第17話 大豪邸、佐々木亭。

『謎の大剣豪こと宮本vs有名配信者の佐々木、最強はどっちだ?』

『宮本流とは? 専門家が語る剣技の秘密』

『ネットが作り出したAI? その理由は、強すぎる?』

『日本のSAMURAI、謎の大剣豪がヤバすぎる』


 新宿ダンジョン崩壊は瞬く間にニュースになっていた。

 謎の大剣豪こと宮本椿姫はテレビにこそ名前は上がらないが、ネットでのコメントは多く寄せられている。

 探索協会はそれについて言及せず、またメディアも沈黙を保っていた。


 各ダンジョンは、探索協会の確認が入ることとなり、一般探索者は約七日の入場規制がかかった。

 それにより探索協会への不満が多く寄せられている――。


「――と書いてますね。私の名前も出ていますが、やはり椿姫さん、帆乃佳さんの事ばかりですね。さすがです!」

「そうか。ただ、帆乃佳も言っていたが、凄いのは私たちではなく、伊織、君だ」

「え? わ、私なにもしてませんよ!? 弱いですし……」

「人を癒すことは、誰にでもできる事じゃない。それに伊織は、人一倍勇気がある。見習うべきところだよ」

「……ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです。でも、椿姫さんは凄いですからね。もっと、自分を褒めてほしいです」

「まだまだだ。叔父なら――」

「私は、凄いと思っています」


 叔父ならと言いそうになるところを、伊織が強く言い放つ。

 その真剣な表情、そしてふっと笑顔になる伊織を見て、椿姫の表情が柔らかくなった。


「ありがとう。私も、少しは自分を褒めてみるよ」

「はい! それがいいです! それと……今日は暑いですねえ」

「だな。山は涼しかった。少し恋しい」

「いつか行ってみたいです! 椿姫さんの故郷にも」

「おお、そうか。紹介するよ、みんな・・・も喜ぶだろう」

「はい! ……みんな?」

「ああ、クマ五郎やワニ三郎、それにイノシシ四郎も喜ぶだろう」

「…………」

「どうした? 何かあったか?」

「い、いえ!? そ、その! また空いてる日いいますね! また・・!」

「うむ、楽しみにしているぞ」


 二人は学校の制服に身を包みながら道を歩いていた。

 学校自体はダンジョンの崩壊があったことで、来週まで一時的な休校となっている。

 

「それと伊織、これの使い方は……どうやるんだ?」

「ええとこれはですね。このボタン・・・を押すんですよ」

「なるほど、難しいな。スマートフォンとやらは」


 ダンジョンモールで購入したスマートフォン。椿姫はついにデビューしたのだ。

 だがしかし使い方がわからない。メッセージはできるようになったが、ニュースや動画を見ることはできない。


 そしてその時、椿姫の通知音が鳴った。


「ふむ」


 ――ピロン。


「ふむむ」


 ――ピロンピロン。


「むむ……」


 ――ピロンピロンピロン。


「椿姫さん、どうしたんです?」

「いや、メッセージを返す前に連絡がきてな。この絵はなんだ? 教えてくれるか?」

「はい。すいません、ちょっと失礼しますね」


 伊織が顔をのぞき込む。

 するとそこには、『まだ?』『もしかして迷ってる?』『……迎えにいこうか?』『ねえ、大丈夫?』と連絡が来ていた。

 その後、可愛らしいクマさんがガオオとしている『遅いと食べるぞ』スタンプが送られてくる。

 

 宛先人は――佐々木帆乃佳と書かれていた。


「ふふふ、心配性なんですね。スタンプは、このボタンを押せば送れますよ」

「そうみたいだな。ふむ」


 椿姫は、『待て』という侍のスタンプを返す。すると0.000001秒で『待ってる』とかえってくる。


「佐々木さん、案外マメなんですね」

「このところ毎日だ。ダンジョンで連絡先を交換してからだな」

「え? 毎日?」

「うむ。朝起きておはよう、昼は今からご飯を食べる、夜はおやすみなさい、深夜は眠れない、などとそれぞれだがな。連絡を取れるのは嬉しいが、なかなか返すのが遅くてな」


 それを聞いた伊織は少し考えるも、地元が一緒なので普通なのかもと結論付けた。


「久しぶりですもんね。やっぱり、佐々木さんも嬉しいですよね」

「そういうものか」


 するとまたピロン『大丈夫? 魔物に襲われてないよね?』ときた。


 椿姫は『マテ』と猫のスタンプを返す。

 そして二人の前にはデカい、デカいデカいデカいデカい、壁があった。

 そのまま真っ直ぐ突き進む。


「佐々木さんも優しいですよね。こうやって頼んだら応えてくれて」

「そうだな。私もまだ複雑だが、また何かあると考えるとな」


 椿姫は目覚めし者アウェイカーとして能力を授かったものの、あれ以来一度も出すことができなかった。

 それを聞いた帆乃佳が、自分のやり方で良ければ教えると言ってくれたのである。

 伊織とは性質が違うので教えることはできなかった。


 次第に見えてきたのは、都内にあるとは思えないほどの大きな日本家屋だった。

 屋根には瓦が敷き詰められており、入口からは隣接した道場が確認できる。

 

 そして表札には、大きく佐々木と書かれていた。


「よし、『到着』と送るぞ」

「そうですね。お願いします――」


 椿姫がメッセージを送った0.0001秒、入口の扉が開く。

 するとそこに立っていたのは、絹のような黒髪、佐々木帆乃佳である。


「待ちくたびれたわよ、椿姫、伊織さん」

「時間より前に来たが」

「こんにちはです! 今日は私までお呼びいただきありがとうございます! それにしてもお家凄いですね」

「私の家じゃないけど確かに凄いわよね。それより、早く入って。外暑かったみたいだし、お茶を用意するわ。後団扇これ、タオルはこれ使って。一応、緑茶とほうじ茶と麦茶があるけど、どれがいい? アイスはいらないわよね? あーもう、大変だわ大変。やることいっぱいだわー」


 そういいながら帆乃佳は笑顔だった。


(な、な、な、な、な、学校の制服で来るなんて思ってもなかったわ! なに天才的に可愛いじゃない!!!! あんなにふともも出しちゃって! まったくもう椿姫は!!!)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る