MMORPGに転生したらモブ幼女になって見たことないジョブ「ネクロマンサー」になってました。そんなあたしが神皇国皇帝陛下と崇められるまで!!

新山田

第1話 転生と黒いジャガー




死にかけた黒いジャガーに近付いた。


どうしてそんなことをしたのか、と問われれば、そうせざる得なかったからだ。


その選択を迫られた理由というのは、

草の茂みに背を屈めて、その外にいる獣の群れから隠れている状況を差す。


包囲網はどんどん狭くなり、その度に目の前にいるジャガーに近付くほかない。


どうしたモノかと考えてみてもここには、

銃も無く、ナイフも無く、それがあったところで結果はとくには変わらない。


だけど、この心細さを無くすには、実にそれくらいは欲しいところであった。


────────────────────


あたしの死因は、交通事故による大量出血だった。


(まさか……猫を助けて命を落とすことになるなんてね……)


考えるより先に体が動くことがとてつもない災いを引いてしまった。



人生はそれで終わるはずだった……。


だがどうだろうか。


目の前には焼けつくような日差しの中で、熱くなってひび割れた土を踏み歩いている。


確かに感じた人生の終わりと、この現実、それは結びつけるモノはない。


もしこの二つを繋げてなお、整合性を保てる答えがあるのなら、

転生したとか、そんな突拍子もないことに違いない。


それだけこの状況が理解しがたいものがある。


(それよりも、いま解決すべき問題は……)



肌を焼くこの日差しである。



(早急にどこか日陰をさがし、水分補給出来なきゃ、あたしは死ぬわね)











荒野の中でスポット的にできていた雑木林を見つけることができた。


(荒野のなかで草木が生えているところなら水がある確率は高い)


一縷の望みに賭けて背の高い雑草を掻き分けていく。


「グルゥゥ」


獣の喉を鳴らし声が聞こえ、反射的に身をかがめた。


(ほんと、災難ね)


四方より獣が鳴る。


(いつの間にか、獣に囲まれていたらしいわね)


……いまはまだ気づかれてはいないはず、この間になんとか脱出する道を探さないと。




そう思って糸口を探していたところ、黒い毛を纏ったジャガーに出くわした。


その姿に肝を冷やしたが、地面に横たわるばかりで襲ってこない。


力の無い黄色い眼に、脇から溢れる血が、その理由を示していた。


(だけど、まだ息はかろうじてあるわね)


風前の灯火ってところね、そう思い意識を再び茂みの外へと向けることにした。


「グルゥゥ」


喉を鳴らすその声はまた近づいてきた。


ジャガーとの距離はあと半歩のところまで迫ったところで目を見開いた。


「なによ、これ」


つい声が漏れてしまう。


〈[黒きジャガー]を≪呪縛≫しますか?〉


視界にポップアップが表示され、目の前のジャガーをどうするかと問いてきた。


ポップアップの下には〈YES/NO〉の選択肢。


≪呪縛≫というのが何を指すのかはわからない上、もしかすれば状況を悪化させかねない。


(でもあたしに選択する余地も無い、一カバチか賭けてみる?)


自問自答といっても答えは決まっている。


〈YES〉


[黒きジャガー]は呪縛した!

[黒きジャガー]は⦅シア⦆の〔従僕〕となった!


またしてもポップアップが表示され、

ジャガーがあたしのモノとなったこと表示してきた。


(⦅シア⦆……どうしてあたしの幼少期の名前が?)


そんな疑問を浮かんでいた頃、その4本の足で[黒きジャガー]が立ち上がった。


(傷が治ってる……)


どういう理屈か分からないが≪呪縛≫したことで傷が癒えたようだ。


(ところで……これってもしかして……)


UIの表記を見て、あるMMORPGの事を思い出した。


(まさか……)


いくつか記憶が浮かび、明確にイメージとして鮮明な形をとる。


そしてメニュー画面が開いた、まさしく記憶通り。


慣れた感覚で自分の情報を確認する。


名前:⦅シア⦆


ジョブ【ネクロマンサー】


人物詳細

荒野の中で目を覚ました少女。


とあった。


わたしの名前と、そのゲームにはなかったはずのジョブ。


(でも、そんなことより、恐らくこの状況を解決できる唯一の糸口ね)


