぁれ? だあれ? 誰?


…それは…



      あんただよ。




 私は飛び起きた。

全く…なんなの…最近…

寝たのか寝ていないのかわからない…

最近の夢…妙にリアルなきがする…


 そんなことを考えながらも私はまた仕事へいく。 

仕事の休憩時間。給湯室へ向かうとそこでヒソヒソと話をする女子社員4人がいた。

「最近、真栄原さん。奥さん妊娠してめちゃくちゃ頑張らなきゃって張り切ってるよね〜。外回りも多くなっちゃったみたいで。」

「そうそう。かなか会社にいないから話もできない。」

「ていうかさ。知ってる?噂。」

「えっ?」「しらなぁーい。」

「社長と真栄原さん…浮気してるらしいよ。」

「えー?どこ情報よ〜。前は、社長に懐いてべったりだったけど今はそうじゃないでしょ?」クス…

「それが逆に怪しいんじゃないかって。うわさ。」クスクス…

「いや。でもさ。社長と真栄原さんって年離れてるじゃん。ありえないって。もしそうなら笑える冗談でしょ。社長なんだから立場を…ねぇ〜」クスクスクス…

「ははっ。たしかに。」


クスクスクスクスクスクスクスクス…

ざわざわざわざわざわざわざわざわ…


 私は手に持っていたカップを落としてしまった。

音に気づいたのか給湯室からわらわらとでてきた社員。

「あっ、社長すみません。どうぞぉ〜」

社員達は給湯室からでていった。

気まずそうな顔。噂を楽しむ顔…軽蔑の顔… 


    ……見下した顔……


その日はどこまで何ができたのかわからないまま終わってしまった。

宙ぶらりんのまま私は布団に入った枕を顔に押し当て泣き叫んだ。

終わりにしたい。終わりにしたいのに。

あのときあの日の事を思い出しては胸が裂けるような…

私は子どものように泣いてしまった。

もうやめよう。

もうやめよう。

真栄原は私を捨てた…何にもない私を捨てた。

そして…奥さんは……


 その日も夢を見た。

昨日と同じ夢。真栄原の奥さんの髪を引っ張り引きずる夢。

ズリ…ズリ…奥さんはお腹を庇うようにしている。

それを見てぐらぐらと沸き立つ感情を髪を引っ張る手に込めた。

ブチブチブチブチチッ…

シワのよった醜い指の間には奥さんの艷やかな黒髪が…

痛みに耐えられなかったのか奥さんは悲鳴をあげ…


 また。あの夢だ。

私は目をつぶり頭を抱えた。

私の見る夢はどんどんと黒黒くろぐろと濁り始めている。

そして、どんどんと現実に近づいているようなきがする。

私は手で顔を触った。その瞬間ふわっと嗅いだことのある香りが鼻先を通った。

えっ?…どういうこと??

どうして…?

私は、手から香るほのかなシャンプーの匂いに気がついた。

私の使っているものではないシャンプーのかおり…

真栄原と同じ香り…

なぜ…?どうして…

…真栄原が恋しいあまり?…幻覚?妄想??

