第49話 シリブロー単独ライブ センター
「みんなありがとう!!」
"どうにもこうにも止められない!!"が無事終わった俺は舞台袖に手を振りながら向かっていく。舞台袖には四人が待機しており、横を通り過ぎる時には親指を上に立て、良かったと言わんばかりの笑顔を見せてくる。
"星降るために"を披露している時に具合が悪そうな人がちらほら見かけ、心配になったが救護班が対応して下さった。多分気分が悪い中来たのだろう。
俺としてはこの前放送された音楽番組での"星降るために"の方が調子が良かったこともあってやらかしてはいないと思うが、ファンには楽しんで貰いたいのでしっかりと反省しないと。
"どうにもこうにも止められない!!"は普段と変わらないクオリティであり、変化が求められていると感じた。
『アンコール!!』
『アンコール!!』
『アンコール!!』
アンコールが聞こえているうちに舞台裏で衣装を着替える。太陽と連携してすぐに着替え終われば舞台袖に移動する。
「いきますよー」
東出モカが小声で合図を出すと、前奏が流れる。
割れんばかりの歓声が体を包みながらも舞台袖から走り、ステージではなく外周に散らばっていく。俺は先ほどまで披露していたことを考慮してステージに近い位置であった。
「"most pretty moon"!!!」
東出モカは曲名をマイクなしで叫ぶ。
その瞬間、観客が東出さんに注目していると祈ってスクリーンの片隅を見る。そこには時計が映っており、長針は二十分を示している。
十二時を指した時、それがセレストの出番。
"most pretty moon"が始まればファンの表情を見ながら外周をゆっくり回る。
"most pretty moon"の振付はステージ上なら決まっているが、こうして外周にいる間は決まっていない。
"most pretty moon"の歌詞割りはpretty moonの三人が俺とカノンをリードするように比重が重くなっている。サビとほんの少しのソロパートまでは外周に近いファンとハイタッチをしたり側転したりと交流とパフォーマンスを意識する。
「あわわっ、タッチされちゃった」
「いいな〜、楓口様、私も!!」
他にも似たような会話を聞きながらサビに入り、五人一斉に歌い出す。
pretty moonの三人は慣れているため可愛く振る舞い、カノンも釣られるように可愛くなるが、俺は可愛くなる雰囲気がわからないので"most pretty moon"を初めて聞いた時のイメージを意識する。
一番が終わり次第、ステージに戻る。ここからは振付に沿うので、雰囲気のみに意識しながら踊る。
「みんなー!もっと!」
カノンが声を張り上げる。張り上げた後、少し恥ずかしそうにしていたのは高評価。
「配信を見ている方ももっともっと盛りあがろう!!」
カメラのレンズに目を向けながら笑顔で声を張り上げる。
心地の良い返事を聞きながら二番を駆け抜ける。
「以上"most pretty moon"でした」
東出さんが締めれば拍手喝采。
そのまま五人はステージ上に残り、横一列に並ぶ。
「いやー、疲れたね〜」
「モカ、リハから気合い入ってたもんね」
「その分いいライブができたと思うよ。ファンのみんなはどうだった?」
『最高!!』
『良かったよーー!!』
その間に俺はスタッフから水をもらい飲んでいた。流石に休憩なしで五曲分披露するのは初めてのため、相当疲れている。
「五曲連続お疲れ様」
満面の笑みを浮かべる木戸さんに労われる。
「ありがとうございます。初めてのことだったのでもう膝が...」
「あれ?でもさっき側転とかしていましたよね?」
「アドレナリンが出ていたからかな」
「カノンちゃんもお疲れ様ー」
「お疲れ様です、木戸先輩」
まるで閉幕の雰囲気。ファンの誰しもがそう感じとっていた。だけどステージ上の五人は違った。
「準備できた?」
東出モカが裏方に問い掛ける、本当は周りの四人に対して、四人は何気なく頷く。
「1.2.3.4.はい」
漂う雰囲気を消し飛ばす旋律が流れる、それが前奏だとファンは即座に気付くと喜びを声で示す。
水色の髪にワインレッドの瞳をした少女は四人よりも前に立ち、笑顔で、会場中に届く大声で放つ。
「"light up"!!!」
"most pretty moon"の際、センターは東出モカが担当した。ならば"light up"のセンターは一人しかいない。
「おぇ」
両隣のクロバとなぐもに聞かれないようにえずく。楓口暁様で心身ともに癒されたと思えばこれだ。
カノンがセンターに立っている。これだけでもう気分が悪い。
招待されて来たことに後悔はないがカノンの成長度合いを見たことは後悔している。
カノンがセンターに慣れていないとはいってもpretty moonさんが目立つ事態にはなっていない。また楓口暁様は主役は自分ではないと示すように地味になっており、ソロでの雰囲気が嘘よう。
本来の力を発揮していないが、アイドルの神様がいるのにも関わらずカノンが一番目立っている。これかセンターだと言わんばかりに。...人が違うから、Be lightとは別だと分かっているのに、Be lightでもセンターに立っているカノンを幻視してしまう。
つらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらい
プライドが無様にも心に深く刺さる。やめてくれ。やめて下さい。
今の状態のカノンが戻ってこればもう無理だ。勝てるピジョンが沸かない、それがトドメになった。
光を失った私は思考を手放し、ただ眺めるだけ。
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