大好きなエロゲのモブに転生したけど、どうやらここはヒロインがヤンデレ化する隠しモードの世界らしい
あきらあかつき@10/1『悪役貴族の最強
第1話 無干渉のはずだったのに……
「うん、どこからどう見てもモブの代名詞のような顔だ」
俺、
特にこれと言った特徴のない冴えない顔。
当然ながらイケメンでないし、かといって不細工と言われるほど顔のパーツの配列がおかしいわけでもなければ、目鼻立ちに個性があるわけでもない顔。
同じクラスにも関わらず、街で出会ってもしばらく誰なのかわからないレベルには捕らえようのない顔。
それが今の俺の顔である。
絵に描いたようなモブ顔。
というか事実俺はモブだ。
一ヶ月前に、俺は唐突に前世の記憶を思い出すと同時に、ここが前世でこよなく愛したエロゲ『星屑のナイトレイド』の世界であることに気がついた。
どうやら前世で俺はブラック企業の社畜として生きて30歳の誕生日を迎えると同時に過労死したらしい。
そんなことをふと俺は思いだした。
けど、それが本当に前世の記憶なのか最初のうちは懐疑的だった。
そもそも心霊現象全般を信じない俺にとって前世なんて信じられるはずもないし、いつもの俺なら記憶の混濁か何かだと思う。
けれどもその前世の記憶が妙に鮮明であることと、記憶を取り戻して一週間後に
袴田美優は『星屑のナイトレイド』のヒロインの一人である。さすがに転校してくる前から彼女の名前も容姿も転校をしてくるタイミングも知っているのはおかしい。
まあ、そんなわけで俺は前世の記憶が本物だと信じた。
さて、信じたはいいが、これから俺はどうしようか?
結論、特にやることはなにもない。
いやいやせっかく大好きなエロゲの世界に転生したんだから、もっとヒロインたちと楽しいこととかいっぱいしようよ? とか、思われるかも知れないけれど俺はなにもしない。
なんでか?
それは冒頭で言ったように俺の顔は、おおよそヒロインたちが好意を寄せるようなイケメンではないからだ。
一生日の目をみないような地味顔。
卒業した瞬間に皆の記憶から消えてしまうような実質のっぺらぼう。
それが今の俺の顔である。むしろ本当にのっぺらぼうだった方がみんなの記憶に残ったかも知れない。
そんな俺なんかをヒロインが好きになるはずがない。
いや、むしろ俺の大好きなエロゲのヒロインたちがこんな地味な俺なんかを好きになって欲しくないまである。
だから俺は動かない。
だけど楽しませてもらおうとは思う。
なにせここは前世の俺が心から愛したゲームの世界なのだから。
このゲームを心から愛しているし、30年の短い生涯で最も最高のエロゲだと今でも信じている。
そんな『星屑のナイトレイド』の世界をモブとはいえ最前列でリアルで傍観できるのだからこんなに幸せなことはない。
なんてべた褒めをしてみたけど、このゲームが面白いかと言われればそうではない。
いや好きだよ。だけどさこのゲーム、これといったストーリーもなければこれといった設定もないんだよね……。
ただただ主人公が可愛いヒロインたちに好意を寄せられてイチャラブするだけの山なしオチなし意味なしのクソゲーだ。
が、ブラック企業で社畜として生きて心が荒んでいた俺にとっては、このぬるい空気感が最高だった。
こういうのでいいんだよっ!! 下手に練った設定もストーリーもいらない。ただただ可愛い女の子とイチャラブできる。それって心が癒やされるよね?
それが『星屑のナイトレイド』の素晴らしいところである。
ということで今回の人生も存分に癒やされることにした。
別にヒロインたちの好意が自分に向かなくてもいい。
ただただこのぬるい空間を少しでもお裾分けしてもらえれば俺としては満足である。
幸いなことに主人公、
別にこれといって内容のあるような会話はないが、ゲームに出てきたヒロインたちが動いているのを見るだけでわたくしめは満足です。
ある日の放課後。
「あぁ~今日も生田京介とヒロインたちのどうでもいい話が聞けた~」
そんな幸せを噛みしめながらも学校の最寄り駅に隣接する繁華街を歩いていた。
「あぁ~相変わらずエロゲに出てきた背景と一緒だ」
ただ道を歩いているだけでわたくしめは幸せになれる。
あのビルにあるゲームセンターで
なんてただ街を歩いているだけであらゆる思い出が蘇る。
無機質な建築物を眺めながら幸せな気持ちで歩いていた俺だったのだが。
唐突に背後からけたたましいクラクションの音がして思わず肩をビクつかせる。慌てて後ろを振り返ると黒のセダンが俺の体すれすれの場所を通過して、前方10メートルほどのところで急停車した。
あぶねえ運転だなぁ……。
道路の端を歩いていたにもかかわらずクラクションを鳴らされ、イラッとした俺はどんな奴が運転しているのか確かめてやろうと車を眺めていた……のだが。
ん? 袴田美優……だよな?
