黒幕
聖女こと、凜が目の前にいる。
しかし、やはり様子がおかしい。
「ふふふ、好きねぇ。地面に這いつくばって、どろどろになるの」
「別に」
大体があんたのせいだよ。
「あら、私は好きよ。惨めに転がって、どろどろになって、それでもバカみたいに立ち上がって、笑うしかないわよねぇ」
「笑ってろ」
悪態をついていると、そこにいつのまにか現れたアルフォードがいた。
「おい。リンになんて態度を取っているんだ!」
「アルー。あの子がね、私をいじめるの~」
「あぁ、僕が守ってやるよ」
あのー、二人の世界になってますよー。
「ほらほら、早く殺っちゃって。アルなら大丈夫よ。あんな小娘、サクッと殺しちゃおっ。血がビシャって飛び散って、肉を細かく引きちぎって、それでも止めを刺さないで苦痛に歪む顔を一緒にながめましょう?きゃはっ」
「いや、さすがにそれは……」
前回、思い当たった違和感が大きくなる。
アルフォードも凜の態度に戸惑っている。
「あの、大丈夫なように見えないのですが?」
どう声をかけていいものかさっぱりわからず、普通な言葉しかでてこない。
「……普通、そういうときは、『大丈夫?』って聞くんじゃないの?」
「言ってほしいの?」
大丈夫じゃないときにかけられる『大丈夫?』って言葉ほど腹が立つものはないと思うけど。
『見てわからない?大丈夫に見える?』って思わない?
「ふふっ、あははははっ。はっはっ、っは。それ、それそれ。それがムカつくの。何時だって澄ました顔をして!!」
最初に会った闇落ちと同じようにぶわりと黒い霧が凜の周りに大量発生する。
「まさか、闇落ち?」
「そのまさかよ」
シュタッと間に入ってきたのはレティシアだった。
「調べたところによると今回の闇落ち大量発生事件はこの女が黒幕よ」
「え、どういう?」
「この女が闇落ちを誘ってアイナにけしかけてたのよ」
「は?」
「おバカさんに教えてあげるわ。私、新しいスキルをてに入れたのよ。それを使えば簡単に私の駒ができあがるのよ」
「新しいスキル?」
「私が優秀だからね!」
「聖女には、聖なる祈りってスキルがあるの。それが変異したってことだと思うわ。つまり、この子、聖女でありながら、闇落ちよ」
その言葉を合図に黒い霧が霧散していく。
ニヤリ、と笑う凜は、口から白い息を吐き、よだれをだらだら滴ながら、目をギラギラさせている。
「聖女が闇落ちしていいの?」
「残念ながらそういう器だったんじゃない?」
簡単に切り捨てるレティシア。
そして凜の闇落ち姿を目にしたアルフォードは、
「リリリ、リン?いったい、君はどうしてしまったんだい?」
その場に腰を抜かしていた。
そしてあろうことか「化けものーー」っと叫びながら走り去っていった。
レティシアの言葉に、アルフォードの行動に怒りを露にする凜。
「しねーーー!!!」
収納式だった黒く長い爪をシャキンと出して斬りかかってくる。
レティシアが剣で受け止める。
「はん。なんでもかんでも思い通りにならないとヤダ、なんて生活してきたあんたなんかにやられるわけないでしょう?」
「だったら、これならどうかしら?」
にやにやと笑いながら、急に両手を天に向かって伸ばしたかと思うと、黒い光の柱が現れる。
そして、「うぎゃー」っといううめき声が上がったかと思うと、さっきまで闇落ちと戦う側にいた人が黒い霧に包まれて闇落ち側に寝返っていた。
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