第41話 花見
お花見をしよう、と提案された。ソウの妹のキョウカからだ。
彼女の実家、つまりソウの実家は結構な土地持ちであり、一部私有地には山林も含まれる。
ヤマシロ市内ではあるもののかなり離れた地域であり、街中から移動すると結構時間がかかる。
最寄りの駅で降りて、地域コミュニティバスで数十分。少し歩いて坂道を上った所にある神社の前で、キョウカの家族と弟の家族、更には妹のミユキまでもがやってきていた。
「変態」
妹からは開口一番にそう言われた。言い返す言葉も無い。
あの雑誌の写真は、大人には当然知られてしまっていた。しかし、流石に子供にその事実を知らせるのは両親も憚られたのか、ウミもショウも、リンもその事を知らないようだ。少しだけほっとした。さっさとほとぼりが冷めてくれるのを待つばかりである。
神社の境内に入り、少し階段を上って途中にある広場にシートを広げた。子供の頃も何度か一緒に花見をしたことがあるが、この神社の敷地は山ごとサメガイ家の土地だという。
今日は来ていないが、ソウの父、フユヒコは入り婿だ。彼の家は代々女系らしく、彼の祖父も同じ入婿だったそうだ。
待望の世継ぎ男子として産まれたソウはしかし、今はこの体たらくである。
家から持ってきたどでかい重箱の弁当。それに入れてきた大量の唐揚げを頬張ってはビールを鯨飲し、シートの上でだらしなく足を崩してヘラヘラと笑っている。
「唐揚げばっかり食べちゃダメでしょうが。いくらビールに合うからって」
「リンたちは卵焼きばっかり食べてるぞ」
「子供と同レベルか」
まぁ、おかずは大量に作ってきたので一人が多少偏って食べたところでなくなるという事は無い。それでも何というか、格好は良くないだろう。
「やっぱりお花見のお弁当って言ったらこういうのだよね」
「キョウカは作ったことないでしょ。しかし相変わらず、無駄に美味い」
無駄とか言うな。美味いに無駄という言葉は似合わない。食い物は美味ければ美味い程良いに決まっている。
「そういや、ミユキは自炊してるんだっけ」
忙しい身の上であるが、定時で上がった時にはきちんと作っていると言っていた。
「ダンナに任せとくと、やたら高級食材を使いたがるから。自分でやらざるを得ない」
「……そうか」
妹のその言葉に、新しく缶のプルタブを引いた適当な男の方を見た。
「なんだ?」
「いや、なんでもない」
作るだけ妹の夫の方がマシかもしれない。いや、それもどうだろう。
仮にソウが料理を始めたとしたら、同じようにして高級な肉ばっかり買ってくるようになるのではないか。それはそれで困る。こいつはやはり今のままで良いのだろう。
女の子二人は早々に腹が膨れたのか、桜吹雪舞い散る広場でリリキュアごっこをしている。甥のショウだけはまだ大きな握り飯を笑顔で頬張っている。
ショウはごはんが大好きだ。それはそれは美味そうに食べるので、見ているだけでこちらは楽しくなってくる。弟は少し太りすぎないだろうかと心配しているが、甥の愛嬌のある顔を見ているとどうでも良くなってくる。
「姉貴、ヒロキさんは?」
「ホテルでペンタブ握ってる」
「またかよ」
妹の夫、ヒロキ・クスノキは自称イラストレーターである。極度の人見知りであるため、大勢人がいる場所にはまず出てこない。普段は家にこもって端末の前で絵ばかり描いているという。絵、というか、まぁ、大体が二次創作のイラストだったりするわけだが。
妹が言うには、年間160万ぐらいの収入はあるらしい。殆どが同人誌の売上で、お絵描きサイトで有料で絵の依頼を受けたり、有料コミュニティで細々と稼いでいるという。
広い世界なので、それ一本で食っていくにはなかなか厳しい業界なのである。
そんな男が何故妹のような女と結婚したのかはよくわからない。出会いはネットだったというが、割とサバサバしている妹は、内気な男性とはあまり合わない気がするのだが。
「テツヤさんは今日も仕事ですか?大変ですね」
「そうなんです。役所でどうしても業者に立ち会わなきゃいけない仕事があるとかで」
