第3話 始まった最終試験

「タイトルコールまで3,2,1,」


「発見!視聴者参加型アイドルオーデション、司会をさせていただきます、森野です」


そこから審査員の方の自己紹介がさらりと済む。

生放送なので無駄な時間を作らない工夫なのかな?


「三ヶ月にも及ぶ長旅は今日で終わります、嬉し泣きするのか悲し泣きするのか、発表される瞬間までわかりません!!僕としては司会を最初から担当させてもらって、こうやって発表の舞台を見せていただいている側としては全員合格でもいいかなと思っております、山原さんはどうですか?」


審査員の一人である山原は少し表情を柔らかくしながら、口を開く。


「僕としてはこれからも輝き続けられるかを軸に見極めたいと思います」

「世の中に出て活躍できるかがこれから大事になりますからね...東出さんはどう思いますか?」

「厳しく、将来、わたしを越せる存在かどうかで、見たいかなぁ~」


東出モカはpretty moonというアイドルグループに所属しており、トップアイドルの一人である。


「それは厳しいですね...今回は採点ではありません、グループ、個人でそれぞれ合格か不合格かを投票で決めます。またグループに関してはこのメンバーだけ不合格という場合は一度グループごと不合格として、審査員による判断でこのメンバーだけ不合格として再度視聴者の皆さまにそのメンバーだけが不合格かを投票していただきます」


なるほどね。それにしても大衆意識が高いな。本当にスターを発掘しようとひしひしと伝わってくる。


「本当に俺たちも投票できるの?」


心配になり、横に座っていた太陽にこそっと聞いてみる。太陽はそうだと言わんばかりに頷く。そして太陽の手にあるスマホを見せてくる。そこにはこの番組の投票のサイトが映し出されていた。これで出来るらしい。


「ではこの最終試験に挑む十名の挑戦者チャレンジャーに登場していただきましょう!まずはグループ名Be lightの翠水すいすい、クロバ、カノン、なぐも、サエの五人だ!!」


鬱陶しいと感じるほどの爆音のBGMを背景として女子が五名、舞台裏からやってくる。

なんというか楓口暁を民衆は求めているわけだよね?なぜ男子ではないんだろうか?


「楓口暁と張り合えるほどの華のある男子がいなかったんだ」


俺の疑問を答えるように太陽は独り言を呟く。さんきゅーと少しだけ顔を傾けた。


「続けてグループ名Be radiancyのユナ、ハヤテ、アイネ、どうり、ハユマだ!!」


爆音BGMの上にマイクで音量が意図的に大きくなった森野の声が耳に轟く。鬱陶しい、うるさいではなく鼓膜が痛いという気持ちになっていた。

挑戦者であろう十名が舞台に姿を現して行動が静止するまでの間、爆音BGMは鳴り響いた。

鳴り止むと少し間を空け、森野は口を再度口を開ける。


「最終まで来れました、そこを踏まえた上でリーダーに意気込みを聞きたいと思います、まずはBe lightのリーダー、翠水さん」


青緑色を基調とした顎のラインまで伸ばしたボブに水色のメッシュが特徴的な子にマイクが渡される。


「こうやって、最終まで来れたことを自信にして、世に出て活躍してやろうと思いまーす」


それは本当?と聞きたくなるほどやる気のない声だが最後まで残ったことを考えれば本物だろうな。だけど目的があって行動しているような気がした。


「自信たっぷりですね、生放送なので尺を無駄にしないようにBe lightの皆さまには準備の方お願いします......続いてBe radiancyのリーダーのユナさん」


