神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、神の権能を使って土地を豊かにして、人や動物を呼び込もうとする話~

於田縫紀

プロローグ 神は、降り立った

1 神は降り立った

 前に広がるのは、砂浜と海。

 後ろを振り返ると草原が広がっていて、はるか遠くに蒼いシルエット状の山が見える。


 見てわかる範囲には、樹木は生えていない。

 草原の所々に小さい山があるけれど、そこも岩か草で樹木はない。


 草地は緑色では無く枯葉色。枯れているのだろうか。

 そう思ったところで、脳裏に説明が入った。


『これから始まる夏季は乾燥して高温の為、植物が生育しにくい季節です。故にこの地の平野部では、ほとんどの植物は、この季節を種か地下茎で過ごし、秋半ば以降の雨が降り始めた頃に芽を出します』


 この説明は神が持つ権能のひとつ『全知』らしい。

『らしい』と不確かなのは、私が神として新米だから。


 私がこの地に降り立ったのは、たった今。

 いわゆる異世界転生という奴で、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられたのだ。


『治める土地を豊かにして、動物や人間を呼び込み、増やして下さい。詳しい事については、神としての権能である『全知』が教えてくれるでしょう』


 維持神を名乗る、一見若く見えるけれど所々の動作にババア臭さが隠せないおばさんが説明したのは、それだけ。

 次の瞬間、私はこの地におっ放り出されていたという訳だ。


 そんな訳で私は、何もわかっていない。

 土地神とは何で、何をすればいいか。

 そもそも此処が何処で、どういう場所なのか。


 そう思ったところで、『全知』による説明が入った。


『この世界は、カトレゾンと呼ばれています。維持神を頂点に、空神、海神、地神によって治められている世界です。貴方は地神の一柱で、ここケカハの地の土地神です』


 あの若作りの、いいかげんなおばさんが頂点なのか。

 そして私は、おそらく神の中では下っ端。

 なかなか絶望的な世界だと思ったら、更なる追加説明が入る。

 

『本来この世界を管理していた創造神は、約1,000周期前にこの世界から去りました。それ以来、維持神シナリスがこの世界を管理しています。ただしシナリスは、元々は単なる空神に過ぎません。ですから世界を上手く管理する能力はありませんでした。この世界が荒れ果てたのも、シナリスの管理失敗によるものです』


 ますます絶望的な事を聞いてしまった。

 この世界は、大丈夫なのだろうか。


『此処ケカハも、元は五万の人々が住み、街もあり畑も広がっている、それなりに栄えた土地でした。ですが管理の失敗により、平野部は草しか生えない乾燥した地となり、樹木は枯れ、人や動物は去ってしまったのです』


 あのオバサンの失敗で、駄目駄目になってしまったという事か。


『その通りです。人間や動物、樹木等が減ったことにより、真素マナも減り、元々いた土地神もこの地を去ってしまいました。ですので新たな土地神である貴方は、何としてもこの土地を豊かにし、人や動物を引き込み、真素マナが豊かな場所にする必要があります』


 知らない言葉が出てきた。

 真素マナとはいったい、何だろう。


真素マナとは動物や植物が生み出す、生命の力です。神はこの真素マナによって力を得て、神力を行使する事が出来ます。ですが真素マナが足りないと神力をふるえないばかりか、土地神の存在が薄くなり、消え失せてしまうこととなります』

 

 今のこの土地は、私に充分な真素マナがあるのだろうか。

 この草ばかりで樹木すら見えない大地を見るに、望み薄という気がするのだけれど。

 

『圧倒的に足りません。このままでは500周期程度で消え失せる事になります』


 やはりそうか。

 なら他のもっと豊かな場所へと、逃げる事は出来ないだろうか。


『土地神は維持神の許可が無い限り、他の地へ移動する事が出来ません。また貴方の神力と此処の真素マナでは、世界渡りは不可能です。ですので此処をある程度豊かにしない限り、貴方という存在は消失する事になります』


 なるほど。

 そうなるとあの維持神オバサンは、捨て駒として私を配置したのだろうか。


『カトレゾンは管理の失敗により、多数の神に逃げられてしまいました。結果、新たに神となる者を、他世界から呼び出さざるを得なくなったのです。

 このような状況ですので、呼び出した新たな神に与えられる真素マナの量も、そう多く出来ません。ただし逃げないよう最小限の真素マナしか与えなかったというのも事実です』


 やはり捨て駒のようだ。

 しかし他にどうしようもない以上、やるしか無いのだろう。

 この土地をある程度豊かにして、動物や人をおびき寄せる事を。


 でも待てよ、おびき寄せられるような人や動物は、この世界に残っているのだろうか。


『此処ケカハの南方にある山岳地帯には、僅かながら残っている人や動物がいます。それらは此処が住みやすいと判断すれば、移住してくるでしょう。環境さえ良ければ、数世代で人口も増える筈です』


 なるほど。

 土地を豊かにすれば、人も動物もやってくる余地があると。

 そして繁殖して、増えるだろうと。


『人を招き寄せ、増やして下さい。植物より動物、動物の中でも人が圧倒的に真素マナを生み出します。人が100人の村が一つ出来れば、それだけで土地神としての生存に最低限の真素マナは確保可能です。これが猪ですと1,000体以上、一般的な樹木ですと10,000本以上となります』


 動物、出来れば人を増やせか。

 目的は理解した。


 どうせ元の世界にいても、ボロボロだったのだ。

 家でも職場の市役所でも休まる時間がない、限界OLというか限界公務員だったから。


 何せ職場では論理が通じない市民の罵詈雑言に耐え、帰ったら病気で身動きがとれない母の奴隷。

 アラサーだというのに、結婚どころか誰かとお付き合いなんて経験すら無い、日々疲れ果てて休まる暇がない状態。


 だから元の世界には、未練はない。

 捨て駒扱いであっても、こっちの世界の方がずっとましだ。

 何もしなくても、500年くらいは生きられるらしいから。


 でもそれなら、少し位はこの世界に貢献してもいいだろう。

 なら私に課せられた目的を達成するために、何を出来るかについて知っておこう。


『土地神は権能として、『全知』『全在』という能力を持っています。『全知』は自分の土地及びそれに関連する、全ての事を知る事が出来る能力です』


 それは今までの説明で、何となくわかった。

 だから知りたいのは『全在』で何が出来るのかだ。


『『全在』は自分自身及び土地神として治める土地と、その土地にあるものを、全て望みの状態にあらしめる能力です。これには土地内での任意の場所への移動、土地内にあるものの加工等、様々な形態があります』


 任意の移動という事は、自分の土地内だったら端から端まで瞬間移動出来るという事だろうか。


『その通りです。また自分の土地にある土や岩、川や池の水、草植物、動物等は自由自在に扱う事が出来ます。例えば土ならば、掘る、埋める、固めて岩にする、土器を作る等が意識するだけで可能です』


 おお、これは便利だ。

 やり方次第では、この国を開拓する事が可能かもしれない。


『ただし大規模な操作や加工には、それなりの神力を使用します。真素マナが足りない中で大きな神力を連続して振るうと、その分土地神としての寿命が減少します。ですから真素マナが足りないうちは、大きな神力を連続して振るう事の無いようにして下さい』


 そう簡単に事はすすまないと。

 まあそんなところだろう。

 うまい話は、そう簡単には転がっていないという事だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年10月23日 05:00
2024年10月25日 05:00
2024年10月27日 05:00

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、神の権能を使って土地を豊かにして、人や動物を呼び込もうとする話~ 於田縫紀 @otanuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