役所勤めの地方公務員が業者の立会い。土曜日でこの時期という事は、受水槽の清掃か何かだろう。断水するので、終わった後にちゃんと復旧しているかどうかの確認が必要なのだ。
「役所だからって土日が休みになるとは限らないんだよねえ」
ヤマシロ市役所にいたのでよく分かる。職員の出てこない日にしかできない事が結構あるのだ。商業施設なんかだと夜間、宿泊施設なんかだとチェックアウト時間にするような事だ。あとは、どの施設も共通なものであると停電点検とか。
お腹がいっぱいになったのか、ショウも立ち上がって輪の中に加わった。微笑ましくそれを眺めていると、神社の方から階段を上って、大きな籠を背負った一人の老人が山の中へと入っていった。
「キョウカちゃん、あれ、知ってる人?」
「え?いや、知らない人ですけど」
格好から見るに近所の人なのだろうが、あの籠、間違いなくこの山で何かを採ろうという感じに見えたが。
「おばさんに許可取ってるのかな。ここ、私有地だよね」
「うん、そうだけど……まぁ、ちょっとぐらいは別に」
ちょっとぐらい、か。確かに自分達で採取しないのであれば、誰が山菜やキノコを持って帰ろうが気にならない。権利者が良いというのであればそれは構わないのだが。
「ミユキ」
「うん。割と問題になる事多い。多目に見ているうちはいいけど、例えば遭難したりだとか、獣に襲われて怪我しただとかになると、揉める」
山中で遭難して捜索が始まるとなると、当然土地の権利者に話が行く。そうすると、進入禁止措置はしていなかったのかだとか、外野が色々とうるさくなるのだ。入った人間も自業自得ではあるのに、時折ゴネる事があると聞く。人の敷地に堂々と入る人というのは、概ねそういった良識が欠けている事が多い。
「うーん、一応私有地ですって看板ぐらいは立てておいた方が」
「立ってるよ、山道の入口に」
「あ、そうなんだ」
どうにも、特に年寄りにこの手の人は多い。山のものは誰のものでもないと思いこんでいる人が結構いるのだ。
地権者が許可している場合は構わないが、一々許可を求めて入る人の方が稀である。そして、勝手にその土地に生えているものを持ち去るのは、例外なく窃盗である。
「キョウカさん、ここ、クマとか出ないよね?」
弟が心配そうに聞く。子連れなので、野生の獣がいるとなると流石に気になるのだろう。
「いやあ、クマは聞いたことないですね。シカとかイノシシとかタヌキはいますけど」
「シカだってイノシシだって危ないよ」
ミユキの言う通り、シカもイノシシも、その巨体をぶつけられれば大変な事になってしまう。タヌキだって、野良犬と変わらない。噛まれたら大怪我をする事もあるし、何か病気を持っているかもしれないのだ。
「クマが出てきてもミサキがいるし、大丈夫だろ」
ビール片手にソウが言う。それはまあ、そうだ。
普段からクマなんて目じゃない猛獣をぶちころがしているのである。今更本州にいるツキノワグマごとき、素手でもどうにかできる自信はある。
「そりゃ、自分達は大丈夫だけど、さっき山に入っていったおじいさんの事だよ」
老人が野生の獣に襲われてはひとたまりもない。足でも折ればそのまま遭難だ。スマホぐらいは持ち歩いているだろうから、電波の届く場所であれば助けを呼ぶ事ぐらいはできそうだが。
「自業自得じゃね?」
「だから、そうなったときに地権者に迷惑がかかるだろって話だよ」
現場で山に入っていくのを、地権者の家族が目撃しているのだ。止めなかった以上、何かあった場合にそこを突っ込まれる可能性がある。
「サメガイさん、危機感無いですね。結構多いんですよ、そういうの」
妹もビールの缶を開けながら言った。ムサシ県も少し街中を離れれば山だ。当然、国有地ばかりではない。大きな弁護士事務所に所属していると、そういった事例も知っているのだろう。
「そうなの?面倒くさいな」
とは言っても、もう山の中に入って行かれた以上はどうしようもない。こちらから追いかけたところで見つけられるとは思えない。竜であれば近くにいればわかるが、流石に人間の気配まではそこまで探知する事は不可能だ。
