第16話 デビューライブ開幕

あのあと、楽屋に戻ると太陽と平賀社長から怒られた。反省はしてます。


「やっと始まったのか」

「そうだな」


楽屋に設置された液晶画面越しにBe lightの姿が見える。未だ衣装に着替えていない俺のそばには太陽が座っていた。監視されてるな。流石にライブが始まってからは大胆な行動はしないのに。


「というかなんで衣装に着替えていないんだ?」

「このあと、お手洗い行こうかなと」

「まさか抜け出そうとしているわけではないよな?」

「流石にしない」

「本当か?」

「ほんとほんと」


当然疑われますよね。仕方ない。

俺は先ほどから気になっていたことを思い出す。


「そういえばどうやって他の人にバレずに会場に行くんだ?」

「出番の時の舞台袖のスタッフはシリブローの信頼できるスタッフにシフトしてる」


なるほど、事前に伝えたスタッフで他に漏らさないようにするのか。しかし、


「楽屋に戻ってくる出演者と出会すんじゃない?」

「あ、確かに」


どうやら抜けていたようだ。しかし太陽には伝わっていないだけで他の人は知っているかもしれないと伝えてみると太陽は楽屋から退室する。


その間、画面に写る彼女らを見ているのだった。



「続いて二曲目は"サイレンティウム"です」


翠水が言うと二曲目に変わると合わせて歌い出す。タイミングバッチリだ。俺は聞いたことのない曲だったため調べてみるとルドバーン所属のすめらぎというグループの曲らしい。一曲目に披露していた曲はオーディションの時に披露していた曲"most pretty moon"である。

ついでにネットで現在の反応を調べてみようとスマホに検索をかける手を止めた。そういえばこのライブは生配信をしていない。一年間もしていないかったのに癖は抜けなかったようだと苦笑いしていた。


曲に話を戻そう。"サイレンティウム"はテンポが早く、明るく、音が爆発的な曲ではなく、むしろサビに入っても静けさが抜けない曲である。その曲を聞いている内に俺はふとこうだと思った。

嵐の前の静けさのように次の曲に嵐が来ようとしているのではないかと。


その予想は当たることになる。





舞台上でアイドルしている彼女らはオリ曲にほんの少し心構えをしていた。"サイレンティウム"を歌い終えると一瞬、メンバー同士で目が合う。

あの食事の時からそんなに時間はなかった。けれども死ぬ気で練習してきた。

Be lightは誰かが個として目立つグループじゃない。団体で魅せる。だからこそ私と翠水の仲が歪になっていったのは非常に危なかった。

でも今はそんなことはない。Be lightは偉大な一歩を踏み出したんだ。


「最後の曲はオリジナル曲"light up"です!」


翠水が言い、私が歌い出す。それに合わせて全員舞台上で踊っていく。

本番は練習のように練習は本番のように、とよく聞く。けど私は本番でしか披露できない輝きがあると思っている。私はそんな輝きを求める。

例え私がどんな輝きを魅せても問題はない。なぜなら他のメンバーが絶対に並んでくる。それがBe lightなのだ。誰かが個で抜け出そうとするなら意地でも全員が同じになるのが強み。このライブで証明してみせる!!


みんなで考えた歌詞の意味を込めながら、それが届くように叫ぶように歌い、みんなと同じ振り付けをしているのに力強くキレのある動きを魅せる。これが私の全力限界だと示すように。

観客がカノンの方だけに目がいき始めているのを他のメンバーは気付き、全力限界で私を追従し、そして横並びになる。


連続で三曲目を迎え、かつまだ一番のサビ前であり、最後まで体力はもたないと思うけど...それでもやってみせる。


発言通りとはいかず、一度もパフォーマンスの質が下がることなく無事歌い終えると鳴り止まない拍手が送られる。

ペンライトを見てみると五人それぞれの色があり、全員がlight upされたに違いないと感じる。


「はぁはぁ」


呼吸をしながらメンバー全員は目を合わせ、マイクをもち、


「「「「「以上、Be lightでした!!」」」」」


と頭を下げ、舞台上から暗くなり、幕が降りると私たちは舞台袖にはけていく。

披露中はいつもよりも長く感じたのに、終わってみれば瞬きのように一瞬であった。


次に舞台に立つユナを横目で見ながら楽屋に戻っていく。ある程度歩けば話しても問題ないだろう。


「お疲れ様でした、もうほんっとうに素晴らしい演技でした!!」


真っ先に声を上げたのはBe lightのマネージャーの鈴村さん。鈴村さんはルドバーンに所属しており、オーディションの時に何回もお手伝いをして下さった方である。


「にしてもカノン〜、ラスト上げてきたねぇ〜、体力ほぼなかったでしょ?」


水色のメッシュがひらひらと左右に揺れているリーダーは気の抜けた、力が入っていない声で質問してくる。


「なかったけど、みんななら大丈夫かなって」

「全くカノンはー」


なぐもはカノンに近づき、髪の毛を乱していく。


「ちょっと、髪が」

「あとは楽屋でライブの様子見るだけだから問題ないでしょ」

「その通りだけど、もう〜」


他の四人は微笑ましいと頬を緩んでいた。その時、背後から誰かが走ってくる足音に気付き、なぐもは手を止め、全員が振り向く。

鈴村さんは対峙するように私たちよりも前に出て、警戒する。

走ってきた人物を確認すると鈴村さんは警戒を解く。


「焦ったよ、平賀君」


焦茶色の髪に優しい雰囲気を与えるほどの顔面をしたイケメン、肉付きのよい体。カノンはその人物が誰か思い出す。


「あぁ、すみません鈴村さん、今戻っていたんですね。えっーと、Be lightの皆さん、この度はデビューライブの方おめでとうございます。カノンさんと同じ事務所の平賀太陽と申します。そしてカノンさん、初めまして」


太陽はカノンの方を向き、挨拶をする。カノンは少し緊張しながらも、


「鳴海龍亜と申します、今後ともよろしくお願いします」

「お願いします、では私は急いでますので、これで」


そう言い残し、太陽は走っていき、とある楽屋に入室した。


「あれ?」


クロバが疑問の反応を示す。Be lightで挨拶周りをした際、あの楽屋には行かなかったことを思い出した。


「あの楽屋って誰かいました?」

「私が知る限りではいないと思います、それかシリブローのスペシャルゲストかもしれませんね」


鈴村さんはカノンの方を見、カノンもその視線に気付くが、


「私も何も知らされていないんです、ただ社長からスペシャルゲストについて気にしなくていいよって」

「それはもうシリブローのスペシャルゲストってことじゃん。でもそんなに秘密にするものかなー?」


サエがそう疑問をもっても誰も答えることはできなかった。そして誰も疲れており知る気が起きなかった。


「早く着替えて、ライブ見ましょうか」


鈴村さんの言葉にBe lightは乗った。

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