第22話 くっころガチ勢、天才王子と共に動き出す

(……まあ大丈夫か。違和感無いしなんとかなるだろ)


俺は大きな鏡の前で自分の格好を確認していた。

服装は制服だが髪の毛を専門の人にいじられまくっていい感じにセットされている。

自分とは思えないくらいイケメンで居心地が悪い。


「やぁ、ジェラルト。しっかりキマってるね。カッコいいよ」


「男に言われても別に嬉しくないぞ。それにお前に言われたくない」


話しかけてきたローレンスにため息をつく。

こいつは俺以上にバチッとキメていてイケメンだった。

別に嫌味だとは思わないがお世辞にしか聞こえない。


「本当にカッコいいと思うよ。今のジェラルトならモテモテさ」


「噂のことがあるのに近寄ってくるとかドレイク家にすり寄りたい連中だけだろう。それにモテたいとは思わん」


「あはは、相変わらず欲がないね。とりあえずそろそろ時間だと思うし行くかい?」


「ああ、そうだな」


俺はローレンスの言葉に頷き更衣室を出る。

そして係の者に連れられやってきたのはきらびやかなパーティー会場だった。

今まで参加したパーティーの中でもトップクラスにデカいし豪華なパーティー会場だ。

見ているだけでうんざりするが今日ばかりは参加しないわけにもいかない。


「従来のものはもっと小さいって聞いてたけど随分と大きい会場を用意したんだね。既に貴族たちもたくさん集まっているようだしね」


「仕方ないだろう。今年は新入生に第1王子と第2王女がいるんだ。いくら入学記念と言っても小さく開催できるはずもない」


そう、今日は士官学校の入学記念パーティーなのである。

入学してもう一ヶ月経ってるし遅くないか?とも思うが寮生活に慣れるであろうこの時期に開催されるのがいつものことらしい。

いろいろと考えられてるんだな。


「料理もたくさん用意されてるみたいだよ。挨拶が終わったら食べに行こう」


「時間があったらな。俺はその前にやるべきことがある」


「あれ?そうなんだ。じゃあ僕は君が好きそうなものを見繕っておくとするよ」


「ああ、そうしていてくれ。合流できなかったらすまん」


「いやいいさ。お互い事情だってあるだろうしね」


そんなことを話していると場が一気に静かになっていく。

どうやら始まるようだ。

俺達が正面のステージのようなところのほうを向くと一人の男性が何人もの護衛を伴い立っていた。


「みな、聞こえるか?我はロナルド=アルバーである」


決して声が大きいわけじゃないのに不思議と通るその声の主の名はその正体を知らなかった平民の新入生たちを固まらせるのに十分であった。

ロナルド=アルバー。

ヴィクター王子とシンシア王女の父にして現アルバー王国の国王その人である。

そして校長先生のような堅苦しいスピーチが始まった。


(本当に暇だな……前世と比べて体操座りさせられていない分は楽だけどここで粗相をしようものなら大問題になっちゃうしちゃんと聞かなくちゃならないってのがな……)


それから王妃、宰相と続き各有力貴族たちのスピーチが進んでいった。

その中には父の姿もあり、将来は俺もあんなことをしないとならんのかとげんなりした気持ちになる。

そしてようやく長かったスピーチが終わり乾杯の合図と共にパーティーが始まった。

平民たちは豪華な料理に目を輝かせ、令息令嬢たちは自由にパーティーに参加し、大人の貴族たちは笑顔を浮かべ腹黒の会話を繰り広げていた。

俺はどうしようかなと考えていると近づいてくる2人の人影に気づく。


「やれやれ、ようやく長ったらしいつまらんスピーチが終わったな」


「兄様、そういうことを言ってはいけませんよ」


大量に料理が盛られた皿を持ったヴィクター王子とため息をつきながら並んで歩いているシンシア王女である。

というか王子様アンタがそれを言っていいのか?

アンタもいずれはスピーチをする側になるんだぞ?


