第2章 ケカハの土地神 ~神と、人間との共存世界~
第5話 受け入れの準備
20 此処の食生活
この世界に来て2ヶ月が過ぎた。
土木工事はひととおり終わった。
ドキ川の他にアヤ川と名付けた川も整備したし、溜め池も大きいのが7箇所、小さめのは20箇所以上作った。
特にアヤ川の方は、上流と中流に、それぞれ大きめのダムを一箇所ずつつくっている。
上流にちょうど塞ぎやすそうな谷があり、また平野っぽい場所を通った後に狭隘部を通る場所もあったから。
その二箇所の上流を掘って、狭隘部に土を盛って、岩盤化して重力式ダムっぽくした。
水が貯まれば、それなりに大きなダム湖になるだろう。
いざという時にこの水を取水して、用水路経由で流すなんて経路も作ってある。
更には使った水も、また下流の貯水池に貯めてと、繰り返し使う方式にした。
この辺は現物の
そして潮止堰の上側や、そこから下流、河口までの水が貯まっているあたりでは、既に生態系が出来て、動き始めている。
水辺に近い部分にアシ等が生い茂り、水草も生えた。
魚も河口部で水が通年ある辺りのものや、やはり通年水がある上流から流れてきたもの等が、それぞれの場所で繁殖している模様。
これはキンビーラに教わった神の権能、全在の『祝福』のおかげだ。
今回は、水が貯まっているところとその付近に『この状態が20年続いた場合に発生する植物、無脊椎動物、魚類までの脊椎動物』を成長させて居着かせた。
もちろん堤防の内側は、大雨が降ると全面が川になるだろう。
でもその辺も考えて『祝福』をかけたので、おそらくは大丈夫だと思う。
日本の川の河原にも、木や草が生えているし。
川は充分掘り下げたし、堤防も岩盤化して頑丈に作った。
なおかつ住居区域は少し高くしているから、洪水の被害にはあわないと思う。
実は秋に、元ケカハの住民のうち100人程の先遣隊を、この地に迎え入れることにした。
だから自然、この先どの場所でどう人間が暮らしていくかを、考える事になる。
まず最初の村は水田を作らず、基本的に畑を麦や芋等の輪作で回していく方針だ。
これは、水田を確実に維持できる自信がまだない為。
それにアルツァーヤによると、畑だけという方がこの辺のメイン農法らしい。
「セキテツは、水が得やすい西側には水田がありますけれど、東側にはありません。麦、マメ、芋を、順に作っていく農法が中心です。アナートから預かった人たちも、そうしておりますわ」
なお西側は、ある程度の雨が降る代わりに、冬に4~5回は雪が降り、20cm位積もるらしい。
冬小麦に適していない為、稲作がメインとなるそうだ。
食生活についても、確認済みだ。
キンビーラやアルツァーヤとの毎日1回の会食で、実際に食べて確認した。
これはキンビーラの、こんな提案のおかげもある。
「コトーミの料理開発も一段落したことだし、これからは3柱で交代で昼食を用意することにしよう。そうすればコトーミもこの世界の普通を理解しやすいだろうし、場合によっては更なる改良を提案してくれるかもしれない」
結果、キンビーラの領域であるセト海域とアルツァーヤの領域セキテツでの生活は、結構異なっていることが判明した。
まずはアルツァーヤによる、セキテツの食生活について。
「ケカハに近い東側では、薄焼きパンが中心ですわ。小麦を混ぜて薄く焼いて、豆や芋、野菜や肉の汁やペーストで頂くというのが一般的です」
セキテツの領民が作ったという料理を実際に何度か食べて、だいたいのパターンを理解した。
概ねトルティーヤ風の無発酵パンに野菜ペースト、肉ペースト、スープという感じだ。
野菜ペーストと肉ペーストは保存食品で、塩分や脂肪分で腐るのを防いでいる。
野菜ペーストのメインは、菜っ葉とニンジン、大根を塩水で浸けて発酵させたもの。
塩味より発酵による酸っぱさが味のメインだ。
肉ペーストは、レバー等の内臓肉を良く洗い、細かく刻んで、香味野菜を加え、ガンガンに熱を通し、最後に動物性脂肪を加えたもの。
脂肪分で蓋をされているので、中身が腐りにくいという理屈だ。
味はまあ、肉と脂肪と塩分そのもの。でも無発酵の堅焼きパンにつけてたべると、結構いける。
あとは野菜や肉を入れて煮込んだスープで、これも塩味。
そしてたまに、動物の肉を焼いたものがつくという形。
肉は、家禽として飼い慣らした鴨がメインで、場所によっては豚や山羊も飼育しているらしい。
なお魚については……
「魚や貝も海沿い地域では食べますが、それ以外ではほとんど無いですわ」
これは流通が発達していないからだろう。私の予想だけれど。
一方、セト海域の島では、こんな食生活となる。
「メインは魚だな。採れる時は生を焼いたり揚げたりして、それ以外は塩水に浸けて干したものを食べる。あとは果樹類もよく食べるな。ほぼ一年中、蜜柑とその変種が実っている」
実際にアズキシマという島の領民が作った料理を食べさせてもらったら、こんな内容だった。
〇 舌平目の干物を焼いたもの
〇 イワシを揚げたもの
〇 サボテン風の葉とスベリヒユに似た葉など、肉厚系葉っぱを刻んだサラダ
〇 豆や粟をたっぷり入れた主食代わりのスープ
〇 オレンジペースト
「アズキシマは、樹木は結構生えているんですか?」
「水が出る島だからな。食料になる柑橘類やオリーブの他、船の材料になる細葉樫も生えている。ただ平地が多くないから、畑は小さいものばかりだ。あと海に近い部分は砂地だから、育つ草木も限られている」
それぞれそう遠くない地域なのに、かなりの違いがある。
流通の発達した21世紀日本から見ると、妙に感じてしまう。けれど、流通があまり無い自給自足に近い生活なら、こんな感じになるのだろう。
なお私も、常にうどんばかりというのは何なので、新たにメニューを開発した。
採取したオリーブの油を使った、手延べ風そうめんだ。
また麺類だけれど、これはこれでうどんとは趣が違って美味しいのだ。
温かいつゆでにゅうめんとしていただいてもいいし、茹でたのを野菜や
うどんと調理法が被っていると言われると、否定は出来ないけれど。
あとは豆腐も作った。
採取したひよこ豆から豆乳を作って熱したところ、にがりを使わなくてもそこそこ固まって、豆腐っぽくなったのだ。
絹ごし豆腐とごま豆腐の間くらいの感じで、全知による分析結果はこんな感じ。
『この豆はデンプンが多く、固まりやすい性質があるようです』
この豆腐で厚揚げや油揚げも作った。
うどんの具やおでんの具が、更に増えたし、雨期になってまんばが生えてくれば『まんばのけんちゃん』も作れる。
なお『まんばのけんちゃん』とは、人名とか会社名とかではなく、香川の郷土料理。
具体的にはまんば(高菜の一種)と豆腐、油揚げの炒め煮のこと。
特に好きな料理という訳では無いけれど、副菜の一品として食卓にあると、なんとなく落ち着くのだ。
これは元香川県民だから、仕方ない。
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