第35話 鏡に映る自分
湖畔の村での静かな日々が終わり、あきらは再び旅路へと戻った。次の目的地は、かつて彼がまだリナと一緒に旅をしていた頃、立ち寄る予定だった街だった。リナとの別れ以降、あきらはその街を避けていたが、今ならその場所に行っても大丈夫だと感じ、勇気を持って向かうことに決めた。
街に到着すると、そこは思っていたよりも賑やかで、活気に満ちた場所だった。だが、あきらの心の中にはどこか複雑な感情が渦巻いていた。リナと一緒に歩いていた頃の思い出が蘇り、その思い出に向き合うことが怖くもあり、懐かしくもあった。
あきらは街の中心にある広場を歩きながら、かつてリナと計画していた「未来の自分を探す」というテーマのワークショップを思い出していた。リナはこの街で何か大きな発見があると言っていたが、その発見はリナと共に実現することなく終わってしまった。
「あの時、僕たちはどんな未来を探そうとしていたんだろう…?」あきらは自問しながら、その疑問に対する答えを探し始めた。
街の通りを歩いているうちに、ふと、古びた鏡屋を見つけた。興味を引かれたあきらは、店の中に入ってみることにした。店内には、大小さまざまな鏡が所狭しと並び、どの鏡も独特の雰囲気を放っていた。店主は、年配の女性で、あきらが入ってきたことに気づくと、優しく微笑んで声をかけた。
「いらっしゃいませ。この鏡たちは、それぞれ特別なものです。自分の本当の姿を映し出す鏡もあれば、未来の自分を示す鏡もあります。」
その言葉に、あきらは興味をそそられた。「未来の自分を映す鏡なんて、本当にあるんですか?」
店主は静かに頷いた。「ええ、ありますよ。でも、その鏡に映るものは、人それぞれです。自分が見たいものが映るのではなく、本当の自分が映し出されるのです。」
あきらはその言葉に心を動かされ、店の奥にあった古い鏡に目を向けた。どこか神秘的な雰囲気を醸し出すその鏡に引き寄せられるように、あきらはゆっくりと近づいていった。
「この鏡に映るのは、僕の本当の姿…?」
鏡の前に立つと、あきらは自分の顔をじっと見つめた。最初はただの自分の姿しか映らなかったが、しばらくすると、鏡の中にもう一つの光景が現れた。それは、過去の自分、リナと共に旅をしていた頃の自分だった。
リナと笑い合いながら歩くあきらの姿が映し出され、その光景がまるで昨日のことのように鮮明に蘇ってきた。リナとの時間は確かに楽しかったが、その一方で、あきらはどこかリナに依存していた自分に気づいた。リナが隣にいることで、自分の弱さや迷いを隠していたのだ。
「僕はリナに頼りすぎていたのかもしれない…。」あきらは心の中でそう呟いた。
その瞬間、鏡の中の光景が変わり、今度は現在の自分が映し出された。リナがいなくなった後、一人で旅を続け、多くの人々と出会いながら成長してきた姿だ。あきらは、孤独と向き合いながらも、自分自身の力で前に進んでいることを改めて実感した。
「リナがいなくなったからこそ、僕は自分の足で歩くことを学んだんだ。」そう思うと、あきらはこれまでの自分を少しだけ誇らしく感じた。
そして、最後に映ったのは未来の自分だった。未来の自分は、感情日記を通じてさらに多くの人々に心の癒しを届けていた。あきらは、これまでの旅で得た経験や出会いを活かし、感情を言葉にする力を多くの人に分かち合っていた。
その姿を見たとき、あきらは自分がこれから進むべき道が見えたような気がした。リナとの旅は終わったが、それがあったからこそ今の自分があり、そしてその先に待っている未来がある。
あきらは鏡を見つめながら静かに微笑み、「ありがとう」と心の中でリナに感謝を述べた。
その夜、あきらは宿に戻り、感情日記を開いた。
「今日は、未来の自分に出会えたような気がする。リナとの旅が終わり、一人で歩き続けてきたけれど、その過程で僕は自分の力を見つけた。そして、これからも多くの人々に感情日記を通じて心の癒しを届けたいと思う。過去の自分も、未来の自分も、すべてが今の僕に繋がっているんだ。」
その投稿には、読者からの多くの応援や共感のコメントが寄せられた。彼らもまた、あきらの旅と共に、自分自身の心と向き合い、成長していることを感じていた。
あきらの新たな一歩は、また一つ確実に前進していた。過去の自分、現在の自分、そして未来の自分が繋がることで、あきらはこれからも迷うことなく歩き続けることを決意した。そして、その旅が、彼自身だけでなく、多くの人々に勇気と希望を届けていくことを信じていた。
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