第26話 見知らぬ友との出会い

孤独を抱えながらも、自分自身と向き合い続けていたあきらは、次の訪問地として選んだ大きな港町に足を踏み入れた。ここでは、さまざまな文化や人々が交わり、多様な背景を持つ人々が集まっていた。あきらにとって、これまでの旅と違った刺激を得られる場所になりそうだった。


到着して早々、あきらは地元の図書館でワークショップを開催する準備を整えた。そこには、様々な年齢層の人々が集まっており、中にはあきらと同じくらいの若い男性もいた。彼は他の参加者とは少し違い、静かに一番後ろの席に座って、あまり目立たないようにしていた。


ワークショップが始まり、あきらはいつものように感情日記の大切さを話し始めた。参加者たちは興味深そうに聞き入り、時折メモを取りながら、あきらの言葉に耳を傾けていた。しかし、後ろに座っていたその若い男性は、あまり反応を見せず、ただ黙って聞いているようだった。


ワークショップが終わった後、あきらはその男性が最後まで席を立たずにいることに気づいた。何か話したいことがあるのだろうかと感じたあきらは、彼にそっと近づいて声をかけた。


「今日は来てくれてありがとう。何か感情日記について聞きたいことがあったら、話してみてくださいね。」


その言葉に、男性は少し戸惑ったような表情を見せたが、やがて重い口を開いた。


「僕は…ずっと自分の感情を言葉にするのが苦手なんです。自分でも、何を感じているのかよく分からなくて…。でも、あなたの話を聞いて、感情日記を書くことで、何か変われるかもしれないと思いました。でも、どうやって始めればいいのか分からなくて…」


あきらは優しく微笑み、「最初は誰でもそう感じます。僕もそうだったんです。でも、少しずつ書き始めてみることで、自分の心がどこにあるのかが見えてくることがあります。まずは、小さなことから始めてみてください。今日感じたことでもいいし、何か心に引っかかることがあれば、それを書き留めてみるんです。」


その言葉に、男性は少しだけほっとしたような表情を浮かべた。「ありがとう。やってみます。自分の感情を言葉にすることが、こんなに大変だなんて思ってもみなかった。」


あきらは彼の肩に手を置いて励ました。「焦らなくて大丈夫です。自分のペースで、少しずつ書いていきましょう。僕もいつでも相談に乗りますから。」


その後、男性は感謝の言葉を述べて帰っていったが、あきらは彼の姿が頭から離れなかった。自分と同じように、心の中に何かを抱えながら生きている人が、ここにもいるのだと強く感じた。


その夜、あきらは感情日記に今日の出来事を書き綴った。


「今日は、ワークショップに参加した一人の若い男性と話をした。彼もまた、自分の感情とどう向き合えばいいのか分からずに悩んでいるようだった。でも、彼が一歩を踏み出そうとしている姿に、僕も励まされた。感情日記が彼にとって新しい道を開くきっかけになればいいと願っている。」


その投稿には、あきらの言葉に共感する読者からの温かいコメントが多く寄せられた。あきらは、そのコメントを読んで、今後もこうして少しずつでも誰かの力になれることが嬉しく感じられた。


次の日、あきらは港町の風景を眺めながら、深く息を吸い込んだ。この町での出会いが彼に新しい気づきをもたらしたこと、そして、自分自身もまた成長していることを感じ取った。


「孤独を感じることはあるけれど、その孤独もまた自分を成長させるための一部なんだ。僕は一人でこの道を進んでいるけれど、多くの人と心で繋がっている。」


その思いを胸に、あきらは次の旅路に思いを馳せた。彼の旅はまだまだ続く。これからも新しい人々との出会いが待っており、その中で自分自身もさらに成長していくことを信じていた。


あきらの新たな一歩は、また一つ確実に前進していた。見知らぬ友との出会いを経て、彼は孤独の中にも新たな希望を見出し、自分の足で前に進んでいく力を感じていた。そして、その歩みが、彼自身だけでなく、多くの人々に勇気と希望を届けていくことを信じていた。

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