引きこもり、イカれたヤンキーたちと異世界を救う旅に出る
紀田のれん
第1話 運が悪すぎるよ、転生前から。
「おめぇこの野郎! 攫って埋めちまうぞ、このクソボケ! 俺にぶつかっといてなんの挨拶もねぇたぁどういう了見だ!」
校門を入ったところでぶつかってしまったチビのモヒカンでタトゥーだらけの男が因縁をつけてくる。
「貴様、新入生であろう! 入学式すら遅刻するとは見どころがある! 同志よ! これから職員室を占拠し学校に蔓延る前時代的な観念への闘争を行おう! 逆らう教師、及び学徒は随時殺してしまえばよいのである!」
テクノカットで片目を隠した黒髪の細身の男が殺人を持ちかけてくる。
「……。」
でかい数珠をネックレスにしているスキンヘッドマッチョが無言で圧をかけてくる。
「やるんだったら手早くお願いしますよ。彼、リーダーくんの庇護欲を誘いそうです。半殺しにしている現場を見られたら僕らが全殺しにされますよ。」
黒髪眼鏡の男が手早く僕を半殺しにしてくれと仲間に頼んでいる。
僕はただ高校の入学式に遅刻してしまっただけなんだ。なんで入学早々こんなモンスターヤンキーたちに絡まれているんだろうね……。
※※※
OK、じゃあ最初から説明するね。僕の名前はアキラ。
中学2年生から引きこもって以来――、この家で唯一の引きこもりだ。
引きこもってからは、昼夜逆転生活を送ってみたり、母さんに心配をかけてみたり、ゲーム中毒になってみたり。
まぁなんにせよ2年間引きこもりを継続中ってわけ。
そして今は午前7時。
え? 引きこもりがこんな時間に目覚めるなんておかしいって?
もちろん理由があるんだ……。それはね……。
「アキラ?何を一人でぶつぶつ言ってるの?」
「本当に僕は何を一人でぶつぶつ言ってるんだろうね」
僕の部屋から謎の声が聞こえたことで母さんが様子を見に来たようだ。
クモのバース映画的なモノローグ風に考えていたことが声に出てしまったみたいだね。
「今日から高校生だね、アキラ。お父さんがいなくなってから色々苦労を掛けたけど、こうして、あなたがまた学校に通うことになって、とてもうれしいの」
「母さん……」
こちらこそ今まで迷惑をかけてごめんね。今日から僕はちゃんと学校に通うんだ!
そして伝説の生徒になって学校史に名を刻むんだよ!
学校史に名を刻むって下りでは母さんもきょとんとしていたが、何はともあれ僕は母さんに見送られながら外に出たんだ。
そして、久々の遠出に緊張して、腹痛で途中下車するハプニングもありながら、無事に学校にたどり着いた。
※※※
「てめぇ覚悟しろよ。顔が元に戻らないくらいぶん殴ってやる」
あー……。走馬灯だったのかな? 僕が現実逃避から戻ると、ちょうど低身長タトゥーモヒカンが拳を振り上げたところだった。
ああ、母さんだけは褒めてくれる、この甘いマスクともお別れか……。
さらば、僕の愛しき顔面よ。
衝撃に備え、目をつむろうとした刹那――
モヒカンは登校口から駆けてきた金髪の男に殴り飛ばされて、もんどりうって校門に激突していた。
うわー、信じられないくらい吹っ飛んだー……。
「リーダーくん! 僕は止めましたよ! 彼が勝手に……!」
「リーダーくん! 自明の理ではあるが、公権力とはうち滅ぼさねばならない存在である! 私はただ彼をそのための尖兵として勧誘していただけなのである!」
「……!」
金髪の男に群がり、僕に絡んできた生徒たちはそれぞれ言い訳をし始めた。
モヒカンは気絶しているようだ。
「お前ら、いい加減にしろよ! 新入生に手を出すなって俺言ったよな!?」
この金髪イケメンがこの人達のリーダーなのかな。リーダーくんって呼ばれてるし。ものすごくイケメンで人気者臭が漂っているけど、この人もヤンキーの仲間なのかな。
「……もういい、お前らが誰にも暴力をふるえなくなるまで、これから殴り続ける。」
あ、絶対にヤンキーですー。価値観が昭和ですー。
……てか、僕もう行っていいかな?
これ以上この人達と関わり合いになりたくないよ。全員イカれてるじゃないか。こんな人達がいる高校に入るんじゃなかった。まぁ中学引きこもりの僕じゃこれ以上のレベルの高校なんて選択肢にはなかったんだけどさ。
そしてこっそりとその場から抜け出そうとした瞬間――、
僕の足元に魔法陣が現れ、そこから溢れだした光に飲まれるや否や、僕は意識を手放した。
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