12 高松ではなく中讃の名物
じゃこ天は
それでも普通に
厳密にはホタルジャコという魚で作るだの、エソの皮が入るだの、製造地域によるお約束がある。
でもジャコとは雑魚のことだから、雑魚であるイワシで作っても間違いじゃない、多分。
それでも『ちょっといい昼食』程度でしかない気がする。
私はケカハの地の平野部、仮称ケカハ平野をズームしたり、また広範囲に見たりして確認する。
『仮称ケカハ平野は、ケッペンの気候区分ではステップ気候、記号で表すとBSkとなります。また山間部は地中海性気候でCsaです。動植物も地球上の同気候帯に近いものが生息していますが、キツネ類より大型の哺乳類は生息していません』
『大型の
「そこそこ大型の鳥はいる? 地球の鶏サイズくらいの」
『鶏はいません。ただしシラプ、地球上ですとサケイに相当する種が、ケカハ平野の中央から北部海岸近くまで生息しています。大きさや見た目はこのようなものです』
サケイという名は聞いたことが無い。
でも全知が伝えてきた全体のシルエットは、キジやヤマドリに似ている。
色が違うし、大きさは鳩より少し大きいくらいだけれど。
うん、このシラプは使えそうだ。讃岐名物、骨付鳥に。
厳密には讃岐でも中讃、丸亀藩領域の名物だ。
それでも香川名物ではあるからいいとしよう。
本拠地である『骨付鳥一鶴』は丸亀の店だけれど、高松にも支店があるし。
ただしこの鳥、捕っても大丈夫なくらいに生息しているかが問題だ。
絶滅されては、ただでさえ脆弱な生物多様性が余計に失われてしまう。
『それなりの数、生息しているので、数十匹捕らえる程度は問題ありません。それに今の時期はまだ過酷な夏の前ですので、もはや繁殖を行えないような老鳥も生き残っています。これらを捕るのであれば、ほぼ次世代への影響は無いでしょう』
老鳥の方が、骨付鳥として正しい。
卵を産まなくなった廃鶏を、おやどりと称して食べるのが骨付鳥だ。
固めの肉をガシガシかみしめて味わう事こそ正解。
出すときに、ハサミである程度切っておくつもりだけれど。
鳥さんの命をいただくのは、何か申し訳ない気がする。
既に魚や貝の命は、大量に頂いてしまっているのに。
しかし私は、生きていく必要があるのだ。だからここで、ためらってはいけない。
なんて思いつつも、骨付鳥の味を楽しみにしているのもまた確かだったりする。
それじゃシラプの、この夏を超えられなそうで、人間が食べて危険な病気等を持っていない個体を捕まえに行こう。
そう思うと、全知が場所を教えてくれる。まずは此処から1km程度のところ。
場所を意識するとともに、私の周囲の景色が変化した。
◇◇◇
シラプ、割と集団で生息しているようだ。
その気になれば大量乱獲が可能だけれど、各群れで取り敢えず一番ご老体の個体を選んで、14羽ほど捕獲した。
捕獲と同時に即死させ、血抜きをして、羽をむしって、内臓を抜いて洗って。
この辺も収納内で意識するだけで出来るのは、正直助かる。
何せ意識はまだ、21世紀の日本女子。
実際に首をはねて吊して羽をむしってという作業をするのは、かなり辛い。
収納内でも同じ事が展開されているのは、わかっているのだけれど。
半身にした骨付き肉の表面に、まんべんなく塩をすり込んでおけば、下ごしらえ完了だ。
これは時間停止ではなく、摂氏2℃位で明日まで放置。
この、どうにでも保存出来る感じが、神の権能という気がする。便利すぎていい。
本当はあと、胡椒かニンニクが欲しいところだけれど……
『該当する植物は、ケカハの地にはありません』
そうだろうなとは思っていた。
まあ肉は、ものと処理が良ければ、塩だけで充分美味い。
だから骨付鳥は、これで明日、焼けばいいだろう。
あとは昨日作った、麹菌採取トラップを見に行くとするか。
移動して、オリーブの枝の間に置いた小麦粉の塊を確認する。
『まだ分離する程は増殖していないようです。表面に湿り気を与え、明日また様子を見ましょう』
言われた通り『湿気ろ』と念じて、作業完了だ。
さて食の探求については、今日はこの辺まででいいだろう。
実は、出来るだけ早くやっておきたい事がある。
ため池を作る事だ。
ここケカハの地が放棄されたのは、乾燥して水が得られないから。
しかし全く雨が降らない訳では無いし、山間部には川だって流れている。
だから冬の雨や山間部を流れる川の水を引いて貯めて、地下に水が染み込まない構造の用水で各地へ配水すればいい。
かつての私の故郷、香川県も水不足で苦しむ場所だった。
だから先祖の皆様は、ため池を作りまくったのだ。
満濃太郎、神内次郎、三谷三郎と呼ばれる大きなものから、そこいらの田んぼの間にあるような小さなものまで。
工事をするなら雨が降る前、夏の乾季のうちにやっておきたい。
その方がスムーズに出来そうだし、雨が降り始めたらすぐに貯水を開始する事が出来るから。
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