第13話 俺としてはごく普通の日常だけど……平気っぽい?

「ねぇ、一季」

「ん? どうした、彼方?」


 あまり会話に加わらなかった彼方が口を開いた。


「今日は寄り道して行かないかい?」

「えっ! いいのか!」

「うん、いいよ。それに、一季はさっきから食べ物屋の方をチラチラ見ているし、今日は何か食べて帰りたい気分なんだろう?」


 彼方がくすりと笑いながら、俺を見つめる。


 さすが彼方! 俺のことをよく分かってるな!


「氷川さんも同伴者として付いてくれるよね?」

「ええ、もちろんよ」

「じゃあ決まりだね。一季は何を食べる?」

「そうだなぁ……。軽く小腹を満たすくらいの食べ物がいいなぁー」

「あら、意外ね。更科君は男子の中でもよく食べている印象だから、てっきりガッツリいくのかと思ったわ」


 氷川が驚いたように言う。


 俺は男子の中では珍しく食べる方らしい。

 弁当も食べて、購買部で何か買って食うぐらい、俺としては普通なんだけどなー。


 そういえば、里琉はおにぎり1つに容器におかずが3つ入っているのでお腹がいい具合になるって言っていたな。

 それはそれで可愛いが。


「氷川の言う通り、確かにガッツリもいたいけど……家に帰ったら母さんのご飯があるからな」


 以前、母さんに「ご飯はいらない」って言ってみたら……。


『いっくんが反抗期になったぁぁぁぁぁ!! うわあああああああん!!』


 めちゃくちゃ号泣された。


 それ以来、できるだけ家ではちゃんとご飯を食べるようにしている。 


 俺は母さんにとっての唯一の家族だし、息子だし、一緒に食べれないと寂しいのだろう。


 それに、母さんのご飯は……。


「母さんのご飯は美味しいし、俺のために毎日作ってくれているんだ。なら、おかわりするぐらい食べないとな!」


 俺がそう言うと、彼方と氷川は顔を見合わせて……ふふっと笑い声を漏らした。


「なんだよ、2人して。俺、変なこと言ったか?」

「ううん。やっぱり更科君らしいなと思っただけよ」

「一季は優しいからね。いつまでもお母さんを大切にするんだよ?」


 なんだが2人に温かい視線を送られた。


 会話をしながら歩いていると、食べ物屋やキッチンカーがあるエリアに到着した。


「うん、やっぱり放課後の食べ物屋エリアは女の子でいっぱいだね。女の子は食べ盛りだからね」

「その子たちの視線は今や、食べ物じゃなくて、危機感のない誰かさんに向いているけどね。そんな彼と言えば……」

「あ、ここ良さそうだな!」


 彼方と氷川が何か話している間に俺は店を決めた。


 俺が指差したのは、『クレープ』と書かれた旗を掲げたキッチンカーだ。


「2人はどうだ?」

「ボクは一季が選んだお店でいいよ」

「私も更科君が選んだならそれでいいわ」

「んじゃ、じゃあクレープにしよう!」


 俺たちはクレープを売っているキッチンカーに向かった。


「いらっしゃいませ~! ……って、えっ、お、男の子!?」

「こんばんはー。いや、16時ぐらいだったらまだこんにちはなのか?」

「はいはい、どっちでも挨拶できて偉いから早くメニューを決めようじゃないか、一季」

「ええ、そうね。じゃないと、人が集まってくるわよ」

「そうだな。女の子ってクレープ好きだもんな」


 クレープ目当てに、行列になってくる前に決めないとな!


「「……」」


 2人が呆れたような視線を送ってきているのだが、気のせいだよな?


 それから選んだクレープを受け取った俺たちは、近くにあったイートインスペースに腰を下ろす。


 俺が選んだのは、照り焼きチキンマヨネーズってやつだ。

 やっぱりおかずクレープ一択!!


「いただきまーす!」


 俺はクレープにかぶりつく。


 茹でた薄切りのチキンの上から照り焼きソースとマヨネーズが掛かっていて、キャベツとモチモチの生地も合わさってたまらなく美味い。


「ん~! これ、最高だな!」

「ふふっ、一季は美味しそうに食べるね。じゃあ……これも食べてみてよ」


 彼方がクリームとカットいちごが乗ったスプーンを差し出してきた。


「おっ、ありがと!」


 差し出されたスプーンをパクッと食べる。

 

 甘さ控えめのホイップクリームといちごの酸味が絶妙だ。


「ん! これも美味いな!」

「良かった。今度は生地と一緒に食べてみてよ」

「ああ、そうだな。クレープだもんな。じゃあ、俺のクレープも食べていいぞ」

「ありがとう」


 彼方とクレープを交換する。

 

 彼方のはいちごとホイップの王道クレープ。

 だけど、これが美味いんだよなー。


「うん、この照り焼き美味しいね」

「だろー?」

「もう1口だけ……って、ホイップクリームが頬についているよ、一季? 取ってあげるからこっちにおいで?」

「んー」


 彼方に顔を傾ければ、紙ナプキンでささっと拭いてくれた。


「はい、食べてよろしい」

「うまいっ」


 2口食べたところで彼方とクレープを交換して元通り。


 と……横から氷川のじとっとした視線を感じた。


「ねえ、貴方たち……いつもこんなことやってるの?」

「ん?  いつもクレープ食べてるわけじゃないぞ?」

「そういう意味じゃないわ」

「でも、こうして一季と食べ物をシェアするのはよくあるよね?」

「ああ、そういうこと。シェアして食べたほうが色々味わえるからなっ」


 そう言う俺に、氷川は何故か溜め息をついた。


「そういうことでもなくてねぇ……。……普通、男女で気軽に間接キスとか、あーんとかしないでしょ……」

「ん?」


 氷川が何やらぶつぶつ呟いているし、頬がほんのりと赤い。


「ボクと一季はこれが当たり前だからそんなこと言われても困るよ。ね、一季?」

「ま、まあ……」


 氷川がなんのことを指しているか分からないが……今の彼方とのやり取りはいつも通りだ。

 

 別に、ごく普通の日常だ。


「佐宮さん貴方……更科君に危機感がないのを良いことに、利用していないかしら? 幼馴染として、ちゃんと面倒を見た方がいいんじゃないの?」

「利用だなんて、氷川さんも厳しい言い方をするなぁ。まあ、たとえそうだとしても……それが幼馴染の特権というやつだろう?」

「……」


 フッと笑う彼方を氷川は真顔で見つめていた。


 なんか今日の2人はお互いに見つめ合うことが多いなぁー。


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