もう一度手を鼻に近づける。

まさか。あの夢…いやまさか。違う違う…

窓や玄関の鍵は締まっていた…

靴も出した形跡はない。

夜に出るなんてことはしていないはず。

……。

こんな夢や幻覚をみるほど追い込まれているなんて…

そうだ。一度。真栄原をみれば諦められるかもしれない。

…そうだ。

明日、会社の懇親会に出席しよう。

いつもは会社の皆さんで楽しんでほしいと会場と予算を渡しているだけだったが

懇親会中なら話しかける場面も自然だし冷静に見ることができるかもしれない。

そうだ。そうしよう。そしてすぐに帰ろう。


私は、懇親会の幹事へ少しだけ顔を見せて最後までは参加はできないがよいか確認を取った。幹事は快く参加することを承諾してくれた。

当日はみんなに挨拶したら帰ることを伝えた。


そして懇親会当日。

私は、その日急遽入った来客の対応におわれ、遅れて参加をした。

お店に入った頃にはちらほら出来上がった人達が見られた。

私は、部屋の入口あたりに席を移動させてもらい座った。

私の座った斜め前の奥側の席に真栄原がすわっている。

少しバクバクとなる鼓動を抑えながら社員みんなに挨拶をしたり、会話に混ざったりと席を順々にまわっていく。

ついに真栄原のいる席にたどり着いた。軽い世間話をして立ち去ろう。

そして終わりにしよう…

私はそんな思いで声をかけようと声を出そうとした時…

後ろから声がした。

「社長ーー!そんな真栄原ばっかりかまったら"いい関係"なのかなぁ?とか思うじゃないですかぁ〜」

一瞬空気が止まった。

だいぶ酔いの回った社員。もともとお酒に弱いが勢いや雰囲気にのまれて飲んでしまったようだ。

私が声をかけようとしたとき。

「年を考えてくださいよ〜まぁ。給湯室での話題はこればっかりなんでぇ〜私達は話題に困らないんですけどぉ〜」

私は周りをみた。

何が起こったのかわかっていない社員の中にちらほらと目を合わせずブスっと下を向いている社員がいる。

まるで巻き込まれないようにしているようだった。

もちろん給湯室で鉢合わせた社員も。


私は必死に平常心を保った。


「そんな話はここでするべきじゃないわ。

 真栄原さんは今お子さんが生まれるっていう大事な時期よ。

 冗談でも言うべきではない。

 まず。その噂はどこからでたの?」

「えっ?いやぁ…」


私が言葉を返すとは思っていなかったようだった。

しんっとした空気から酔っ払った社員を諌める雰囲気になった所で私は帰った。


 帰ってから私はベッドに身を投げた。

後からぐらぐらと湧き上がる言葉にすることもはばかれるような感情に…

やり場のない怒り。悲しみ。憎しみ。

こんなことになるのなら。こんなことになるのなら…


私は気づくとまた眠っていた。


 ぐらぐらと沸き立つ感情を抑えることもできない。顔は歪み。目はぎらぎらと血をたぎらせる。顔を触れば口は耳までさけようとしている。

額には骨が隆起りゅうきしたような硬く鋭いものが生えているようだった。

恨み恨めしい。悲し悲しき。

ああ。これほどか。これほどか。

忘れる事も許されぬ。

ああ。ああ。私はズリズリと足を引きずりながら来た道を歩く。体は熱をおび、口から吐く息は白いもやのように夜に溶けていく。

眼光は鋭く。闇夜にふたつ。不気味に光る。

あぁ。あぁ。遠くから声がする…

そちらへ行こうか。行こうか。


 目の前には酒の席で小馬鹿にした酔っ払いども。

「社長の顔。見た?いやーおもろっ一瞬めっちゃ歪んで見えたよ?いつも化粧できれいにしてる顔が台無し!なんか気に食わないんだよね〜夫が亡くなりましたが。皆様のおかげで成り立っています。だって~じゃぁ、もっと感謝見せてもらっていーですかぁーって。しかもよ。真栄原さん社長ばっかに行くじゃんか腹立つぅ〜〜〜!!」