自分は聴覚や視覚が強化されているので、通常の人間よりは見つけやすい事は見つけやすい。竜の発生地に行くと、明らかに生きている人のいる、いないは感じ取る事ができる。
だが、山中で人を探せと言われてもそれは無理だ。遭難して救難ブザーを鳴らしているのであればまだしも、気絶している人間を見つけろと言われても不可能である。
「ま、帰ってきたら注意すりゃいいだろ。ここは私有地ですから勝手に入らないで下さいってな」
ソウは相変わらずお気楽だ。それは良い部分でもあるし、良くない部分でもある。
細かいことを気にしないというのは、精神安定上は良い事である。ただ、放置しておいてまずい事を気にしないというのは、後々大きな問題に発展する可能性がある。
普段の生活上であれば彼はそういった事に比較的敏感だ。だが、生まれながらの土地で今まで大丈夫だったから、という意識はなかなか変えようがない。サメガイ家の所有している土地はこの山だけではないのである。
桜は綺麗だ。桃色の可愛らしい花びらは目に優しく、眺めているだけで穏やかな気分になれる。だが、毛虫の対策は必要だ。
茶を啜りながら満開に近い花をぼーっと眺めているうちに、持ってきた弁当はほぼ底を尽き、ビールもなくなったのでそろそろ、と片付けを始めた時だった。
「あ、降りてきた」
先程の老人が同じ籠を背負ったまま戻ってきた。こちらにちらりと目をやったが、そのまま階段を降りていこうとする。
「お待ち下さい。お爺さん、その籠の中身、この山で採ってきたものですよね」
ミユキが近寄って声をかけた。声をかけられた老人はびくりとして振り返った。
「そうだよ、それがどうかしたの」
「山道の入口に看板が立っていましたよね、私有地ですと。ご存知ですよね」
老人は少し機嫌を悪くしたようで、眉根に皺を寄せた。
「今までだって何度も採らせてもらってる。何も言われなかったよ」
「では、許可は取っておられるのですよね?地権者が誰かご存知で?」
ミユキの声に老人は目を泳がせた。
「知らないよ、そんな事。山のもんは誰が採ってもいいでしょ。一々そんなの、許可とか」
悪気があるのだか無いのだか。挙動は不自然だし、勝手に採るのは悪い事だと理解はしているようである。その上でこの認識、という事だろうか。
「私有地に勝手に侵入してはいけません。不法侵入行為です。それと、その土地に生えているものを勝手に持って帰るのも犯罪です。窃盗になります」
酒が多少入っているにも関わらず、妹の弁舌は明瞭だ。専門家としてのスイッチが入ってしまったらしい。
「だって、ほっといたら枯れるだけだろ。だったら、オレが貰ったって構わないじゃないか」
「それを判断するのは地権者です。どうしてもというのであれば、地権者に許可を取ってから入って下さい」
至極当たり前の事だ。普通は誰に言われなくてもそうするものだが、老人の世代にはそういった認識は無かったのだろう。おおらかな時代、と言えば聞こえは良いが、大雑把すぎる時代だったとも言える。
「うるさいな。なんだよあんた、関係ない人間が。偉そうに法律だのなんだの」
「弁護士です。と同時に、ここの地権者の知り合いでもあります」
弁護士、という肩書に、流石に老人はぎょっとした。途端にそわそわと忙しなく身体を揺する。
「な、なんだ。訴えるっていうのか。今まで何もなかったのに」
今まで何も無かったのは、単にバレていなかっただけだ。しかし、見かねたソウが立ち上がって近寄っていった。
「爺さん、一応俺、ここの地権者の息子なんだけどさ。今日はいいよ、それ、持って帰っても。ただ、次からは入る前にちゃんと連絡してくれよな。でないと、怪我とか遭難されてもうちじゃ責任持てないよ」
助け舟が入ってほっとした老人は、一つ頷いてから階段を降りていった。すみませんともありがとうございますとも言わなかった。大丈夫だろうか。
「次、連絡、あると思う?」
隣のキョウカに聞く。彼女はかぶりを振った。
