第2話
あれから何やかんやあり……と言っても、前世とさほど変わらない日常を送り、今では俺も15歳。
小・中学校は母さんの頑なに譲れない過保護精神に負け、泣く泣く男子校に通っていた。
だがそれはもう、過去だったと割り切ろう。
俺はまだ諦めていないのだ。
だから――
「お願いだよ母さん! 高校は共学のところに……女子がたくさんいるところに行かせてくれ!!」
「いやああああああああああ!!!」
母さん、まじ泣き。
俺が前世の記憶を取り戻してから、母さんはやたらと過保護になった。
一悶着……いや、十悶着ぐらいあったものの、最終的には念願の男女共学の私立高校に通うことを許してもらえた。
入学してから早1ヶ月が経った。
貞操逆転世界とあって、元の世界の高校生活とは大きく違うことが2つある。
まずはクラス内の男女の割合。
うちのクラスの男子は俺を含めて4人のみ。
そのうち2人は先週からリモートワークに切り替えたので、教室には男子が2人しかいない状態。
それに比べて、女子は22人もいる。
そしてもう1つ。これこそが元の世界との最大の違いだろう。
それは、男子は登下校を含めた学校生活では必ず、女性1人を同伴させること。
男子が共学校に進む場合、保護者や周りの人たちはできるだけキョウダイや親しい女子と一緒に通わせるようにしている。
何故なら、数少ない男子が道中に襲われたり、何かあってはいけないようにするため。
そんな周りの過保護欲も元の世界と比べて異常だが、男子も男子で元の世界とは違う。
男子校に通っていた時も思ったが、この世界の男子は草食系というか、どこか弱々しい。
男子特有の馬鹿話や下ネタなどで盛り上がることは一切なく、互いに何かに怯えるような態度が目立つ。
もちろん、男子全員がそういうわけではないが……大半がそんな感じだ。
そんな中、俺みたいな女子にモテたいと公言する変わり者タイプはクラスでは浮いてしまうし、白い目で見られることも多かった。
男子校ではあまり友達を作ることができなかった。
俺みたいなタイプは多分、女子の方が話が噛み合うのだろう。
んで話を戻すと、そんな男子たちが安全・安心・楽しいの三拍子が揃った学校生活を送るためにも、同伴という名のボディーガード的存在が必要不可欠。
『女性1人を同伴』とあえて明確に決められていないことから、男子の中にはボディーガードに特化した男性護衛官を雇ったり、はたまた母親を同伴させているやつもいた。
俺はどうなんだって?
それはだな……。
◆◆
放課後。
雑談をしたり、慌ただしく部活に行く女子たちを教室の1番後ろの席から眺める俺。
「今日もうちのクラスの女子は可愛いなぁー」
気づいたら口にしてしまっていた。
貞操逆転世界の女性は、数少ない男性を手に入れようと容姿や身だしなみにかなり気を配っている。
つまり、クラスの女子は全員可愛い。
だから可愛いと本当のことを口に出して何が悪い!
「えっ? 今、更科くん、私のこと可愛いって言ってくれた!?」
「いやいや、アタシでしょ!」
「更科くんと目が合った気がしたのは私だしー!」
「何言ってんの。男子があんたみたいな無駄乳を見るわけないでしょ」
「皆、1回落ち着いて……。多分、わたしだから」
「「「いや、アンタが一番黙って!!」」」
俺の方をちらちら見ていた女子たちのざわめきが大きくなる。
一斉に喋っているので会話の内容は分からないが……俺が可愛いと言ったことに動揺しているのは分かった。
「可愛って言ったぞ。もちろん、この場にいる全員のことね」
なので、具体的かつはっきり言うことにした。
最後ににこっと微笑めば教室がシーンと静かになった。
きっと己の可愛さを自覚したに違いない。
フツメンの俺の慣れない笑みがキモかったという可能性は考えないようにしよう。
それにしても、女子たちの反応から察するに、褒められ慣れてないみたいだ。
全く……男子はもっと女子に可愛いと素直に褒めるべきだ!!