「言いたくもなるだろう。みな同じようなことばかり言って代わり映えしないではないか。あんなのは時間の無駄だ」


「はぁ……」


いつも通りの兄妹の風景だ。

頭のおかしい兄に振り回される真面目な妹。

ヴィクター王子も俺くらい常識と普通の感性を持っていれば俺とアリスのように仲良し兄妹になれるというのに。

まあいいや。俺はシンシア王女にちょっかいをかけるとしよう。


「シンシア王女が自ら私たちのもとにいらっしゃるとは珍しいですね。勝負のとき以外私と目も合わせようとしないのに」


「私だって来たくて来たわけじゃありません。兄様に付いてこいと命令されたので致し方なくです」


そう言ってシンシア王女はぷいっと顔をそむける。

どうやら俺は好かれているわけではないらしい。

嬉しい。


「それにしてもその髪型、とても似合っていますよ。美しく可愛らしいです」


「なっ!うるさいです!」


「あっはっは!社交辞令くらいでそううろたえなくてもよいだろう」


「兄様は黙っていてください」


「………」


シンシア王女にチクリと言われヴィクター王子が黙り込む。

というか別に社交辞令ってわけでもないけどな。

今のシンシア王女は髪を編み込んでいていつもと随分印象が違う。

多分シンシア王女への褒め言葉を社交辞令だと言ってのけるのはヴィクター王子くらいのものだろう。


「両殿下は挨拶などは大丈夫なのですか?」


「おそらく挨拶したい貴族どもはたくさんいるだろうな。だが面倒なことこのうえないゆえ逃げてきたのだ」


「えっと……それは大丈夫なのでしょうか……」


ローレンスの質問に自信満々に答えたヴィクター王子に更に不安そうになるローレンス。

まあここ2週間ほどヴィクター王子の頭おかしさは死ぬほど思い知らされてきたが同じようにその才能も十分見せつけられた。

本当に必要ないと判断したからここにいるんだろうし大丈夫だろう。


「安心しろ、全く問題はない。お、これは美味いな。食うか?ジェラルト」


そう言ってヴィクター王子は俺に皿とフォークを押し付けてくる。

確かに美味しそうではあるが誰がこの場面で『はい、ありがとうございます』と言って食べることができようか?

無理に決まってる。


「いえ、遠慮しておきます。隣の方に怒られそうなので」


「兄様?それはマナー違反ですよ?お食事をするのは結構ですがちゃんと行儀よく食べてください」


「ぐっ……おのれジェラルト……!謀ったな……」


俺がヴィクター王子を生贄に捧げると恨みがましい視線を向けてきた。

謀る以前に自業自得だと思うんですが。

この王子は本当に頭が良いのか悪いのか。

まあ馬鹿と天才は紙一重っていうしこんなものか。


「まあいい。冗談はこれくらいにしておこう」


「……?兄様?一体どうしたのですか?」


「ヴィクター王子。もう動くのですか?」


「ああ、時は近い。そろそろ動いても良い頃合いだろう」


そう言ってヴィクター王子は不敵に笑うが話を聞かされていないシンシア王女とローレンスは疑問符を浮かべるばかりだ。

ヴィクター王子は近くにいた使用人に自分の持っていた皿を預ける。


「さて、移動するとしよう。シンシアとローレンスもついてこい」


「殿下とローレンスも連れて行くのですか?」


「ああ。シンシアは立場上男と二人きりで放置するのはあまり好ましくない。一人だけ置いていくのもおかしな話ではないか。その男はなのだろう?」


「はい。ローレンスはですよ」


俺がそう答えるとヴィクター王子は満足気に頷き歩き出す。

俺達3人は言われるがままヴィクター王子の後をついていった。


「あの、兄様。一体何を……?」


「なに、少し面倒な奴と話すだけだ。そなたとローレンスはついてくるだけでよい」


そう言われてシンシア王女は黙り込む。

そんなことを言われてしまえば質問のしようが無いしな。

まああらかじめ話を聞かされていない2人に何かしてもらうのは難しいしその場に立ち会ってもらうだけでも意味があるだろう。

ヴィクター王子は目的の人物を発見するとすぐに話しかけた。


「マーカム公。少し良いか?」


「これはこれはヴィクター王子殿下。この私めに何かご用でしょうか?」


ヴィクター王子が話しかけたのはゲイリー=マーカム。

王族を除くと貴族の最高位である公爵である60代ほどの老人だ。

そしてこの国の宰相でもありに君臨している。


「少し話がある。時間をもらえるか?」


「……ええ。私でよろしければなんなりと」


俺が安寧で幸せなくっころライフを堪能するためには決して避けて通ることはできぬ壁。


さぁ……思いっきりかましてやろうじゃないか──

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