静寂の最期

塩谷夫妻

塩谷正弘と妻は施設での生活を始めた。彼らは長い人生を共に歩んできたが、最後の時間を静かに過ごしたいと望んでいる。しかし、施設内で他の人々の話を聞くうちに、彼らの選択について再評価するようになった。

塩谷正弘と妻の弘子は、安楽死施設。この場所の別の名前が「静寂の安楽死施設」に入居することを決めた。彼らは希望と不安を胸に抱きながら、静かな日々を過ごすことを期待して施設の門をくぐった。

施設の受付で温かく迎えられた二人は、手続きの後、居住エリアに案内された。個室には、シンプルだが心地よい家具が配置されており、大きな窓からは美しい庭園が見渡せた。弘子は窓の外の景色に目を向けながら、「ここなら穏やかに過ごせそうね」と微笑んだ。

毎朝、施設の庭での散歩が二人の日課となった。庭園には四季折々の花が咲き、池には鯉が泳いでいた。静かで穏やかな環境は、二人の心を少しずつ癒していった。

「正弘さん、この景色、本当に素晴らしいわね」と弘子が言うと、正弘は微笑んで頷いた。「そうだな、ここでの時間を大切に過ごそう」

食堂では、栄養バランスの取れた食事が提供されていた。以前の生活では考えられないほど豊かな食事が毎日提供され、二人は感謝の気持ちを抱いた。

「今日の昼食も美味しかったわ」と弘子が言うと、正弘は頷いた。「うん、ここでは安心して食事を楽しめる」

施設には他にも多くの入居者がいた。二人は共用リビングで他の入居者と交流する機会を得た。ある日、女子高生の杉山翔子が彼らに話しかけてきた。

「おじいちゃん、おばあちゃん、ここでの生活はどうですか？」と翔子が尋ねると、弘子は優しく答えた。「とても穏やかで、心が落ち着くわ。あなたも少しずつ慣れていくといいわね」

その会話をきっかけに、二人は他の入居者たちとも少しずつ打ち解けていった。

再評価

施設での生活が続く中で、塩谷夫妻は他の人々の話を聞く機会が増えた。会社員の杉村光輝は、キャリアの重圧や取引先や上司に耐えかねてここに来たことを話してくれた。女子高生の翔子は、学校でのいじめ（インターネット・ＳＮＳを使った誹謗中傷、）に耐えきれずに安らぎを求めて来たことを打ち明けた。

それぞれが異なる理由でここに来たが、皆が共通して「穏やかな最期」を求めていることを知った。二人はその話を聞くうちに、自分たちの選択が本当に最善だったのかを再評価するようになった。

「私たち、ここで本当に安らぎを見つけられるのかしら」と弘子が呟いた。

「わからない。でも、少なくともここでの時間を大切に過ごすことができる。それだけでも意味があると思う」と正弘は静かに答えた。