「――今日も君のクラスは賑やかみたいだね」
聞き心地の良い爽やかな声ながらもどこか呆れたような感情が籠った声が聞こえてきた。
その人物が見えた時、女子たちの視線はすぐさまそちらに移った。
「あ、あー! みんな見て……! 佐宮さんだよっ」
「佐宮さんナイスタイミング……! ……もう少しでわたしの心臓が止まりかけるところだった……」
「それにしても佐宮さんっ。今日もかっこいいよね〜」
先ほどまで騒いでいた女子全員が夢中のようだ。
やっぱりこの世界でもイケメンはモテるよな。
たとえ、性別が男でなくても。
「一季、迎えにきたよ」
今度は、俺のすぐ隣から耳触りの良い爽やかな声色が聞こえる。
視線を横にやれば、微笑みを浮かべたイケメン美少女がいた。
佐宮
同じ高校に通う同級生にして、小学生からの俺の幼馴染である。
ちなみにクラスは別だ。
藍色のベリーショートに切長の瞳。巨乳にすらりと伸びた長い脚。
中性的な美貌を誇り、いるだけで目立つであろう男子を差し置き、彼女が学校の王子様とすら呼ばれている。
外見だけでそう呼ばれているのではなく、勉強やスポーツなど何をさせてもそつなくこなす様からも言われている。
そして彼方こそが、俺の同伴者だ。
「おう、彼方。ちょうど良いところに。早速だが帰ってくれ。俺はクラスの女子達の観察で忙しいのだ」
「はいはーい。何か言ったかな? 言ってないよねぇ?」
「いだだだだ!? じょ、冗談だって……!」
彼方はにこっと笑うと俺の頬を左右に引っ張った。
しかも結構力入れやがったな、コイツ!?
「全く……。せっかく幼馴染のボクが迎えにきてあげたというのに一季がつれないこと言うからだよ。だからちょっとお仕置きしてみたんだ」
「もっと優しいお仕置きにしてくれ。頭撫でてくれ」
「それはご褒美のいい間違えじゃないかな? この手の形で合っている?」
「それはゲンコツする時の手の形だなぁ!」
しっかり拳握りしめてんじゃねーか!
なとど、軽口を叩き合う。
しかし、幼馴染というのは気さくでどこか安心感はあるなぁ。
「さすが佐宮さん……! すごい!」
「ええ……あんなにも自然に更科くんと話を続けることができるなんて……」
「これが幼馴染の強さ……っ」
俺たちが会話をしている時もクラスの視線が集まっているのを感じる。
きっと、イケメンで王子様と呼び声が高い彼方が目当てだろう。
隣にイケメンがいるということは、それだけ俺のモテ期は遠のくということ。
そんな俺でも一応、数が少ない男であるため女子は積極的に話しかけてくれて。
「ま、またね更科くん!」
「更科くんっ。また明日も学校来てね……!」
帰る支度を済ませた女子2人が俺に話しかけれくれた。
「おお、また明日〜」
笑ってひらひらと手を振れば、女子2人は嬉しそうな顔で教室を出た。
彼方に視線を戻せば、不思議そうな顔をしていた。
「一季は昔から女子に対して物腰が柔らかいというか、恐怖心がないよね? なんで?」
「いや、なんでとか言われても……。女子って皆、可愛いからだな」
俺としては当然のことを言ったが、彼方の眉間にはシワが寄った。
「やっぱり一季は危機感がないね。足りなすぎる。女子が可愛いで済んだら警察はいらないんだよ?」
確かに、最近のニュースでも男子が性犯罪に巻き込まれたとか流れていた。
容疑者の女性は大体美人で、ここで人生を棒に振るなど勿体無いと思いつつ、それだけ男に飢えているということが分かる。
「でもまあ大丈夫だろ。俺の隣には彼方がいる訳だし」
周りの視線は全部、彼方が惹きつけるわけだし、俺が襲われたりするなんてあり得ないだろう。
「そうだね。一季に近づく痴女はボクが追い払うから安心してよ」
彼方がにこっと笑う。
その少しの動作だけでも巨乳が揺れた。実に眼福だ。
「さて、そろそろ帰るよ。今日はボクの家でゲーム対戦の続きやるんだろ?」
「そうだった! 今日は負けないからな!」
教材を詰め終わった鞄を肩に掛け、俺と彼方は並んで帰路につくのだった。
これが高校生になった俺の日常だ。
な? 危機感0でも案外平気っぽいだろ?
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