第82話

「……」


 思い切り大胆な告白を受けて僕は固まってしまった。その時の僕は越谷さんから見たらとても間抜けな顔をしていたことだろう。何故なら越谷さんはいつも通りの呆れた顔をしていたからだ。


「よし、まあいいや。時間も遅いからご飯食べてくでしょ?」


「え、そんな話あったっけ?」


 そう言うと越谷さんはキッと僕を睨みつける。そういえば合宿の時、手料理食べさせてもらうという話があった。それのことを言ってるのだろうか。


「え、急に悪いし。材料あるの?」


「悪くない。材料は一緒に買いに行くよ」


 そういうと越谷さんは買い物袋に財布を入れて準備をしてしまった。僕は慌てて財布だけ持って越谷さんの後に付いていく。どうやら二人で買い物に行くことになるらしい。二人で一緒に家を出る。スーパーは越谷さんの家を出て数分の所にあり、越谷さんが迷わず入っていく。


「そういえば春日部って何食べたいの?」


「う〜ん。特に無いよ。越谷さんが好きな物なら」


「そういうの料理作る側からしたら滅茶苦茶うざいらしいよ」


 僕はうぐっとうめき声を出してしまう。そんな事言ったって急に食べたいものと言われても出てこないし……と言い訳を作るがそんなものが許される訳が無いので頭を悩ませる。というより今のやり取りの感じだと越谷さんと付き合う人は尻に敷かれそうだなと思った。


「……じゃあ、ハンバーグとかどうでしょうか?」


「ハンバーグね。オッケー」


 買い物カゴは僕が持って肉売り場に行く。脳内でハンバーグに必要だと思う材料をリストアップしながら歩く。


「え〜と、ハンバーグだから合いびき肉と……」


「そうしたら僕のほうで玉ねぎとか色々見てこようか?調味料とかもあれば取ってくるよ!!」


 僕が二手に分かれて材料を持ってこようと提案する。皆さんもう分かっていると思うが越谷さんはまた呆れた顔をしている。ちなみにその目はチベットスナギツネみたいな感じだ。


「アンタのその感じ、毎回ツッコミ入れるの面倒になってきたな……」


「?」


「あ〜、もう一緒に買い物周るの。分かった?」


「イエッサー、マム」


 有無を言わさぬ剣幕に押されて僕はたまらず敬礼ポーズを取る。弱すぎるだろ僕。その後は黙って越谷さんの隣で荷物持ちをしていた。並んで歩きながら越谷さんの顔を見るとどこか楽しそうに見えるのでこれが正しいのかと一つ学びを得た。


 買い物を終えて越谷さんの家に戻る。当然僕は先程の買い物の料金を払うといい、料理の手伝いもすると提案したが両方断られてしまう。ただ、お金の方だけは僕も譲らなかったので折半ということになり、逆に料理は越谷さんが折れなかったので越谷さんに作ってもらうことになった。

 料理を作っている間、ソファーで大人しくしていろと指示をされたので大人しく座って待つ。ソファーの目の前には大きなテレビがテレビ台に乗っていた。テレビ台の所に写真立てがあり、小学生くらいだろうか恐らく越谷さんとお母さんがピースして写っている写真が置いてある。


「越谷さん可愛いし、お母さん滅茶苦茶美人だな……」


 当然と言えば当然なのかもしれないが越谷さんのお母さんはかなり若いしとても美人だった。やはり美形家族のようだ。それを考えると我が家の顔面偏差値は平均的だなあとしみじみ思う。


「アンタ、何見てるの?」


「うゔぉあ」


 越谷さんに声をかけられ慌てたせいで変なうめき声が出た。


「あっ、それ」


 僕が写真を見ているのがバレたのか写真立てを倒して見えないようにしてテレビの電源を付けた。大人しくテレビを見ておけってことですね……。

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