はーははは

クスクスクスクス

やめてよーー

はははははははははははははははははははは


…まだまだ愚弄ぐろうするか貴様ら。

ずりっずりっと社員共の背後へ近づく。

はぁ…はぁ…呼吸荒くこの中で一番の戦犯である此奴こやつの肩に手を置いた。

「はぁ?誰?」

「ちょっ。ヒッ。」

周りの社員が気が付きざわめく。

ああ。この顔。だわ。

「だっ…誰か…だれっ…か…」

か細い声で助けを呼ぶ。周りの奴らは酒も入ってか足が言うことを聞かず尻もちをつく。

肩を触られた戦犯はガタガタと震え始める。こちらを観ることもできないようだ。

そうしている間に肩へ置かれた指が食い込み始める。

はらはら。小枝を折るようだ。

じわりじわりとにじむ紅をみて溢れ出る唾液をゴクリと飲み込む。

バリバリバリバリ…

何かが砕ける音がする。

パッと手を離すと戦犯は人形のように倒れ、ピクリとも動かない。代わりに口からは泡を吹き始めた。

周囲の社員は近くを通る通行人へ助けを求める。

だが、通行人は煙たそうに掴む手をはらいのける。

「何いってんだお前ら!酒飲みすぎて何見えてんだ!迷惑だ!警察呼ぶぞ!」

「動かないで!今警察呼びました!」

「救急車!一人泡吹いてんぞ!!急性アル中だ!!」

周りは大騒ぎ。

まさに阿鼻叫喚あびきょうかん

ふっふふっ。ふっ。

ははっははは。


 ああ。体が、重い。重いわ。足が地面に埋もれていくような…

ずりっずりっずりっずり。

いつの間にか夢にでてきた建物の中にいた。

真栄原の自宅…

目の前には月の明かりを浴びながら私の方をじっと見つめる黒髪の美しい女が立っていた。

お前は…お前は…

「真栄原の妻です。」

お前さえ…お前さえ…

「あなたが。夢に出てきていた方ですね。あなたに言わなければならないことがあります。」

私は眉をヒクリと動かした。

「真栄原と付き合うのはやめにしたほうがいい。」

その瞬間女に掴みかかった。

地から這い出るような声で語りかけた。

「何を今更。お前にはわからないだろう。この身を焦がすような未練…悲しみ…がぁ…」

女は目をそらせることもなく淡々と話し始めた。

「あなたは立場がある。こんなところで化け物に成り代わっていい人でない。」

「ほう。お前も奴らのように私をバカにするのか…?」

女は首を横に振り否定した。

「あなたはこのまま元の体に戻ってください。そして、朝の新聞でもいい。ニュースでもいい。見てください。」

女の目は嘘をついているように見えなかった。

そして。女の部屋には真栄原の姿は無かった。

思い返せば、夢を見てここに来るとき…ほとんど真栄原はいなかった。

夜中。身重の妻を置いて…真栄原は…どこに?

初め見ていた夢には真栄原はいた。

でもそれ以降の夢には?あれ?……??

女からゆっくりと離れた。

……体がカタカタと音を立てる。

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ

女は念を押すように

「絶対に見てください。」


 私はバッと布団から起き上がった。

今日は休みだったがだいぶ早く起きてしまった。

重たい体を引きずりながら、テレビをつける。

何も変わらないニュース番組をダラダラと見つめる。

娘が降りてきた。あくび混じりにおはようを言ったあと冷蔵庫へ向かっていった。

息子は練習に行ったようだった。

ニュース番組はクイズコーナーが終わった後急にシリアスな話題へと切り替わった。


"続いてのニュースです。児童買春・児童ポルノ禁止法の疑いで逮捕・送検された

自称会社員 真栄原拓夢まえはらたくむ容疑者(30)。

人気ひとけの少ない通学路を歩いていた当時15才の少女に、モデル事務所の関係者を装い声をかけ、ホテルへ入り少女に裸になるよう指示をし写真をとるなどの淫らな行為を行った疑い…"

"妻が夫の異変に気づき、夫のパソコンを確認したところ推定15歳〜50歳前後の女性らの淫らな写真が複数枚発見され警察へ通報し、事件が発覚した模様。"

"写真など外部への流出は今のところ確認されていないが、今後も詳しく捜査していく方針…"


 私は。画面から目を動かせなかった。嘘。嘘よ…


「うわ。こいつ気持ち悪りっ。イケメンでも無理だわ。クズすぎ。」


娘の言葉にハッとした。

そうよ…無理よ。こうなったら。

いや。こうなる前からむりだった。

何かがスッと落ちていくようだった。

おもい鉛がスッと落ちていく。

「…お母さん。ちょっと出かけてくるわ。」

「えっ!買い物?」

「会社にいかなきゃ…帰ってきたらいこうね。」

私はぶすーっとむくれた娘を見て少し笑った。


 休日だったが、各部署の部長達にすぐに会社へ来てほしい事を伝えた。

会社に到着した際にはもうマスコミの取材や電話が鳴り響いていた。

マスコミに何か聞かれたかどう答えたのか情報共有を行っていると、他の社員達も出社してきてくれていた。

ほとんどの社員が集まったところでクレームや取材の対応について決めた。

 あらかじめ文言を決めて対応させていただくこと。

こちらもまだ、知ったばかりで何もわからない事。

働いている際の本人の様子を聞かれたら当たり障りなく話をすることを決め、業務を行った。

ひっきりなしにかかってくる電話。

中には、ばーか。や淫乱社員が!などの電話もあったが真摯に向き合い続けた。

その間に警察の方が来て社内の調査も行われた。

 日が暮れた頃。やっと落ち着いて来たところに一人の女性社員が駆け寄ってきた。

「営業部長の…どうされましたか?」

営業部長は深々と私へ頭を下げた。

「えっ!どうしたの!?」

「昨日の飲み会では部下が失礼な態度をしてしまい、申し訳ありません!」

ひくっと体が跳ねた。私は平静を保ち声をかけた。

「あぁ。あなたは謝らなくて良いのよ。私が帰ろうとした時、奥の方であの社員を注意してくれていたのよね。ありがとう。私にも非があるわ。周囲にあの男性社員との誤解を生むような接し方をしてしまっていたんだから…今後。このような事が無いように…」