「ないと思う。でもまあ、帰ったらお母さんに言っとく」
ハルコがどのような認識なのかはわからないが、こういう事があったと伝えておく事は大切だろう。広場から上に続く山道を眺めて、ふと奇妙な事に気がついた。
「あれ、何だろ。落とし物かな」
視力が上がっている為、花びらや木の葉と明確に違うものが落ちているのがわかる。銀色の包み。チョコレートか何かだろうか。
老人の歩いてきた所に落ちている、ということは、彼が落としたものだろう。遭難時用にそういった菓子を持ち歩くという事は良くあるが、ポケットに穴でも開いていたのだろうか。
良く見れば、もう少し上の方にも同じようなものが落ちている。
「あーっ!可愛い!ママー!可愛いのがいる!」
ウミが声を上げた方を見ると、空き地の茂み、山側から出てきた茶色い生き物が、地面に鼻を擦り付けて何かを探している。あれは。
「ウミ!こっちにきなさい!」
ウリ坊だ。確かに可愛い。ころころとした身体とつぶらな瞳はとても愛らしく、ふわふわとした縞模様の毛並みもまるで愛玩動物のようだ。だが、あれは野生の獣である。
慌てて駆け寄って姪を抱き上げる。小学生の小さな姪は、もっとウリ坊を見ていたかったのか不満そうな声を上げた。ダメだってのに。
子供のイノシシがいるという事は、間違いなく近くに親がいるのだ。迂闊に近づけばどうなるか。
がさがさと茂みをかき分け、案の定、体重120キログラムはありそうな大物が姿を現した。成体のメスである。
「でっかー、あれ、いのしし?」
「イノシシだよ。危ないから離れようね」
鋭い牙で突進激突されては大の大人でも命に関わる大怪我を負ってしまう、触らぬ獣にタタリ無し、である。ウミを抱いたまま、急いでその獣から距離を取る。
ウリ坊は近くでやはり鼻を地面に擦り付けて何かを探している。大人たちもやや遠巻きに距離を取った。
「刺激しないように。ゆっくりと下がって……」
弟の方に目をやって失態を悟った。まだ食い物が入っている重箱が地面に置いてある。鼻の良い獣はすぐにアレに気がつくだろう。
最悪、中身はどうでもよい。あまり野生の獣に人間の食べ物を与えるのは問題だが、安全第一である。イノシシが弁当の残りを食らっているうちに、こちらは退避すれば良い。重箱は惜しいが、こちらには子供が三人もいる。危険は犯せない。
しかし、しかしだ。何という事だ、大きな弁当箱の近くには、食いしん坊のショウが陣取っているのだ。
彼は何故か箱を持ち上げようと頑張っている。弟のトシツグはイノシシを凝視しており、その事に気がついていない。
大きな雌イノシシがその弁当箱に気がついた。油ものを入れてあるのだ。さぞかしうまそうな匂いがすることだろう。これは、仕方が無いか
「ウミ、ちょっとじっとしててね」
彼女をその場に下ろすと、ゆっくりとショウのいる方に歩みを進める。イノシシの進路の前に立ち塞がった。
「トシツグ、ショウを抱いて下がれ」
イノシシが前脚で地面を掻いて身体を沈めた。来る。
弾丸のような突撃が来た。この距離、普通の人間であれば避け損ねて身体のどこかを引っ掛けられ、大怪我をするようなタイミングだ。だが、自分にとってはどうという事は無い。竜に比べればのろまな亀も同然の動きである。
軽く横にステップを踏んで突進を避けると、そのまま横合いからイノシシの首元につま先で蹴りを放った、
重心を蹴られた巨体が慣性のまま、悲鳴を上げて斜めに転がっていく。ちょっとやりすぎたかもしれない。
そのまま様子を見ていると、よたよたと立ち上がった獣はこちらを一瞥して、いつの間にか三匹に増えていたウリ坊を引き連れて山の中へと帰っていった。獣は自分より強いものに対して敏感である。猪突猛進とは言うが、流石にこれだけ実力差があれば無理だと思ったのだろう。
「ブラストキック!」
ショウが先程のこちらの動きを真似している。ライダーではないのだが。
「やれやれ、結構でかかったね」
弁当箱の包みを持ち上げる。これが呼び寄せたわけではないとは思うが。
「強いな、エロ水着のくせに」
「水着は強さに関係ない」
憎まれ口を叩く妹も、内心はほっとしているのだろう。小さく息を吐いたのは見逃さなかった。
「でかかったな。でもおかしいな、今まであんな奴、下に降りてきた事なかったのに」
「だよね。山の中にはいるけど、ここのイノシシもシカも、基本的に人間を恐れて降りてこなかったんだけど」
ソウとキョウカが首を傾げている。確かに自分もここに花見に来たことは何度かあるが、イノシシに遭遇したのは初めてだ。タヌキなら何度か匂いにつられてやってくる事はあったが。
思う所があって、山道に落ちていたものの所へと近づく。やはり、そうだ。
「チョコレートだよ。さっきのお爺さんが落としていったんだ。多分、これを追いかけて来たんだと思う」
ご丁寧にポッケから一定間隔で落ちていたのだろう。人間の落としたものを食べているうちに、警戒心が薄れた、という事だろうか。
イノシシは雑食性である。悪食であり、大体なんでも食べる。最近は都市部でもゴミを漁っていたりするので、お隣のハリマ県なんかではゴミ置き場に頑丈な金属の箱を使うようになったほどだ。
人を恐れなくなった獣は怖い。食い物を持っている存在だと認識されてしまえば、奴らは堂々と人を攻撃する。
「ジジイ迷惑すぎる……不法侵入と窃盗だけじゃなくてお土産まで持ってくるとか」
「ねえ、もう帰ろう?流石にちょっと怖かったし」
子供たちは思わぬアクションシーンが見れたことに興奮していたが、流石にその脅威性を認識している大人たちの顔色は青い。酒の酔いもどこへやら、早々にバスに乗って引き返したのだった。
「ん、なんだ?」
夕食時、ソウと自分のスマホがほぼ同時に振動した。通知を見ると、チャットソフトであるワイアードのグループチャットだ。書き込んでいるのは弟の嫁、ミオだった。
『ごめんなさい、ウミが、学校のグルチャでミサキさんの事話しちゃったみたい』
なるほど、まぁ、こういう事はいつかあるだろうとは思っていた。小学校低学年の子供に、親戚の有名人の事を黙っていろというのは酷な事だ。子供のやった事である。仕方が無い。
というか、最近の小学生は低学年でも友達同士でワイアードも使うのか。時代の流れとは言え、なんだか不思議な感覚である。
「どうすんだ?」
「どうもしないよ」
ただ、迷惑がかかっては困る。それだけは気をつけなければ。
スマホを操作してチャット欄に文字を打ち込む。
『大変な事になったら教えて。ウミの事、叱らなくていいから』
事後対応で良いだろう。マスコミ関係なら、あまり酷いようであればオオイやサカキに言って対応させれば良い。一般人相手の場合はその時々の対応になるだろうが。
「多分、今日のアレかなぁ。イノシシ相手とは言え、戦う所見せたのはまずかったかもしれない」
「あぁ。ショウ君とか大喜びだったもんなぁ」
あの後、バスの中でもショウは大変興奮していた。彼は日曜日の朝に放映されている特撮番組、ブラストライダーの大ファンなので、ああいったアクションシーンが大好きなのである。
「マスコミ関係は多分こっちでどうにかなるから、問題はお友達の方だな」
「やっぱり、会わせろってなるか」
「なるかもなぁ。どうしよう」
直接会いに行くのはダメだ。そんな事をしていてはキリが無くなってしまう。全てのファンに対応できるほど、自分は暇でもなんでもないのである。
「一緒に撮った写真とかでいいだろ。それでウミちゃんが嘘つきだって言われる事もないだろうし」
「そうだな。まぁ、それしかないか」
無難なところである。有名人と知り合いだという事が分かれば良いだけの話であり、サインを要求されてもまぁ、小学校の1クラス分ぐらいならどうにでもなる。そのご家族ともなればちょっと苦しいが。
どうにでもなる。そう、どうにでもなると思っていた。姪に関わっている全ての人間がこちらに好意的であると、この時は勘違いしていたのだ。
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