影武者は身の程知らずの恋をする

永川さき

第1話 恋の苦しみ

 孤児にしては恵まれていた。

 それ相応の苦労はあったが、義父ちち義母ははも優しく、面倒を見てくれる義兄あに義姉あねがいて、可愛い弟と妹チビたちに囲まれていた。

 貧しくとも心は豊かで、将来に対する一抹の不安はあれど寂しくはなかった。

 だから、生みの親への憎しみなんて微塵もない。

 山に打ち捨てず、孤児院の玄関前に名前を記したおくるみに包んで置いてくれたことに感謝している。


 しかし、ここにきて自分の生まれを恨むなんて思ってもみなかった。

 

 何故、孤児だったのだろう。

 何故、彼とそっくりだったのだろう。

 何故、任務を遂行できる器量を持っていたのだろう。


 こんな生まれでは、どんなに見目が良かろうと、どんなに教養を身につけようと、ユリウスの隣に並ぶことなど、身の程知らずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る