車の後部座席から下りてきたのはセーラー服姿の袴田美優だった。
彼女は中年の男女に付き添われるように車のすぐそばのビルの方へと歩いて行く。
その光景を見て俺の頭に疑問が二つ浮かんだ。
まずは袴田美優がセーラー服を身につけていたことだ。
俺たちの通う高校の制服はセーラー服ではなくブレザーであること。
つまり彼女はコスプレをしている。
そして、もう一つは両親らしき男女に付き添われて歩く彼女の表情がひどく暗かったことである。
袴田美優は『星屑のナイトレイド』のヒロインの一人で、清楚可憐な笑顔の可愛い女の子である。
少々天然なところはあるが、そんな彼女の少し抜けた発言一つ一つが前世の俺の荒んだ心を癒やしてくれた。
そんな彼女がゲームでも見たことないような憔悴したような表情を見て、俺は思わず彼女の方へと駆け寄ると、すぐそばの電柱の陰に隠れて彼女を観察することにした。
彼女たちはビルの方へと歩いて行くと、ビルの前に立っている中年の男の前で足を止めた。
「斉藤さまですか?」
袴田の母親らしき女性が中年の男に話しかけると、男は「そうです」と答えて首からかけていた一眼レフに手を触れる。
眼鏡をかけたその中年の男はセーラー服姿の袴田を足下からなめ回すように眺めると「可愛いですね……」と感想を口にした。
なんだろう……きもい……。
思わずその男に生理的嫌悪を覚えていると母親は「では先にお金を」と口にして右手を男に差し出す。
男は「そ、そうでしたね」とジーンズのポケットからくしゃくしゃの茶封筒を取り出してそれを母親に手渡した。
受け取った母親は何も答えずに封筒の中身を確認して下げていたバッグにそれを突っ込む。
そしてまるで蔑むような目を男に向けると「あくまで撮影ですので、彼女の同意なく肌に触れることはお止めください」と言って袴田の背中をポンポンと叩いた。
撮影? おいおいこいつらなんの話をしてんだ?
なんというか彼らの会話からはいかがわしさしか感じない。
が、ゲームをプレイした俺には一つだけ思い当たることがあった。
それは袴田美優が女優の卵であることである。
彼女はゲーム内で人気女優に憧れているという設定があり、彼女と京介が『ロミオとジュリエット』の台本で演技の練習をするというベタすぎるエピソードまであるのだ。
だとしたら、これも女優関係の仕事かなにかなのか?
いやいや、さすがにそういう空気じゃないよな……。
一瞬、納得しそうになったがすぐに否定する。
さすがにいかがわしすぎる……。
けど、少なくとも俺の記憶の中にこんな死んだ目をしながら何かの撮影をする袴田の姿はない。
「じゃあ美優ちゃん、行こうか?」
なんて男は相変わらずきもい視線を袴田に向けると、彼女は「は、はい……」とこれまた相変わらず死んだような目で返事をする。
が、男の手が袴田の背中に触れた瞬間、彼女は「きゃっ!!」と短い悲鳴を上げて怯えた目で男を見つめた。
次に彼女は両親に助けを請うように両親に目を向けるも、母親は「行きなさい」と彼女を諭すだけで助けようとはしない。
母親にそんなことを言われるものだから彼女はさらに瞳を曇らせ、絶望したような顔で男とともにビルへと歩いて行く。
おいおい……なんだよこれ……。
一連のやりとりを見て困惑する俺。
だってここは『星屑のナイトレイド』の世界だぞ?
主人公とヒロインたちがストーリーもくそもない平和な世界でイチャラブするだけのゲームだぞ?
なのにどうしてこんないかがわしい光景を見せられてるんだ?
いや、それ以前に俺はどうするべきか?
悩む。助けるべきだろうか? が、不用意にヒロインに干渉することはストーリーに大きな影響を及ぼしかねない。
なんて一瞬思ったが、それ以上に大好きなヒロインが悲しい目に遭いそうなのを指を咥えて眺めることは俺にはできなかった。
ということで。
「ちょっと待てっ!!」
気がつくと俺はそう叫んで袴田の元へと駆け寄った。
そんな俺の叫び声に袴田、だけではなく彼女の両親も男も同時に俺へと顔を向ける。
「だ、だれ?」
そう言って俺を見つめながら首を傾げるのは袴田だった。
艶やかなショートボブ姿の彼女は透き通った瞳を俺に向けながらそう尋ねてくる。
あ、あれ……もしかして俺がクラスメイトなこと認知されてない?
ちょっぴりショックを受けつつも彼女を見つめると「本当にいいのか?」と尋ねる。
すると彼女ははっとしたように瞳を開いてから、俺から目を逸らした。
どうやら良くないらしい。彼女の意志を確認した俺は「なら逃げようっ!!」と彼女の手を繋ぐと走り出す。
「ちょ、ちょっといったいなんなのっ!?」
そう叫んだのは袴田の母である。が、そんな彼女を無視して俺は走り続けた。
そして、手を引かれる袴田もまた抵抗はせずに俺と一緒に走る。
「ね、ねえ……いきなりなんなのっ!?」
と一緒に逃げながらも困惑したように彼女は尋ねてきた。
「よくわからないけど、お前は嫌なんだろ? だったら無理に付き合う必要はないっ!!」
「な、なんの話?」
「お前の夢はこんないかがわしい撮影なのか? みんなに胸を張れる女優になることじゃないのか?」
「えっ!?」
と、驚いたように彼女は目を見張った。その目はどうして知ってるの? と言いたげだ。
そんな彼女を見て余計なことを口にしてしまったことに気がつくがもう遅い。
「と、とにかく逃げよう。詳しい話はその後だ」
そう言って俺はとにかく当てもなく彼女の手を引きながら走るのだった。
俺のこの行動がシナリオに影響を与えないことを心から願いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます