第267話 【有り得る未来】リオン2:旅立ち
さて、僕の紹介がまだだったね。
僕はリオネラート・レインフィールド。
通称リオンだ。
剣聖レディオニス・レインフィールドを父に持ち、アリアスティーディアを母に持つ。
エルフの森に住む、まだ50歳の若輩者だ。
妹が一人、マリアレヴァーナ。
よくできた、可愛い妹だ。
多分、彼女が次の女王だね。
つまりは、僕って邪魔じゃないかな?
ここ、エルフの里でそれほど重要でもないポジション。
なら、気軽に外に出られるんじゃないかって思って、数年……
はは、エルフって寿命が長いから、気が長いよね。
そして、腰が重い。
それじゃあダメだと、一念発起。
やっと森の外に出ることにしたんだ。
夕食の席で切り出してみる。
家族は母アリアと妹マリアの二人。
父レディオニスは「強い奴を探しに行く!」と森の外へ。
たまには帰ってくるけれど、ここのところ2年ほどは帰ってきていないかな。
食卓には母の手料理が並ぶ。
たまに僕も手伝うんだけれど、マリアは苦手みたい。
夫になる人は料理上手が良いだろうね。
「お兄ちゃんが作ってくれればいいじゃない」って言うけどさ。
愛する妹だとしても、さすがにずっと一緒はいられないよ。
メニューは森で狩った鹿のお肉、これはちょっと臭みがあるので香草と煮込み料理に。
キノコと葉物の炒め物。
発酵させていないちょっと硬いパン。
羊のミルク。
そんなところ。
母はとても料理上手。
だけど……この硬いパンがなあ……
味わいが深くて美味しいんだけれど、しかし、顎が疲れるんだよねえ……
父さんの話だと、森の外ではもっと美味しいパンがあるらしい。
ちょっとそれにも憧れる。
食事が終わり、紅茶の時間。
旅立ちを切り出す。
「決めたよ、母さん。僕は明日、森を発つよ」
すぐに反応したのはマリア。
立ち上がり、机を叩く。
ちょっとはしたないよ、マリア。
「何で? 何でよ、お兄ちゃん! ずっとここにいればいいじゃない。どうして外に行く必要があるのよ。お兄ちゃんは精霊も風、土、闇って、三人も契約しているんだよ。すごく、すごいことなんだよ。それなのに外に行っちゃうの? お兄ちゃんはこの村に必要なんだよ」
まあ精霊については運よく風と土、それと闇……
中級精霊と契約できているんだよね。
そして、それが余計でもある。
マリアは水の中級精霊と契約している。
それで十分なんだ。
それで女王候補としては十分。
だけど、隣にそれ以上に契約しちゃっている僕がいる。
それはやっぱり邪魔なんだよね。
彼女が静かに女王になるためには、僕は邪魔。
いらない内紛の種ってこと。
「私と一緒にいてくれないの? マリアのこと嫌い?」
勢いは弱くなり、目に涙がたまる。
「嫌いだなんて、悲しいこと言わないでよ。そんなはずないじゃないか。僕はいつまでもマリアが大好きだよ。だけど、これは僕がやりたいことなんだ。僕の夢。だから行くんだよ。もちろん、すぐに帰ってくるからね。マリアの顔を見れないのは寂しいからね」
「……『すぐに帰ってくるって』。お父さんみたいなこと言ってる……」
マリアの視線が痛い。
そして母さんの表情も険しい。
父さんの話を出すと、母さんの機嫌が悪くなるんだよね……
ならば……
「僕は父さんとは違うよ。だって、僕は母さんの子供でもあるんだ」
とりあえず父さんとは違うことをアピールする。
「それに闇の精霊と契約しているんだからね。いつでも帰れるんだよ」
闇の精霊はとてもすごい……
すごいんだけど、ちょっと怖かったりするんだよね。
彼女と契約し、転移の魔法を使えるようになっている。
何かあったらすぐに帰ってこれるんだ。
それで旅へのハードルが下がっている部分もある。
「……帰ってくるんだよね。絶対だよ。一週間に一度だよ」
「ああ。約束だよ」
僕は嘘つき。
たぶん、帰らない。
マリアが成長し、みんなに次の女王だと認められるまで。
母さんはそれをよくわかっている。
それが必要なことだとも。
だから辛そうな顔をするんだ。
「母さん、心配しないでいいよ。これは僕の幸せのためだからね」
「でも、リオンは……」
「僕もおばあさんと父さんと同じ血が流れているってことだよね、きっと。旅立たないではいられない性分なんだ」
これは本当のこと。
僕はこの村での生活に飽き始めている。
それは精神の死だよ、きっと。
この好奇心が僕をどこへ連れていくのか。
まあ、良いじゃないか。
僕が選んだ道だ。
それが苦労の連続だったとしてもさ。
受け入れましょう。
「マリアのことはきっと大丈夫。あなたはお父さんとは違うのよ。そして、お義母さんとも。剣士ではないでしょう」
「そうだけどね。だけど、僕は剣士でもあるからね」
マジックバッグから、その剣を取り出す。
とても立派な剣だ。
父さんから受け継いだ剣。
「お前の方がこの剣にはふさわしいからな」と。
だから、僕は剣術も頑張った。
