学習装置

 数日後、セーナ姫とガリアが訪れた。

 リジーから面会希望の人物を聞いて、ボクが望んだ人に会えるようにしてもらっている。リジーは今外で、ご飯の仕込み中だ。彼女の料理はおいしいんだ。思い出したらよだれが……じゅるり。


 アーティンベルの王家は結界の中にいたほうが安全だからここまでこれず、王、女王、ラスティ姫から感謝の書状を頂いた。リジーに読み上げてもらって、記念にもらった。


「マオさん! 会いたかったですわ!」


 半泣き状態でボクに抱きついてくるセーナ姫。あぁ、なんていい香り。ぐへへへ。


「ボクもキュートな姫様に会いたかったよー」


 抱きついてきたんだからもう相思相愛だよね! 抱きしめ返しちゃっていいよね。そんなに他の人とかいないし。


 ぎゅー。


「そうだ、ガリアがとても心配していたのよ!」


 セーナ姫がすっと離れる。後ろにいたガリアに目を向ける。


「少しやつれた?」

「まぁな」


 微笑むガリア。


「無事で良かったマオ殿」

「今回ばかりは危なかったけどねー」


 胸を張る。


「姫様は大丈夫でした? ガリアも」

「はい、この通り元気です」

「マオ殿のおかげだ」


 良かった良かった。頷いていると、セーナ姫が耳元に口を近づけてきた。


「ガリアったらマオさんが倒れてからずっとアルフさんと剣の鍛錬ばかりしているのですよ」

「危機は去ったとはいえ、マオ殿ばかりに負担はかけていられないからな」

「でもやりすぎですよ、ガリア」


 注意されて、頬をかくガリア。

 うーん、デザイアメイロだとアルフの一人旅だったけど、こうしてガリアが生存したってことはガリアがアルフとパーティー組んだりとかするのかな。


 様子を見るに、なんだか全体的にくたびれている気がする。無理な鍛錬をしているのだろうか。


「ガリア、体は大事にしたほうがいいよ?」


 せっかくボクが助けたんだし。


 しかしガリアは首を振った。


「それは、貴殿もだ。マオ殿」

「ボクはほら不死身だし強いから大丈夫」

「ダメです!」


 ぐいっとセーナ姫が睨む。頬を膨らませて、眉根を寄せる。怒っても可愛い。


「マオさんはマオさんなんですから。無茶はいけません」

「無茶ってわけじゃないけど」


 ガリアを見る。


「あまり子ども……といってもいい気分はしないだろうが、マオ殿のような子が矢面に立つのは私としても心苦しい」

「ボクが屈強な戦士だったらいいのかな」


 両拳を握りしめてマッスルポーズをしてみる。かけらも力こぶできませんけどね!


「心情的にはいくらかマシになるのだろうが――世界の命運をひとりで背負わせたくはない。私が力になれないのは、わかるのだが」


 そこで言い淀むガリア。歯がゆさを感じているのか、落ち着かない。


「じゃあ、ガリアも強くなってくれる?」

「……なれるのなら、なってやりたい。だが、私も歳だ。次の世代に託すことくらいしか尽くすことはできない。生きながらえてしまった身では、やれることも限られる」

「そうでもないさ」


 ボクは指を鳴らす。


 右手にヘルメットが出現する。


「それは?」

「学習装置――ま、使い方は説明するよ」


 いやぁ、素材をもらってから三日三晩不眠不休で……やろうと思ったらリジーに止められたのでできる範囲で時間を注ぎ込んで完成させたんだよね。せっかくだから使ってもらおう。






 ガリアはずっと思い悩んでいた。

 いつの間にか、守られる立場になってしまっていた。騎士とは主を守る者。そして力なき者を守る者。


 しかしホロービタンダのとき、誰一人守れなかった。


 姫を教会まで逃がすのが限界で、己の無力さを呪った。


 国だけではない。かつての仲間たちも。子どもも、妻も。この手を広げて抱きしめてやれるだけの人でさえ、失いたくなかったものさえ、何もかも、こぼしてしまった。


 セーナ姫まで失ってしまったら、どうなっていたことだろう。


 そんな中降ってきた、異邦の人物。


 子どものような容姿で、大人のような思考力で、そして強い。


 仇である敵を討ち倒してみせた。その小さな身体には大きな力が宿っている。


 今更自分が心配する立場にないのはわかっている。次元が違うレベルで強いというのは。


 けれど。


 自分の名を呼ぶ姿が、装備をみせて嬉しそうにするその姿が、彼女も普通の子なのだと感じさせてくれた。


 故郷に帰してやりたい。


 自分はもっと言葉を交わしたい人たちがいた。もう、いなくなってしまった。


 マオに……いや、彼女は見た目よりもずっと長生きだから同じ経験をしているのかもしれないが……故郷に人がいるから帰りたいのだろう。


 だから、協力してやりたい。だが、自分には力が足りない。


 白いキューブ状の部屋の中で、ガリアは相手と対峙する。


 マオだった。数分前までただの布の服だったが、最初の服装になっている。焼けたはずの服が再生しているのはマオが直したのか、それとも


 だ。


「ようこそレベリングゲームの世界に」


 両手を広げて、マオが言う。


「端的に言うとキミは夢の世界にいる。ここでボクと戦闘していっぱい経験を積もう。ここをクリアするころには魔王以外の魔物なら戦えるぞ!」


 きらーん、と。自分を輝かせるマオ。


「時間も気にしなくて大丈夫さ! 起きても一時間も経ってないだろうから! 死ぬほど経験して、ボクを越えよう!」


 拳を振り上げる。そしてガリアを指さした。

 ガリアの周りに剣や槍や盾等が並ぶ。各種様々な形状のものが揃えられていた。


「それじゃ、武器を選んでくれたまえ。準備ができたらスタートって言ってね!」


 ずらっと並ぶ武器。


 それを見回す。どうやってこんな空間をつくったのか、ひどく疑問に思うが、おそらく考えても無駄なのだろう。


 衰えを感じるこの体でもまだ強くなる可能性があるのなら、やってみようじゃないか。


 大剣を選択し、戦士は吠える。


「スタートだ!」

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