黒髪ではつらつとした元気を押し殺したように思える瞳をした悲哀感がするかっこいい系の子にマイクが渡る。どこか苦しそうに思える。俺の勘違いであってほしい。


「これまで落第していった仲間の分も背負ってここまで来ました...だから合格してやります」

「気概のある発言ありがとうございます...準備の方ができたようです!!」


司会者、審査員やBe radiancyのメンバーから少し離れたところに幕を下りた状態になっている正面ステージがあった。


幕が上がるが、照明は消されてたままであり、ポジションに立っているアイドルたちは静かに時を待っている。

観客は前奏が流れるとともに照らされることになるだろうとワクワクしているようだった。


「課題曲は東出さんが属しているpretty moonの代表曲"most pretty moon"です、お願いします!!」


曲が始まると共に歌い出した一人のメンバーに照明が当たる。オーディションということもあり、楽しそうにしているよりかは緊張している。動きが少しぎこちない。


あ、一人だけステップのタイミング遅れた。


観察していると曲も終盤に向かっていく。その中で俺は一人のメンバーに注目していた。


「太陽、あの水色の髪をした子は誰?」


五人のメンバーの中で下から二番目に小さく、どこかのスキルが飛び抜けてすごいということもなく、すべてが平均以上だが癖のない…特徴がないことに俺は少し引っかかる何かがあった。他メンバーと比べて華がないから地味に見えてしまう。少し磨かれた石に紛れた宝石の原石を見ているようだ。


「あの子はカノン、予選の通過が奇跡って言われてる」

「せんきゅー」


そりゃそうか。素人からすれば奇跡と思えるだろうな。審査員からすれば期待枠な感じがする。それと潜在能力は圧倒的に他メンバーを越していると思う。もし大成しなかったら俺の見る目がなかっただけ。


「ありがとうございました、早速ですが投票タイムといきましょう!!」


グループで見るなら、そこまで悪くはないし、ある程度人気は出るだろうな。カノンは地味だけど他メンバーを惹き立たせる存在として受け入れられれば問題はない。 

CMか放送されている間にBe lightが立っていた場所にBe radiancyが交代して、幕が降りる。


「意外だな」


投票をしているのかスマホに目を向けながら太陽は口を開いた。


「?」

「俺はてっきり適当に見てると思っていたんだ、でもしっかり見てるんだなって」

「せっかくの機会だからな」

「暁はアイドルに興味なさそうだもんな」

「興味はあるけど、敷居が高そうだし、何よりも…」


アイドルに対する後悔で楽しめない。なんて言えない。


「何よりも、なに?」

「あんまりノリに乗るの得意じゃないし」

「本当か?」

「アイドルノリ的な?」

「確かに、テンションが違うもんね」


よかった、納得してくれた。

CMが明けたと同時に原稿を読みながら水を飲んでいた司会者はマイクを手に取る。


「結果発表をお願いします!」


舞台に埋め込まれた液晶画面に結果が表示される。


「合格か」

「そうだね」


視聴者投票では合格が八割、審査員では合格が五人中三人表示されていた。

将来性を考えればもう少し後でも構わないが不合格を出せば多分立ち直ることは出来ないと思う。直感にすぎないが。


「合格が合計で六割以上超えたため、合格です!!中口さんはどういう点で合格を?」

「最終試練ということもあって、予選よりも緊張して、それが影響したかなと…ですがこれから世に出て、場数を踏んでいけば僕が思うBe lightの魅力を出せると思います」

「その魅力とは?」

「誰かが個として抜け出していない、一人が極端に目立っていないんですよね、それが一番いいところで、誰を応援しても化ける可能性を秘めているんですよ、その期待感が今回のオーデションの目的に近いのかなと思っています」


視聴者からしたらこれからの成長という期待があり、推すポイントがみているうちに出来ていく。狙っていたんだろうな。


「これが僕が思う魅力で、Be lightっていう団体がもつ魅力だと思います」

「なるほど、では不合格を出した東出さんはどうですか?」

「はっきり言って今のpretty moonが負けるビジョンが感じれなかったかな〜、中口さんの言う通り期待しているのは認めるけど、もう少し磨かれた後の方がいいかなって、でも結果は結果、合格が出た以上は認めるしかない」

「はい、ありがとうございました。Be lightのメンバーは個人戦に向けての準備の方をお願いします。それではBe radiancyの準備は整っています」


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