私はふと気になった。

「そういえば。あの後、本人達はどうしているの?まぁ。今日は元々休みで来ないにしても…」

「…社長。新聞読まれましたか?」

「…いえ。見てないわ。」

営業部長さんは自分のデスクに戻った後新聞を持ってきてくれた。

営業部長さんが指さした小さな記事には…

 "繁華街で泥酔した女性4人。路上で通行人に掴みかかり、奇声をあげるなど暴れているところを逮捕され、一人は急性アルコール中毒による意識消失後、倒れた場所が悪かったのか肩の骨を折る重傷。4人の命に別状は無いが、錯乱状態であり、事情聴取がままならない状態である"

ということが書いてあった。

営業部長さんは記事を見ながらすーっとため息をついたあと話しはじめた。

「この社員達は先代の社長がご存命のときからお酒が入ると気が大きくなる事が多く、何度も注意をしたり、お酒をお茶に変えたり、飲み会自体に呼ばないようにするなど対応していました。ですが、パワハラだ!モラハラだ!傷ついた!などあることないこと言いふらして、挙句の果てには親まででてくるような事態になる事もあって…

先代の社長がその都度抑えてくれていたのですが…

先代の社長がお亡くなりになったあとから徐々にタガが外れてしまったみたいで…

その状態の時に、真栄原さんと親しく話をする社長をみてしまったみたいで。彼女たちの標的になってしまったようです。

私達の指導不足で申し訳ありません。」

私は、営業部長さんに頭を下げた。

「ごめんなさい。私がもっと…しっかりとしていれば…あなたは謝る必要はないわ。あなたに責任を負わせすぎてしまっていた私を許さないで…顔を上げて。あなたはよくやってくれています。私がしっかりと注意をしなければいけない場面をあなたが担ってくれていたのですね…」

部長さんは少し涙目になりながらも私に謝ってくれた…

ごめんなさい。あなたは…何も悪くないのに…


問い合わせやクレームの電話は鳴り止むことはなかったが、社員には一度家に帰ってもらうことにした。

社員全員を帰したあと私は社長室へ向かった。

引き出しに入れていた夫の写真を眺める。

「ごめんなさい。あなた。ごめんなさい…私…」

私は鳴り響く電話を取ることもなく

泣き続けた。電話の音で私の泣く声はかき消された…


 私はまた…

夢へ落ちた…

また真栄原の部屋の中。

そして気づくと玄関の中に立っていた。

靴棚の鏡には以前の化け物ではなく

私が写っていた。

廊下を進むとまた奥さんと会った。

奥さんは口元にフッと笑みを浮かべ私に手招きをする。

近づき、奥さんの近くにあった椅子に座った。

奥さんは私の方に目を向け優しく微笑んだ。

「朝。見ましたか?」

私はコクリと頷いた。

「毎晩夢に出てきたあなたを初めは恐ろしいと思ったんです。疲弊していき辛いとも思いました。だけど。よく顔を見ると悲しみの表情を浮かべ、最後はいつも肩を落としながら消えていくんです。なぜだろう。なぜだろう。と考えました。…正解じゃないかもしれない。だけど思いました。この人は誰かに止めてほしかったんだって。だから、私の夢に出てきた。」

私は、奥さんの方を見ました。

奥さんは静かに涙を流しながら語っていた。

その涙は拭われることもなく。ひとつふたつと落ちていく。

「私も…あなたも…真栄原に騙されていたんです…どうか。どうか。追い詰めないで。私も…強く生きますから…」

私はその言葉を聞いた瞬間。床に頭をこすり、奥さんへ謝り続けた。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

こんなのでは足りない。私のせいで心労絶えなかった…

ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…

奥さんは、私の背に手を置いた。

「いつか。ここの外でお会いしましょう。」


 ハッと体を起こした時、社長室の中だった。

私は泣きながらソファに顔をうずめ寝てしまっていた。

私は、ふらふらと社長室の机へむかう。私の一番見える位置に夫の写真を置いた。

机に夫の写真を置くと弱音を吐いてしまいそうだと思い、ずっと引き出しに入れていた。

前を向かなくては。今度はみていて。私、強くなるから。


 次の日から怒涛の日々が、始まった。

泥酔社員達は会社にいれないと感じたのか退職届を持ってきたあとは会社に来なくなった。そして真栄原は取り調べを行った際に何度か無罪を主張したようだったが、証拠もあるため判決は次の裁判の日を待つと風の噂で聞いた。

