ゲーマー魔王は異世界にて最強
月待 紫雲
合法ロリ魔王、異世界に降臨す
魔王はゲームがお好き
ボクはぐぬぬ、とリビングのテレビ画面を睨めっこをしていた。メガネを持ち上げ、折り畳み式の円形テーブルの上に置いてある電子タバコを握ると、電源を入れて咥える。ボタンを三度押すと中のリキッドが蒸発して口の中を満たす。ニコチン、タールのない、副流煙もない、安心安全のタバコだ。
チョコミントみのある味わいが口いっぱいに広がり、目を細めた。
チョコミントフレーバーうんまぁー。
ボクが見ている画面にはドラゴンのドット絵、その頭上にある「魔王ディベリエウス」の名前表記と、左下に「まお」という名前が表示されていた。あとは選択肢がある。
有名なロールプレイングゲーム「デザイアメイロ」のラスボス戦画面だ。
デザイアメイロは魔王に攫われたお姫様を助けるというシンプルなストーリーのゲームだ。
通常のロールプレイングゲームでは仲間を集めて力を合わせて倒す、という流れが王道だが、このデザイアメイロは違う。
右手武器、左手武器、頭防具、体防具、腕防具、ベルト、足防具、そしてアクセサリーの組み合わせで敵を攻略する。
装備には一定のステータスと特殊効果が必ずついている。そして「ランク」というものが存在している。ランクの高い装備にはそれだけ高いステータス数値と強い特殊効果が付与されているのだ。
現れる魔物から装備を手に入れることもでき、魔物から得られる装備はランクは固定ながらもステータスと効果はランダムなことからハクスラ要素もある。
鍛冶屋に頼んでステータスが低めだけど特殊効果が理想に近い装備を手に入れることも可能だ。
デザイアメイロの一作目は三十年ほど前に発売され、ボクが今やっているリメイク版ではかなり手に入る装備数が増えており、ほとんど最新作と同じシステムを採用しているため、かなりやり込みの幅が広がった。
デザイアメイロでは主人公のレベルも存在しているが、レベルに制限がかけられている。最初期だとレベル五十までだ。レベルの制限を解除するにはイベントで手に入るランクの高い装備を一定数集め、さらにレベルキャップ解放のイベントを攻略する必要がある。
ボクは今それを全くしないで低ランクの装備だけでラスボス戦に挑んでいた。
いわゆる縛りプレイだ。
ランクの高い装備をつくってもらったりドロップしてもらうためにはレベル上限を解放しなければならない。けれど、しないでもストーリーは進められる。
装備の組み合わせ次第ではレベル差を覆して勝てる。それがデザイアメイロだ。
ランクの高い装備で固めて俺つえーをするのもいいが、こういう頭脳的な戦いもボクは好きだ。
『魔王ディベリエウスは深く息を吸っている』
戦闘中に特殊テキストが入る。こういう特殊テキストが入ると、「予備動作」という状態がボスに付与される。特定の行動を起こすと大ダメージを与えたり、行動を潰せたりする行動だ。
特殊テキストが示すのは「炎ブレス」攻撃の予備動作だった。対処は簡単で爆発する攻撃をすればいい。
ボクが使うのは装備の効果ではなく、アイテムだ。
ガス風船カエルという火属性武器を持っているときに使用するか、相手の次の行動が火属性攻撃だと爆発するアイテムだ。
ボクはそれを使用する。
魔王ディベリエウスのブレスが発動し、アイテムが爆発。これで行動をキャンセルだ。
そして「丈夫な荒くれこん棒」で一撃を加える。攻撃力ではダメージを与えられないが、レベルの四分の一~半分の固定ダメージを出してくれる特殊効果で最大の二十五ダメージが入った。
そして独特のエフェクトとサウンドでラスボス魔王ディベリエウスが画面から沈んでいく。
その様を見て、ボクは電子タバコの煙を吐き出しながらガッツポーズした。
「ふはは! 見たか偽物め! ボクの前にひれ伏すが良い!」
マキナ・ディベリエウス。
神話に出てくる「魔王」の名前。そしてデザイアメイロに出てくるラスボスの元ネタだ。
さらに言えば、合法ロリ美少女であるボクの本当の名前だ。
ロ
太古には魔術というものが存在していた。ボクはそれを極め、いつしか人が付き従えるようになり、「魔王」と呼ばれるようになっていた。
そして英雄ユーシャとセージョの二人組とその他諸々によって封印されたのだ。もしかしたらあの二人が勇者と聖女の語源なのかもしれない。現代のボクからすると滑稽に感じてしまう名前だが、当時は特に疑問を抱かなかった。
封印は二千と数百年単位で続き、ボクは現代に蘇った。
魔術を駆使し、言語を覚え、戸籍を作成し、身分証明書を得て、そして。
――サブカルチャーにはまった。
魔術という存在は忘れ去られ、差別は昔よりも目立たなくなり、ひとまず暮らしている国では戦争は起きていない。
復活したところでユーシャもセージョもいないし、敵対していた国だっていない。魔王として君臨し直す必要は特にない。味方も敵もとっくの昔にお陀仏だ。
お金があれば遊べる。
世の中楽しいことでいっぱいだった。
中でもゲームは特に好きだった。アクションもロールプレイングも、ソードなアートしそうなオンラインゲームとか、シューティングに、美少女ゲームに、乙女ゲー。
ボク個人としましては乙女ゲーのヒロインの可愛さがたまらなく好きでしてね。
まぁとにかく、ボクは元魔王。第二の人生を謳歌する、ただの一般人になったわけ。
マキナ・ディベリエウス改め、
それが今のボクの名前だ。
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