ジョブの詳細画面を見て能力を把握して、立ち上がる。


「魔術師よ……私に何をした?」


突然、目の前のジャガーが言葉を発した。


その声は、

力強くあるがそれでいて透き通っており、

凛とした雰囲気を感じさせる声音であった。


「……喋れるタイプのモンスターなのね」

「ああ、そうだ。それで何をした?」

「あたしの〔従僕〕になったのよ」

「呪いか?」

「まあ……そんなとこね」

「……なるほど」


随分あっさりと引いたその態度に疑問が残る。


「あっさり引くのね」

「魔術師のやることにいちいち驚いていては身が持たぬからな。それに理由や結果はどうあれ助けられたのだ……その恩は返そう」

「なるほどね……それであなた名前はあるの?」

「……⦅エリス⦆」

「そっ……残念ね」

「?」

「⦅黒コショウ⦆とか⦅黒ゴマ⦆とか……候補が色々あったのに……」

「な、なるほど」


⦅エリス⦆目の前の少女の言葉に驚いた。


(名前がなければ、今頃香辛料な呼び名を付けられていたのか、私は!)


そして、そうならなかったことに、ホッと胸を撫でおろした。


「ところで……貴殿の名前は?」

「……⦅シア⦆よ」

「そうか、それでは⦅シア⦆よ。今から外にいる獣どもを倒してくる。その間、少し隠れていてくれるか?恩人にケガをされては困るからな」


⦅エリス⦆は不本意とはいえ、

救われたことに恩義を感じてケガをさせないため少女⦅シア⦆に忠告した。


「いやよ、あたしも出るわ」

「なぜだ、戦いでは魔術師は後衛でいるのが定石だろう?」

「厳密には、魔術師じゃないのよ。それに」

「?」

「あたしは、後ろで頭抱えているより、体を動かしている方が好きなのよ」


そして⦅シア⦆は【ネクロマンサー】の3つの能力の一つ≪変形≫を使用した。


前腕が刃物の形状へと≪変形≫させ、[骨]リソースを消費し、

その効果[物理攻撃属性]を腕に付与した。


「た、たしかに、普通の魔術師とは違うようだ。なんというジョブなのだ?」

「【ネクロマンサー】よ」

「【ネクロマンサー】?、聞いた事のないジョブだが、そのようなことができるのだな」

「そうよ、だから安心してアナタは役割を全うしなさい」


二人で一斉に攻撃し始めるものだと思っていた⦅エリス⦆は首を傾げた。


「あたしは攻撃、あなたはタンクよ。ケガしても治してあげるから」

「こ、こころ得た」

「じゃあ、いくわよ」


少女は平然とした態度で茂みを抜けた。


「グルゥゥ」


敵とエンカウントしました!


[荒野ハイエナA]が現れた!

[荒野ハイエナB]が現れた!

[荒野ハイエナC]が現れた!

[荒野ハイエナD]が現れた!


4匹の涎を垂らした獰猛なハイエナがこちらを見てすぐさま構えた。


[荒野ハイエナA]の攻撃!

[荒野ハイエナA]は⦅シア⦆に──


「ほら、盾になんなさいな」

「任された!」



[荒野ハイエナA]は⦅エリス⦆に[噛み付き攻撃]を繰り出した!



「ふん、これしき!」


⦅エリス⦆が前に出て[荒野ハイエナA]の攻撃を受ける体制にでた。


ここで【ネクロマンサー】の能力を発動する。


[肉]リソースを消費して、⦅エリス⦆の物理防御を上昇させた。



[荒野ハイエナA]は⦅エリス⦆に2ダメージを与えた!



上手くいったようね。



⦅エリス⦆の攻げ──



「言ったでしょ?あなたはタンクよ」



⦅シア⦆の攻撃!

⦅シア⦆は[腕之刃]を使用し、[荒野ハイエナA][荒野ハイエナB][荒野ハイエナC][荒野ハイエナD]に100アサシンクリティカルダメージを与えた!


⦅エリス⦆は瞬き一つせずその光景を見ていた。


少女はその見事は身のこなしによってハイエナたちに接近し、

刃状の腕を振って急所である首をひと裂きしていったのだ。


そして、抵抗する暇もなく[荒野ハイエナ]の群れは全滅した。


[荒野ハイエナA]は倒れた!

[荒野ハイエナB]は倒れた!

[荒野ハイエナC]は倒れた!

[荒野ハイエナD]は倒れた!

⦅シア⦆は経験値80を手に入れた!

⦅シア⦆はレベルアップした!(Lv1→Lv2)


「⦅エリス⦆言ったでしょ、あたしが攻撃だって」


振り返った少女は平然とした表情をして、

目を見開いたままの黒いジャガーに向かって、そう言った。


──────────────────────


読んでいただきありがとうございます。


この先読みたいと思っていただけましたら星★を押していただければと思います!


どうかよろしくお願いいたします!

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