第6話 仲直り

 翌日。

「おはよー」

 由紀ちゃんが他の女子と共に、クラスに入ってきた。

「あっ、由紀。見てみて!これ、昨日イオンで買ったの」

「おー、OTSじゃん、それ。かっこいいねー」

「でしょー?しかもさ、ほら!みんなの目がキラキラ光るようになってんだって!」

「ほんとだー、すごーい」

 最近はやりの韓国アイドルグループらしいが、そんなのはどーだっていい。

 私は由紀ちゃんと話さなければならない。今日中にだ。

 さもなくば、あんな恐ろしいやつに何されるか判らない。

 一体どういうことかと言うと。


 昨日、割れた玉から出てきたおじいちゃんは、こう名乗った。

「私は松ノ殿しょうのでん。この世界の生命を司るものであり、また神王しんのう様の忠実な下部でもある、この世で3番目の神だ」

 全然わかんない説明を一通り聞くと、今度は私が名を名乗った。

 自己紹介が終わると、松ノ殿はふよふよ飛びながら言った。

「そなた、近衛由紀という少女を知っているだろう」

「!そうだけど、何で」

 相手はやはりそうかと言わんばかりに私を見る。

「あやつに話したいことがあってな。しかしわしから言うと、信じてもらえなさそうだから代理でお願いしたい」

「いや、でもまず、あんたの目的を知らないと・・・」

 そう言い終わらないうちに、松ノ殿は窓から外へ出ようとする。

 窓を勝手に開けて飛び去ろうとする彼に、私は話しかけた。

「あんた、何が目的で由紀ちゃんを」

 すると、生命の神(?)は振り返って言った。

「それは、明日のお楽しみ」

 そして、沈みかかった太陽の中に消えていった。

 私はそれを、呆然と見送った。


 そして、今日。

 実を言うと、昨日のうちはそんなものお願い聞いてやるもんか、と思っていた。が、考え直してみるとこれはチャンスかもしれない。由紀ちゃんと仲直りするチャンス。もしかしたら松ノ殿は神だから、このことを知っていたのかもしれない。そして、こうして仲直りさせるために仕組んだのだろう。

 それならそっちの方が得だと思って、この場に臨んだ。

 しかし、いざとなるとやはり足がすくんで動けない。脳が嫌われるという勝手な想像をして、逃げようとする。それが原因で、変われないということはわかっているのだ。

 でも、今しかない。

「ようし!!」

 小さい声で気合を入れた。

 切り替えよう、やって見せる!

 力強くそう思いながら、席を立って歩いていく。

「加奈」

 珍しく由紀ちゃんが早く私に気付いた。

 私達は向き合った。

 空気を読むように、他の女子が由紀ちゃんの近くから離れていく。

 かなりドキドキしたけど、私は重い口をしっかり開いて言った。

「由紀ちゃん、あの時は_____」

「ごめん」

 私の声を遮るように、由紀ちゃんが謝った。

 そして、深々と頭を下げる。

「あの時、加奈の気持ちも聞かずに自分の感情だけで、加奈を抑えようとした。それで、私に話しかけるのが辛くなったんだよね。全然判ってなかった」

「!」

 びっくりした。由紀ちゃんがここまで真剣に話しているところなんて初めて見たから。

「・・・ううん。私も由紀ちゃんのこと考えてなかったよ。ごめんね」

 その時、由紀ちゃんは頭を上げながら急にぷぷ・・・とふきだした。

「え?え?なに」

「ふふっ・・・加奈、泣きそうだよ・・・」

「え!うそ!マジで?」

 確かに涙目になっていた。

 自身の声も少し変わっている。

「気付かんかった・・・」

「うふふふふ・・・、あははは!!」

「・・・あははは!あっははは!」

 何がおかしいのか、よくわからない。

 でも一つわかるのは、私達に楽しい時間が戻ってきたこと。

 クラスのみんなが、何事かと私達を唖然と見ていた。

 おなか一杯に笑う私達を、日光が照らした。

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