この5人分の穴を埋めるためにも必死に仕事に取り組んだ。

そして、業績も持ち直した頃。私は、決心をした。

その決心を打ち明けた時、社員達は驚いていた。

「社長を辞任する。」「うそ。」「どうなるんだ会社は…」


ざわざわとする社員達。

「後を継いでくださる方を見つけています。今後は私とその方と社員のみんなで会社を回していきます。不安を感じるのも承知です。

できるだけ不安は、私達に話をしてください。お願いします。」

私は社員へ頭を下げた後、新しい社長を紹介した。

「今までは営業部長として頑張ってくれました。ですが今日から社長補佐としてゆくゆくは社長として頑張っていただこうと考えています。この決定は各部署の部長とも話し合い、決定致しました。皆さん。よろしくお願いします。」

わっと、社員全員から拍手が巻き起こった。

私は営業部長の肩をポンと優しくたたいた。

初めは不安な様子だった部長に少し笑顔が戻った。

「これから。よろしくね!気合い入れ直して頑張りましょ!」

「はい!」

 この日は社長業務の引き継ぎで1日が終わった。

引き継ぎと言っても、私が社長になってからずっと手助けしてくれていたのでかなりスムーズだった。


ふうっと社長室のソファーに腰掛ける。

「ありがとうございました。社長。お茶を淹れました。粉溶かしただけですけど。」

「十分よありがとう。」

私は、手招きをして座るように促した。

何か少し迷った後椅子の端に座っていた。

私はふっと笑いながら。

「あなたと私はいま、同じ立場。何か聞きたいことがあるなら聞いていのよ。」

彼女はハッと顔を上げて少し考えたあとそろそろと話しはじめた。

「どうしていきなり社長を辞めようと思ったんですか?」

私は、少し悩んだあと話しはじめた。

「私は…人生最大の過ちを犯してしまった。いろいろとかき回してしまった私はもう。潮時だと思ったの。今働く社員のため、家族のため…亡くなった主人のため…そんな風にしてきたつもりになってかき回して。そんな隙間に漬け込まれて…漬け込んで…いろいろ壊してしまった。そんな私がいてはいけないわ。そう思ってずっと悩んでいたの…

あなたには負担をかけると思う。頑張ってとはいわない。周りを頼ってみんなで前に進んでちょうだい。」

彼女はゆっくりと頷いてくれた。

「一緒に進みましょう。」

彼女はふっと緊張がほどけたように見えた。

「さっ。これを飲んだらまた仕事よ!」

「はい。」


 日曜のお昼すぎ。私は記憶を元に奥さん住んでいる家の前まで来ていた。

チャイムを鳴らそうと手を伸ばす。

「どちら様ですか?」

私は声をかけられた方へ顔を向けた。

子どもを一人抱いた女性が立っていた。

風が吹くと髪がサラサラと舞う。

美しい黒髪の…

「…奥さん…私…夢に出てきませんでしたか?」

自分でも何を言っているのかわからない。

伝わるのかもわからないが、咄嗟とっさにでてきたのはその言葉だった。

奥さんは顔色を変えずにドアの鍵を開け始めた。

「家…上がってください。」

私は無言のまま頷き中へ入った。

奥さんはむすこさんをお昼寝用のふとんへ寝かせ、愛おしそうにおでこを撫でた。

奥さんは冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、コップに継ぎ始める。

「適当に座ってください。今、お水持っていきます。」

私は、背の低い机の近くに座った。

お水を注ぎ終った奥さんが机にお水を置く。

「奥さん…」

そう言いかけた瞬間。

奥さんはポケットから折りたたまれた1枚の紙を出した。

奥さんは戸籍謄本を私に見せてきた。

私は内容を読み、驚き…手で口を覆ってしまった…

言葉がでなかった。

奥さんは実際よりかなり若かったことと…

「私…結婚してなかったみたいなんです。私…婚姻届…出す日に具合が悪くなっちゃって…彼…出しに行ってくる…って言くれた言葉を信じてしまって…私…馬鹿でした…その数ヶ月後妊娠がわかって…つわりもひどいし悪夢は見るし…でも、悪夢が私に教えてくれた。夫に別の女性がいることを。そして、いつも出てくる悪夢の中の女性はいつも可哀想で悲しそうだった。乱暴をする割には苦しそうにしていた…私は夢から覚めたあと真栄原の私物のパソコンを開き情報を集めました。正直…胎教には良くないとは思いました。でも。ここでしなきゃと思ったんです。写真の中にはあなたの写真は見つからなかった。だけどそれ以外の目を背けたくなるような写真が沢山見つかってしまって…そして警察に…」

