第20話 くっころガチ勢、悪巧みを始める
「たぁ!ふっ!」
朝のまだ太陽も昇りきっていない頃、カツンという木と木のぶつかり合う音が訓練場に鳴り響き2つの人影が縦横無尽に動き回る。
一人は金髪を揺らしながら必死に攻撃し、もう一人は少し笑みを浮かべながら余裕でいなしていた。
そう、俺とシンシア王女の模擬戦である。
「あなたは……!本当にいつも……!余裕そうですねっ……!」
何度も戦えば癖や手の内はどんどん明らかになっていく。
お互い同じ条件のはずだが俺は最初からあまり全力で戦っておらず手の内も何もないので最初に戦ったときより余裕を持ってシンシア王女と対峙している。
まあ無限くっころ計画は勝てると思わせてしまうと計画が根本から狂ってしまうので万が一が無いように油断はできないのだが。
「やぁ!」
シンシア王女が放った渾身の突きを落ち着いて横から弾くとシンシア王女の体勢が崩れすかさず首元に木剣を突きつけた。
シンシア王女は剣を離して両手を上げ降参する。
だが勝った俺は素直に喜べなかった。
なぜなら──
「今日も私の負け、ですね……本当にあなたは強いです。まだまだ力を隠しているようですし」
「あ、あはは。そんなことはないですよ。それよりシンシア王女こそ最初に戦ったときより強くなっていると思いますよ」
本来の計画ではここからシンシア王女がくっころムーブに入り悔しそうに俺を睨みつける……はずだったのに……
もちろん今のシンシア王女の表情もめちゃくちゃそそるし、もしこれが二次元ならばためらいなくスクショを撮って俺のくっころコレクションに追加していたことだろう。
だが最初の模擬戦の後のあの表情がどうしても忘れられないのだ。
人間とは罪なもので一度最高の物を知ってしまうと高級な物で我慢できない生き物らしい。
俺の想いだ何だの話していたことで好感度が上がってしまったのか知らんが今のシンシア王女の表情からは悔しさは感じられてもあのときの怒りや情けなさを感じることができないのだ。
俺はもっと屈辱に耐え、気高くあろうと虚勢を張る姿のほうが好みなのである。
(これは由々しき事態だ……早急に何かしら手を打たなくては……)
俺は少し頭を悩ませ訓練場から出ていくのであった──
◇◆◇
「どうしたんだい?どこか浮かない顔をしているけど」
俺がシンシア王女の無限くっころ計画について頭を悩ませながら登校していると突然肩を叩かれた。
振り向かなくても誰がこんなことをしてきたのかはすぐにわかる。
「そんなにも顔に出ていたか?ローレンス」
「おはよう、ジェラルト。そんなことは無いと思うよ?ただ見る人が見れば気づくと思うから少し気をつけたほうが良いかもしれないけど」
最近鍛えたはずの表情筋が鈍っている気がするな……
なんかニヤケも抑えられなくなってきてるしもう一度初心に帰って鍛え直してみようかな。
せっかくシンシア王女という素晴らしき人材がいるのだからあのとき以上のくっころを見るぞという願掛けも兼ねて。
「それで?一体何について悩んでたの?」
「ん?まぁ人間関係についてちょっとな」
俺がそう言うとローレンスは本気で驚いたような顔をする。
俺はそんなにも意外なことを言ったのだろうか?
普通に15歳なんてそういったことで悩むのが普通だと思うのだが。
「何をそんなにも驚く?別に珍しい辺鄙な悩みでもないだろう」
「いやぁ……ね。君の今までの行動から人間関係なんてクソ食らえだくらいに思ってるものだと思ったから……」
失礼な!
人間関係をクソ食らえだなんて思ったことはないわ!
ただちょーっと人が誤解しやすくて俺が悪役に見える噂を放置というか広がるように助長しただけで人間関係を蔑ろにしようなんて思うはずないだろ!