自分でも、そこそこなレベルまで上達できたと思う。
そして母さんに笑いかけ、それからしまう。
おばあさんには相談して、すでに許可は取ってある。
彼女は現女王だ。
ひいおばあちゃんから、女王を引き継いだ。
母さんはその血筋じゃないから女王にはなれないらしい。
一族での女王継承ってものどうかと思うけれど。
まあ、それで上手くいっているのなら、無理に変える必要もないか。
おばあさんはレティーシャ・レインフィールド。
正しくはレティーシャ・ブラウンなんだけどね。
おじいちゃんはずいぶん昔に亡くなっているから。
おじいちゃんが亡くなって、父さんを連れて、エルフの村に戻ってきたんだ。
エルフと人間の寿命は違う。
一緒に住むにはいろいろと辛いことが多い。
きっとね。
「じゃあ……帰ってくるのよ。本当に……」
母さんは優しく僕を抱きしめてくれる。
マリアもやってきて、三人で抱きしめあった。
温かく、柔らかく、優しい。
ずっと忘れないよ、この感覚を。
ずっと忘れない、ここが僕の生まれた村。
僕の家族。
旅立ちのとき。
沢山の人たちが送り出してくれる。
「ねえ、いかないでよ」
「なんで、リオンが行くの?」
「私も一緒に行っていい……ねえ、ダメなの?」
「いやぁ、いやぁなのー!」
僕を引き止めようとする少女たち。
エルフの里の女性率がね、すごいんだよ。
だから、男性は貴重。
よって、モテモテ……
目に涙をためている子。
もう泣いている子。
泣き叫んでいる子……
可愛いんだけどね。
ちょっと押しが強くて、怖い感じ。
そのうち、いやきっと、力づくで押し倒されそうな……
まあ、これも僕が出ていく一つの要因だったりする。
ちょっと危ないよねえ、ははは。
そういえばダークエルフのあの子は……
儚く、触れたら壊れそうな外見をしていて、だけど内面はとても強い子。
少し好きだったけれど、伝えることもなかった、甘酸っぱい初恋。
伝える勇気があったら、どうなっていたのだろうか。
だけど、きっと僕は旅立つ。
それなら、もし恋がかなったとしても、彼女を悲しませるだけ。
これでいいんだよね、きっと……
「ごめん。僕は行くよ。今までありがとう。すごく感謝しています。ちゃんと戻ってくるから、それまで待っててね」
みんなにとても感謝している。
本当に、本当だ。
今まで、とても幸せに暮らしてきた。
このエルフの里が悪いんじゃない。
僕が旅に出たい。
それだけだ。
そうして振り切るように、僕は森を出た。
森から出て、振り返る。
木々がうっそうと茂り、まるで侵入者を拒絶するような森。
その中に僕の生まれた村がある。
さて、帰るのはいつだろうか。
『シルフ様に見つからないように出てこれたわね』
目の前に風の精霊ラナが飛んでいる。
ラナはおばあちゃんから引き継いだ精霊だ。
おばあちゃんは今は別の若い精霊と契約している。
僕が旅立つので、経験豊富な精霊をつけてくれたんだ。
『見つかったら、面倒だからね。いやー、転移魔法を習得していてよかったよ』
『リオンはシルフ様のお気に入りだからね……。リオンがいなくなったことを知ったら、きっと荒れるわよ』
まったく、ありそうな話だ。
大丈夫かな、村。
まあ、さすがにシルフ様も自分の住む村を壊しはしないだろう。
『ラナも大変だな。大精霊が近くにいると』
肩には土の精霊ディズリアが乗っている。
僕と契約している中級精霊だ。
土の精霊は飛ぶのが得意じゃない。
こうして僕の肩に乗っているのが好きみたいだ。
もう一人……
闇の精霊オリデレイネ。
黒く長い髪と、吸い込まれそうな夜の瞳を持つ、美女。
彼女は反対側の肩に優雅に腰を下ろしている。
『ではリオン、行きましょう。新しい日々が始まるわ』
彼女は僕の頬に優しく触れる。
『この旅はきっとあなたを成長させるわ。そして、いつの日か……あなたは』
彼女は思わせぶりな言葉を使う。
それは何かを暗示しているように。
本当は何も意味がないのかもしれない。
彼女と暮らすうえで、それをいちいち気にしていられない。
前を向く。
視界に森はない。
草が茂る丘が広がっている。
風が吹いて、後ろの森の木々が音を立てる。
だけど、振り返らない。
森の外、ここはもうレオシュブルク帝国だ。
この国はエルフと仲が悪い。
ということで、変装の魔法だ。
耳を短く、髪は茶色に変える。
これで人間に見えるだろう。
エルフのアイデンティティというのにこだわる必要もない。
エルフが嫌われていることは知っている。
気分は悪いが、それがこの国の文化だ。
『郷に入っては郷に従え』。
しょうがないと割り切ろう。
さて、まずはどこへ行こうか。
気楽な一人旅。
しかし、金はない。
多少の食べ物のみ。
うーん……やっぱり冒険者しないとダメかなあ……
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