第6話 くっころガチ勢、桃源郷を見つける
夜、皆が寝静まる中、俺はベッドに寝転がりながら魔装の練習をしている。
この一週間マーガレットに見てもらいながら魔装の練習をずっとしているがなかなか上手く行かない。
各部位に魔力を集めることはできるようになってきたのだが薄くするというのが魔力操作が相当ないとできないらしく会得できていないのだ。
マーガレットは一ヶ月以上はかかってもおかしくないし何年もかかる人もいると言っていたので気長にやるしかないのだろう。
「はぁ……今日は随分魔力を使ったし今日はもう休むか……」
魔力の練習と言っても2種類あり全力で魔力を放出すれば瞬間放出量が増えるしゆっくりずっと出し続ければ魔力量が増えるし回復量も上がる。
両方バランスよく鍛えなければ強くはなれないのだ。
体力切れとはまた違った気だるさを覚えながら俺は眠りについた。
◇◆◇
朝、日が昇る前に目が覚めると俺は日課のランニングと剣の素振りを始める。
それらをしながら魔力を放出せず体内で自由自在に動かし魔力操作の練習というマルチタスクだ。
今までは努力なんて三日坊主が当たり前だったのに今は剣や魔力の練習をするのが楽しくて結構きついはずのトレーニングもやめたいという気持ちにはならない。
この先には美しきくっころが待っているからな。
「はぁ……はぁ……もうすぐ朝食の時間か……すぐに汗流して食堂に向かわないとな……」
俺はすぐに湯浴みをしにいく。
この屋敷は大きくて女湯と男湯がわかれている。
確実にラッキースケベなんて起きなくて残念としか言いようがない。
マーガレットの湯浴みを覗きに行こうかとも考えたがそれはラッキースケベではなくただの覗きでありなんか嫌だ。
どうせなら俺はラッキースケベで『あ、アンタなんかに裸を見られるなんて……くっ……殺しなさい……』と言って顔を赤くして、目をうるませながら俺を睨むマーガレットを見たいのである。
言っておくが別に俺がドMなわけじゃないからな?
どっちかと言えば俺はS寄りだしくっころ好きはみんなSの傾向があるのだ。(諸説あり)
まあヒロインがやられてるのをニヤニヤしながら見てるわけだしな。
(はぁ……それにしてもなんでこの家はこんな大きいんだか……もうちょっと下級貴族とかだったらラッキースケベが見れたんだろうか……)
俺は水分補給をして服を脱ぎ始める。
少しベタついていて気持ち悪かった感触が服を脱ぐと共に涼しくて開放感を感じた。
前世でもジムとか通ってみたら楽しかったかもな。
そして浴場の扉を開けた瞬間、そこには桃源郷が広がっていた。
赤く長い髪は一つに束ねられ、膨らみかけた胸はロリコンでない俺ですら何か開いてはいけない扉が全開になってしまいそうな甘美な魅力を持っていた。
タオルに隠された見えそうで見えない
(神はこんなところにいたのか……前世も合わせて人生22年……ここが人類の最高点だ……!)
そしてそこまできて俺は思った。
なぜこんなことになっているのかと。
もうばっちり目が合ってしまっている。
「〜〜っ!ジロジロと……そんなに見てんじゃないわよ!」
魔装を纏った一撃が飛んでくる。
しかし、俺の目は捉えていた。
激しい動きで取れそうになるタオルを。
(ここで拳をもらったら間違いなく気絶する……だが俺は真の境地に至りたいんだ!)
この一撃だけ……たった一撃だけ躱せば神秘の桃源郷にたどり着くかもしれない。
そう考えた俺はこの世界に来て一番の集中力を発揮していた。
自分から剥がすのはナンセンス。
故にこの一撃を防いであとは自然の摂理に任せるだけである。
そう思った瞬間、今までどれだけやりたくてもできなかったはずの魔力が体全体に薄く広がっていく感覚がする。
五感も冴え体も異常なほど軽かった。
まさかとは思ったがここで驚いている暇はない。
すぐそこまで我が師の拳が迫っている。
(避けろ……俺の体……!)
