マーシャル・マキシマイザー

エリスという人物

 夜ふかしはイドの暴走とはよく言ったものだ。

 私は今、寝不足でとても眠く、とても頭が痛い。

 ここ数日していて大丈夫だと高をくくっていたらこうなった。

 「あ゛~、きっつい…。」

 「どうしたの。エリス?また徹夜?」

 「そーです…。もう頭がいったくていたくて…。」

 私の名前はエリス。この研究所に所属している科学者だ。昨日は調べものをしていたら、いつのまにか朝になっていた。

 「若いから平気なんだろうけど、そんな生活してるといつか倒れるわよ。今も目のクマがひどいわ。今日は仕事が終わったらすぐに帰って寝たら?」

 「そうします…。」

 この人はレイさん。私の先輩でとてもいい人だ。

 「それで?今日は何をするの?」

 「えーっと今日は…。午前は書類を見直して、昼から実験です。」

 私は頭の中でスケジュールを思い出そうとモサモサしてる。

 「そうなの。…あの実験、大丈夫なの?結構危険って聞いてるけど。」

 「大丈夫ですよ余計なことしなければ。」

 「それならいいけど…。あ、私会議だから行くわね。また後で。」

 「はーい。頑張って。」

 レイさんは右に入る廊下に行き、そのまま歩いて行った。

 私は、そのまま直進し、部屋に入り、自分の机に座った。

 「さて…、危険点の確認でもするか…。」

 私は書類が積みあがっている山から一番上の「危険点の確認」という書類を取り、目に入れる。



 「さて、実験だ。」

 私は部屋から出て、実験室へ向かった。

 私がやっている実験は、戦争で使う核爆弾の元となるプルトニウムという物質の実験だ。

 とても危険で、もしかすると死亡するかもしれないということで誰もやりたがらないこの実験を私がやる理由は、ただ単純にお金がはずむからだ。危険手当がたくさんあるから、私はこの実験をしている。

 それに、私は死への恐怖が極端に欠落している。だからなんの躊躇いも無く受けたのかもしれない。

 「着いた着いた。」

 廊下の突き当りが放射線を扱う実験室だ。

 「失礼しまーす。」

 私はガチャリとドアを開け、そう言って室内に入った。

 「来たか、エリスくん。」

 「こんにちは先生。あとハリーくんも。」

 「こんにちは。」

 先に室内にいたのは、この実験を担当しているルイス先生と、私と一緒に実験に携わっているハリーくんだ。

 「じゃあ実験を始めようか。」

 「「はーい。」」

 そういう緩い感じで、今日の実験は始まった。


 

 「私はこっちでやっているから、君たちはそこの作業をしなさい。」

 「分かりました。」

 先生の指示通り、私たちは先生から三メートルほど離れたところで作業をしていた。

 「…なぁ、エリス。」

 「何?ハリーくん。」

 ハリーくんが深刻そうな声で聞いてきた。

 「お前、怖く、ないのか?」

 「え?なにが?」

 私は、彼がなんで言っているのか分からなかった。

 「やっぱり、そうか…。お前はすごいなぁ…。」

 ハリーくんはそう呟いた。

 「俺さ、怖いんだ。」

 「何が怖いの?」

 「死ぬのが。この実験も、金が要るからやってるだけで…、気が狂ってるようにしなきゃ正気保ってられないんだ…。」

 「ふーん、そうなんだ。」

 私は彼のそんな話を全然気にも止めない素振りで作業を続けた。

 「二人とも。そっちの作業は終わったかい?」 

 「終わりました。もう大丈夫です。」

 「じゃあ、こっちに来てくれ。」

 私たちは、組み立てたものを持ち上げ、先生のところに持っていく。

 「じゃあ見てなさい。」

 「はい。」

 「…はい。」

 ハリーくんの声が震えているのが分かる。

 先生は、炭化タングステンのブロックを、プルトニウムの塊の周囲に積み重ねていった。

 

 その時だった。

 

 「いかん!しまった!」

 先生の大きな叫び声が室内に響き渡る。

 カシャンという音を立てて、ブロックが塊の上に落ちる。

 先生は急いでブロックを塊からはがしたが、時すでに遅かった。

 私の隣にいるハリーくんがドサッっと倒れた。

 「え?ハリーくん?ハリーくん⁉先生!ハリーくんが!」

 「今日の実験は中止だ!急いでここを出ろ!」

 先生はハリーくんをひろうと、勢いよく部屋から出た。私もそれに続き、部屋から出た。

 「先生!ハリーくんは⁉」

 「無理だろう。あんなに至近距離で浴びたんだ。今助かっても、後で必ず亡くなるだろう。」

 私は膝から崩れ落ちた。一緒に実験をしていた仲間が死んで、私はどうしようもない思いが胸に残った。

 そんな感情なのに、なぜか頭は冷静だった。そして私は、浮かんできた疑問を先生に聞いた。

 「先生。」

 「…なんだい、エリスくん。」

 その声から一呼吸置いて

 「なんで私たちは倒れていないんですか。」

 私はそう聞いた。

 「…やはり、そうなるか。」

 「教えてください先生。なぜなんですか。」

 私は食い気味に先生に問いた。

 「ここからは、重要機密事項だ。誰にも言わないでくれ。」

 「分かりました。」

 なぜだ?たかが私たちの体のことじゃないか。

 先生は軽く息を吸うと

 「私たちは、機械だ。」

 と言った。

 「……え?」

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