第5話

二人はそうして水辺でしばらく遊んだ。ひとしきり自分達の姿を眺めた後、お互いに知る限りの話の主人公、お姫様や妖精やらのなりきりごっこ遊びをしたのだった。普段から二人は時々この遊びをしていたのだが、こんな美麗な衣装を着ているとまるで本物になったように思われ、遊びは大変盛り上がったのだった。


まだ日が高いうちに遊び始めたのだがやがて昼になり、腹が空いたので二人とも粉類を固めたものや干し肉などで食事をした。そうこうしているうちに夕方となった。


舶は戻って来る気配はなかった。外海と接するあたりの船で行く難所は、海流の流れが変わるタイミングでさらに難しくなるらしく、日が落ちたり天気が悪いと海面から見分けが難しい。


そのため、島の住人達は、海を渡り行くにも帰るにも晴れた昼すぎ、夕方になる少し前までの間とした。


その時間が過ぎてしまったら行き来することは翌日以降にする、としていたのだ。


「今日はもう誰も戻って来ないかもね」ラウアがそう口にすると声が静かな周りに響き渡った感じがした。


人の気配がないことがあからさまになり、寂しさが際立ってしまう。


ラウアはその雰囲気を打ち消すかのように、「きっと明日には帰ってくるのよね」と続けた。


リーテはそれを聞くとそっとラウアの腕に手を添えてきたのだった。リーテも不安を打ち消そうとしてるように思えた。


「じゃ、夜になる前に寝場所に戻らないと足元が危なくなるからもう行こう。」少女達は歩き出した。


日没後しばらくの間は、まだ薄暗くなんとか足元も見える。ただ行き先に辿り着くまでぐずぐずしていたら真っ暗になった時に古びた細い吊り橋を渡る羽目となる。灯りを持ったとしても足元は危うい。そのためリーテとラウアは先を急いだ。

ラウアの方は、汚しそうだから服を宝箱に戻してから寝場所に向かいたかったなあなどと思いながら。


もう闇が迫ってきてしまった。橋のたもとに隠すように置いてあるオイルランプを灯して先頭を歩いているのがラウア、後ろから続いているのがリーテ。二人の少女たちは周りがとっぷりと暮れてしまっているため、今吊り橋から落ちた場合は助けるのが困難であることはわかっており、暗い水面に落ちてしまわないよう注意深く灯りで足元を照らしながら歩みを進めた。

「こんな時間に二人だけでここ歩いているの、初めてかもね。」リーテが口を開いたが怖さが薄れるようにわざわざ会話をしたようだった。意味のない会話をして互いに元気づけながら、二人は橋を渡り終えた。


島の者達は吊り橋から少し離れた場所にある岩山のところどころに空いた穴を、それぞれのすまいとしていた。


岩山は白っぽい硬質な光沢のある石肌で形成され、それらは溶けて固まったような奇怪な白いこぶの集まりのように見える。


そして岩こぶ同士の合間には赤土があるのだが、雨で浸食したのか赤土部分はえぐれ、ところどころ狭い穴のような空間が自然にできていた。


少し離れて見ると、岩の部分はまるで剥き出しとなった骨のように、赤土の部分はまるで血肉のようにも見える。


彼らの伝承では宝の隠された島には、いにしえの怪獣が戦いで天空から落とされ、島の一部になっていたという部分があるが、この土地の有り様を見た先祖が話を付け加えたのかもわからない。


ともあれ、島の人々はその開いた空間で、うまく屋根ができて洞穴となっている部分を、すみかとして利用していた。


家族がいる者は家族ごと、一人の者は一人用のすみかとして相応の大きさの部分を使ったのだった。


可能ならば掘り進めて奥へ拡張したが、そもそも道具が大して無かったため、僅かずつである。取り急ぎ雨風をしのげる場所を確保したというところだった。


ほこらの部分をすまいとしようという案は、そこに住んだ者がいずれは宝を独り占めするつもりだろうと言い出した者が出たため、採用されなかったのだ。


現在、とっぷりと暮れた夜、この島には少女達二人だけしかいないのであった。


ラウアが自分の住まいの洞穴へ向かおうとしたらリーテが腕を掴んで引き留めた。「待ってよ…今夜は私のとこで一緒に寝てほしいのよ。」

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