俺の祈りが通じたのかギリギリで俺は拳を避ける。
頬にかすって血が出てくるがそんなことはどうでもいい。
俺はこれから起こるであろう事象に全神経を傾けた。
スローモーションでタオルが取れていく。
しかしここで俺にも予想外の出来事が起こった。
「きゃあっ!?」
「危ない!?」
このフィールドは濡れた浴場。
マーガレットは攻撃を空振りしたことでバランスを崩したのだ。
咄嗟にマーガレットを抱きとめ踏ん張る。
すると無事に2人とも倒れることなく耐えることができた。
「ふぅ……危ないところでしたね」
漫画とかでありがちな胸とか変なところを触ってしますとかそういうアクシデントもない。
神秘の桃源郷にたどり着けなかったのは残念だがマーガレットに怪我がなくてよかった。
「大丈夫ですか?師匠?」
「あ……ぅ……」
「師匠?」
「バカッ!」
その瞬間、俺の意識はブラックアウトした。
◇◆◇
目が覚めると俺は自室のベッドに寝っ転がっていた。
起き上がろうとすると顎がズキンと痛む。
そして俺は顎にもろに拳をくらったことを思い出した。
「あら、目が覚めた?」
「……?師匠?どうしてここに?」
「見舞いに来ただけよ。いくらなんでも5歳の子を相手に魔装を使って殴りかかるのは大人げなかったわ」
そう言うマーガレットは少し元気が無いようだった。
確かに一般的に見れば5歳で性に目覚めるケースはほぼ無いだろう。
それに免許皆伝の人が全力で殴りかかるのは大人げないと言わざるを得ない。
だが……
「いえ、僕が悪いんです。師匠が入っていることに気づかなかったんですから」
「でも……」
「師匠は貴族のご令嬢なんですから男に裸を見られそうになって気が動転してもおかしくはありませんよ。まあ魔装まで使うのはやり過ぎかもしれませんが」
「う……わかってるわよ。そんなこと」
マーガレットは俺のベッドの横に置いた椅子に座ったまま俺の頭を撫で始める。
母とはまた違うその手の温もりがなんとも心地よかった。
「アンタに人を無闇に傷つけないために剣に誇りと誓いを立てなさいって言ったのは私なのに……これじゃあ私は……師匠なんて失格よ……」
マーガレットの頬に静かに涙が流れる。
もしかしたらマーガレットは自分の手で誰かを傷つけてしまったことがあるのかもしれない。
こんなエロガキを殴ったくらいそんなに気にしなくてもいいのにな。
「師匠、師匠は剣ではなく拳を使ったんです。だからその誇りと誓いを穢してなどいませんよ」
「……何が言いたいのよ」
「僕は師匠と今の関係でいたいです。師匠が僕の師匠を辞めるなんて絶対に嫌です。ですから……今回はお互い悪かったということで水に流しませんか?」
客観的に見れば俺の方が悪いのかもしれない。
だがこのままだとマーガレットは自分を責めてしまうだろう。
まあ精神年齢は高くとも体は5歳だしまだこの年なら銭湯とかでお母さんと一緒に入る年頃なんじゃないだろうか。
というか許してくれ。
それにタオル越しだったから良かったものの胸を触っちゃったり裸を見ちゃってたら責任をとって俺がマーガレットを嫁にもらわないといけなかったのだろうが今回は一応セーフだ。
「ふふ……なにそれ」
「駄目ですか……?」
「いいえ。ダメじゃないわ……」
マーガレットはニコリと最高の笑顔を見せてくれる。
不覚にも少しドキリとしてしまった。
だが俺が見たいのはあくまでくっころだ。
次の瞬間には胸の高鳴りは収まっていた。
「それじゃあ、これからもよろしくお願いします。師匠」
「ええ、こちらこそよろしくね。ジェラルト」
俺達は目を合わせると自然と笑みが溢れてきて一緒に笑いあった──
ちなみにマーガレットが男湯にいたのは女湯の湯を張る魔道具の調子が悪かったかららしい。
普通に俺が掃除中の看板に気づかなかっただけなのでまぁ俺が悪かった。
次からは気をつけるとしよう。
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