第11話 一人の決意。

「全ての事務所の勧誘が終わりました。一度、時間を置き、その後所属する事務所の方の発表をお願いします。それでは...二時間後にまたこの会議室に集合の方をお願いします」


そうして一度解散になった。

Be lightは固まって、水を飲んでいる平賀夕波社長の元へ向かう。


「本当なんですか?あの情報は?」


翠水は不機嫌かのように睨む。普段見れない姿であり、らしくない。


「さっき言った通りよ、私は直接会っていないの。電話越しだから、絶対ではないわ」

「可能性は高いですか?」

「そうね...悩ましいわね、個人的には高いと思います」

「なるほど、ありがとうございます」


翠水らは去っていくがなぐも、カノンはまだ残った。


「あら、まだなにか?」


カノンはなぐもの後ろに隠れるようにいたが意を決して前に出て質問をぶつける。


「なぜ私を選んだのですか?あの解答が嘘ではないと考えてもおかしいです。前まではBe light全員を勧誘していたのに楓口暁様の情報を得てから、急に私だけに変更した。人手不足にしても違和感が拭い去ることはないです。本当のことが隠されているような気がするんです」


夕波は答えることを選択する。がその前に一瞥し、カメラの位置を確認。そして会議室にある録音機のことを考え、


「別の場所に移動しましょうか」


そう提案した。テレビには流れないようにしたファインプレーであった。




アイドル事務所ルドバーンの屋上に入った。一部アイドルの練習場だったりバーベキューをする目的で使われている。


「ここなら大丈夫そうね」


カノンとなぐもは覚悟した顔で強く頷く。


「これから私は酷いことを言います。覚悟は...もうできるのね。じゃあ、私、いやシリブローはカノンさんを助けるためにしていると言っても過言ではないわ」

「...」

「このオーディションに関わった全部の事務所はとある考えがあるの。それはしばらくしてからカノンさんを脱退させ、ユナさんやアイネさんをBe lightに加入させること」

「うっ」

「そうなるわよね、これじゃあオーディションした意味が薄れるもの。コホン、でカノンさんが脱退した後、カノンさん自身はどうなるか。ソロの道か引退よ」

「...」

「そこに光が差したの、楓口暁とのデュオよ」

「「え?」」


唐突に言われ、頭の中に?が浮かぶ二人。絶望が一気に希望になるジェットコースターを体感する。


「そうなるわよね、気持ちはわかるわ。さて、もしシリブローにカノンさんが所属したらどうなるか説明します」

「は、はい」


唐突にまた勧誘され、困惑する。なぐもも言葉には出さなかったが同じである。


「現段階で考えているのは楓口暁様がシリブローに所属したら、デュオを組んでもらいます。デュオの発表はBe lightを脱退してからになるわ。デュオを発表するまでの間、ある程度は成長してもらいます。なぜなら楓口暁様との差を少しでも縮めるため。その結果アイドルとして活躍できると考えています。それと楓口暁様のファンから批判されるのを少しでも軽減するためでもあります。デュオとして活動していき、ソロが出来るのではあればするという感じになります」

「はぁ、」


カノンはありえないという気持ちが勝ちすぎて自分ごとではないように反応してしまう。


「どうしてデュオを組むことになるんですか?」


黙っていたなぐもが口を開いた。どうして楓口暁の名前が出てくるのか謎である。


「これ言ってもいいかな。なぐもさんにとってはキツイことかもしれない」

「大丈夫です」

「なぐも、本当?」

「大丈夫だよ、カノン」

「わかりました。シリブローは彼に接触できたと言ったじゃない」

「「...」」


二人して頷く。夕波はその反応を確認して続ける。


「私ではないけど、彼に直接接触できたの」

「「えぇーー!」」


二人の驚きの声は昼下がりの都会の空に木霊する。それが本当なら楓口暁について他の事務所を出し抜いている。


「そこで所属する条件が二つあったのよ。まずは彼の楽曲を使用する際は事務所関係なく彼に許可を取ること、そしてカノンさんとデュオを組むこと」

「え、いやいや、嘘ですよね?そんなことは...」


カノンは嘘だと疑いながら、涙を流す。カノンにとってどれほど嬉しいことか。


一方、なぐもは暗い顔をしていた。あー、きっとカノンがシンデレラなんだろうな。ん?

そうなぐもは気になったことを聞くことにした。


「楓口暁様は、あのオーディション会場に居ましたか?」


夕波はそうだと言わんばかり頷き、なぐもを絶望させる。

彼に憧れたグループが彼によって軋轢を生むことになったことを理解してしまった。


「...なぐもさん、まだ可能性はあるわ。コラボよ。確かにBe lightは彼に憧れ、彼に壊される可哀想なグループ、その代わり、彼が復帰する。ということは夢が叶う機会が増えた」

「それは、そうですし。彼が全面的に悪いとは言えません。それとどの事務所も彼の方が価値があると思っているもの理解しています。けど、カノンがいるBe lightを探したいです。確かにデュオの件はずるいって思いました。他の三人も聞けばずるいって言うと思います。その気持ちがBe lightの崩壊の原因ということも理解しています。それでも!私はBe lightでいたいんです!」


なぐもは決意した。足掻いてカノンを脱退させないようにすると。失敗するかもしれない。けど動かないよりはマシだ。


「それでいいわ。カノンさんの脱退はあくまでも事務所側こっちの考え。最終的には本人たちが決めることになるから」

「はい、疑問に乗っていただきありがとうございました」


なぐもは一礼をしてからカノンを連れて屋上から去っていく。

夕波は去っていく姿を見ながら、


「上手くいけばいいわね」


現実は上手くいかないことの方が多い。せめて彼女たちが上手くいけるように願うしかない。

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