奥さんはそれまで話したあと、一口水を飲んだ。

私は話を聞きながら…唖然としてしまった。

会社の個人情報は経理部長に任せきりにしてしまっていた…  

私は…ちゃんと社員の事を理解できていなかった…

経営だけを考え…社員を知ることを怠った…

私がしっかりとしていれば会社での取り返しのつかない事態だって防げたかもしれないのに…

そして…こんなクズのために奥さんを苦しめたのか…

奥さんは私を安心させるように言葉をかけた。

「一応、真栄原のご両親に話をしていろいろと解決しました。私の準備が整ったら真栄原のご両親が住む場所を準備してくれて、息子の育児に協力してくれるって話になっているんです…でも、まだ引っ越しの手続きとかもままならなくて…」


私は、話を聞いて少し引っかかった。

「…真栄原のご両親って何されてる方?」

「えっ。大きな土地を持った農家さんって聞いてますが…」

「偏見かもしれないけど…息子さん。もしかしたら…取られるかもしれないわ…一度電話させてもらえないかしら。」

奥さんに真栄原のご両親に電話をかけてもらった。

ご両親に電話が繋がったあと電話を代わってもらった。

「あっ、お世話になっております。真栄原が以前勤めていた会社のものですが。真栄原さん。禁固刑、罰金刑どちらになったかはわかりませんが…釈放されたらそちらに帰ってきますか?もしくは罰金刑だけでしたらもう帰ってきていますか?すみません。少し嫌な予感がしたもので。」


電話口から「チッ」っと舌打ちをする音がしたあと電話は切れた。


私は彼女の肩を掴み言った。

「うちにおいで。うちが嫌なら社宅に空きがあるからおいで。今の感じではここにきかねないわ。今、必要なものを集めて。私も手伝う。自分の着替え、自分のお金通帳。この子のおむつ…全部いれて。逃げるわよ。」

私と奥さんは家を駆けずり回り家具以外は全て持ち出した。

私は、タクシーの手配と社宅の管理会社に連絡をし事情を話し社宅を空けてもらった。

私は奥さんの肩に手をおき、言った。

「私はこんな事しかできない。一緒に逃げましょ!」

私達は、迎えに来たタクシーに荷物を入れ、急いで乗り込んだ。

「すみません!◯◯市◯◯までお願いします!」

タクシーが発進して少したった後、白い軽トラが私達が先程までタクシーを待っていた駐車場へ入っていくのが見えた。

…まだ。まだ。気づくな…

私は、念にも似た感情で祈り続けた。


 私達はまず、私の自宅へ行くことにした。

真栄原も私の家へ来たことはない。なのでわかるはずはない。

でも安全ではない。

奥さんに話をして今後どうするのか聞いた。

実家も特定されているし、友人達は真栄原の事を知っているがゆえに万が一の際に信用ができないと話していた。

私は。拒否されることを承知で話した。

「うちに住まない?何か良い方向に進める事が出来ると思ったらここから出たら大丈夫。当面の生活費は私が全てだすわ。」

「でも…」

「大丈夫。一緒に方法を考えましょう。」 

「…はい」


こうして出会いは最悪だったが…

私達は不思議な生活が始まった。

娘や息子には話せる部分だけではあるが伝えた。

初めは距離を取られることもあったが、奥さんの息子をみんなで協力して育てていくうちに家族が一つにまとまっていった。

そのうちに娘も息子も嫁や婿に行き、賑やかだった我が家が少し静かになった。

奥さんはまだ私の家で一緒に住んでいる。

今は「ごはん代や光熱費、家賃」を稼いで私に払いますと話てくれ、いつも多めに払ってくれる。

初めはいらないと突っぱねていたが、根負けして今は月々もらっている。

もらったお金は貯金をしている。いつか奥さんと息子さんが幸せに暮すためのお金にしてほしいから…



 いち。

        "生霊" 


                終わり。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

解説

この作品は、源氏物語に出てくる条御息所の生霊をモチーフに制作いたしました。

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