「別にそんなことは思ってないさ。人間一人では生きていけない生き物だしな」
「ジェラルトがそんなことを言うと違和感しかないよ……でももし悩んでるんだったら僕でよかったらいつでも聞くよ」
そう言ってローレンスは屈託なく笑う。
そこで俺は思った。
俺は前世では彼女いない歴=年齢というか二次元のくっころを発掘する日々を送っており当然の童◯で三次元の女性の扱いに詳しいはずもない。
だが目の前のこの男はどうだろうか。
イケメンな上に性格も気さくで話しやすくおまけに伯爵令息というかなりの身分もある。
女性経験が豊富であってもおかしくはなくこいつに助言を求めるのはかなり有効な気がしてきた。
「じゃあ少し聞いてくれるか?」
「もちろんだとも。どんなことで悩んでいるんだい?」
「実は一人の女性と距離感を計りかねていてな。どうしたものかと悩んでいるのだ」
俺がそう言った瞬間、ローレンスは水筒で飲んでいた水を吹き出した。
何やってんだこいつという目で俺がローレンスのことを見ているとローレンスはハンカチを取り出して急いで口元を拭き俺の肩をガバっと掴んだ。
「き、君の悩みって女性関係なのか!?」
「ああ、そうだ。ローレンスは女性経験はあるのか?」
「それはまあ、あるにはあるけど……本当に意外だな」
やっぱりあるのか。
まあ貴族は子作りも使命みたいなもんだし練習みたいでやらせる家もあるから珍しくもなんともないし今はありがたい限りだ。
「まあ僕から提案したことだし真面目に相談に乗らせてもらうよ。君はその女の子と仲良くなりたいってことでいいんだよね?」
「いや、どちらかといえば嫌われたい」
「嫌われたい!?僕そんな相談されたことないんだけど!?」
「まあこんなことを言い出すのは珍しい部類だろうというのは自覚している」
「はぁ……それってもしかしなくてもシンシア王女のことでしょ?殿下のこと嫌いなの?」
「いや?結構どころじゃないくらい気に入ってるぞ」
「ますます君の言ってることがわからないよ……」
ローレンスはそう言って呆れた顔で肩を落とす。
やはり難しいのだろうか?
ちょっとした意見だけでももらえたら嬉しいのだが。
「絶交レベルで嫌われたいってわけでもなさそうだし一番難しそうなことを言うよね、君は……。まあちょっと考えてみるから少し時間をくれないかな?」
「ああ。考えてくれるだけでもありがたい。感謝するぞ、ローレンス」
「他でもない君の頼みだからね。できるだけ頑張ってみるよ」
俺はとても良い友を持ったものだ。
普通の知り合いとかにこんな質問をしようものなら『は?知らねえよそんなこと。そんな意味わからんこと自分でなんとかしろよ』くらい言われてもおかしくないものだろうにローレンスは真剣に考えてくれるらしい。
今度さり気なくイーデン伯爵家のことを褒めておくことにしよう。
そんな話をしているといつの間にか教室に到着しており中に入るとヴィクター王子が近づいてきた。
その場からどくとヴィクター王子は俺の肩に手を置いてニカッと笑った。
「余がそなたに用があるとわかっていたのにわざとどいただろう?本当に面白い男だ」
「そんなことはありませんよ。ただ教室の外に何か御用があり外に出る場合は私が邪魔だったので移動しただけですよ」
「ふっ。しっかりと目が合っておいてよく言う。まあいい。少し余に時間をもらえるか?少し話したいことがあるのだ」
「ええ。別に構いませんよ」
正直、なぜこのタイミングでヴィクター王子に呼び出されるのかは心当たりも無いし見当もつかない。
だが俺に断るという選択肢は無く首を縦に振った──
◇◆◇
人気が全く無い校舎裏に俺とヴィクター王子は来ていた。
前世も含めて校舎裏に行くことはそう無かったがやはり人が全くいない。
「さて、すぐにでも話を始めたいのだが……盗み聞きの気配は?」
「全く無いですね。というか殿下の護衛はどうしたのですか?」
「今回はそなたと二人きりで話したかったからな。少しだけ席を外してもらっている」
どうやら本当に極秘の話らしい。
何が飛び出すのかわからず緊張感が漂う。
「実はそなたに提案があるのだ」
「提案、ですか?」
「ああ。────────────────────についてのことだ」
「っ!!!!………その話詳しくお聞かせいただいても?」
「もちろんだ。そなたには全てを話そう」
そしてそれから俺は王子の話を聞き、驚きの中に喜びがあった。
これは間違いなく無限くっころ計画に良い影響をもたらすスパイスどころか劇薬になると。
「なるほど。確かに面白い。ですがこの案件は私たちの手に余るのでは?」
「それについては全く問題ない。あとはそなた次第だ」
「……私にとっては大歓迎であり拒む理由などありませんよ。ぜひその話に乗らせていただきたい」
「二つ返事とは随分な判断力だな。だがその決断に感謝する。ジェラルト=ドレイク」
俺と王子は同時にニヤリと笑いガッチリと握手をする。
これは王子にも俺にも利益のある話だ。
さぁ……面白くなってきたぞ……
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