第248話 【セントウレア?視点】私はここにいるよ

【セントウレア?視点】


素振りをする。

剣術の基本。

上段から振り下ろす。

何度も、何度も。


手にしている剣はマスターのルーカス君が作ってくれたもの。

ミスリルの大剣。

それを強化して、強化したもの。


手によくなじんで気持ちよく振れる剣。

魔力が私の波長に合っているのだろう。

たぶんルーカス君の優しさ。


……榎凪太(かなた)が作ってくれた魔剣も、名前はアレだったけど、優しい剣だった。


最近、少しだけ昔のことを思い出した。

私が村井菫だったときのことを。

まだ人間だったときのことを。



私たち四人がこの世界に召喚されたのは、私たちが高校2年生の春だった。

私、村井菫。

幼馴染の佐久間愛莉。

これまた幼馴染の林榎凪太。

高校から友達になった平手雫。


召喚された国は、今は存在しない国。

もう歴史上の国。

私たちは魔王に対抗するために召喚された。

魔王はヒュドラという魔物だった。

首がたくさんあり、毒をまき散らす凶悪な魔物。

通常のヒュドラよりも何段階も強くなっていて、勇者じゃないと対応できなくなっていた。


召喚されてから、私たちは2年間の訓練をした。

能力は私が剣士で、愛莉が勇者、雫が魔法使い。

そして榎凪太が錬金術師だった。

私は剣が得意で、今のように大剣を振り回していた。

やっぱり魔法とかまどろっこしいのより、腕力で単純なのがいい。


愛莉にはよく、「菫は、外見と性格が一致してないよね」とからかわれたっけ。

愛莉は剣と光魔法が得意だった。

光魔法は回復と攻撃もできた。

とても優秀な勇者だった。

今でいうところの亘理君と大谷君の能力を併せ持った勇者?

両方の能力を持っていたとしても、活かせなければ弱いんだけどね。

愛莉はすごく努力したから強かったよ。


雫は火と土の魔法使い。

こちらもとても優秀。

ちょっと何考えてるかわかんないところもあるけれど、真面目な子だった。

たぶん陰で努力していたんだよね。



訓練の二年間、最初のうちは榎凪太も一緒にいた。

だけど戦闘職でない彼は、私たちについてこれなくなっていた。


「榎凪太は錬金術でアタシたちを助けてくれてるんだから、それでいいんだよ」


愛莉はそう言ったんだけど、榎凪太は納得はしたくないようだった。


「でも、僕だって一緒にいたいよ。僕だって戦える!」


「バカ、榎凪太。私たちは四人しかいないんだから、それぞれができる最大限のことをしなきゃ、魔王を倒せないんだよ。榎凪太は錬金術に専念した方が役に立つの!」


「だけど、愛莉……」


「だけども、なにもないの!」


愛莉が強引に押し切って、榎凪太は錬金術に専念することになった。

それからの榎凪太はすごかったよ。

私たちの装備は日々アップグレードされていって、魔王と戦う頃には国宝級で全身コーディネートになった。

世紀の天才とか呼ばれて、持ち上げられてたな。


「僕は戦えないから」


謙遜していたね。

私たちは本当に感謝していたんだよ。


ヒュドラの魔王は10メートルある蛇みたいなヤツだった。

頭が九つ。

猛毒の攻撃が強くて、周辺の草は枯れて、土も毒々しい色に染まっていた。

回復力が高くて、全部の頭を対処しないと、頭が生えてくるヤツだった。


「大丈夫、私たちには聖剣グラムがある!」


聖剣グラムは竜種に特攻がある伝説の剣。

召喚時に神様から授けられた、対ヒュドラ用の剣だった。

一応、ヒュドラも竜種らしいんだ。

ドラゴンって翼がなくてもいいんだね。

定義がよくわからない。


戦いは大変だった。


「雫! 斬り落とした首を焼いて! 再生できなくする!」


「了解!」


愛莉が首を斬り落とし、その傷を雫が火魔法で焼く。


私の剣では首を斬り落とせない。

雫の護衛だ。

ヒュドラの首が雫を狙う。

それを剣で打ち払う。


一本の首が大きく空気を吸い込んでいる。


「毒、来るよ!」


愛莉、雫が魔道具に魔力を込める。

もちろん私も。

これは榎凪太が作ってくれた毒無効化の魔道具だ。


ヒュドラが毒を吐き出す。

クッサ!

毒は無効化されているようだ。

だけど、この匂い!

今度、榎凪太に匂いも防いでくれるようにお願いしておこう。


ヒュドラとの戦いは長かった。

首を切っても生えてくるし、それを阻止しようと焼いたけど、焼きが足りないと回復するし。

榎凪太特製のポーション、マジックポーションをずいぶん飲んだ。

お腹がタプタプで、もう飲めないよというところまで戦ったよ。

ちなみに、戦いが長すぎで、オムツにおしっこ漏らしてたことは内緒ね。


「これで終わり!」


愛莉が聖剣グラムで最後の首を斬り落とした。

ヒュドラの首はもうない。

尻尾の生えた肉の塊みたいなものになっていた。


「念のために焼いておくよ」


雫が火魔法で首の切り口を焼く。

まだビクビク体が動いていた。

その体も焼いていく。

周囲には焦げた蛇の匂いが充満している。


動かなくなっていく蛇を静かに見守った。

……やっと、蛇は動かなくなった。


「これで終わったんだよね……」


愛莉に聞いた。


「……たぶん」


「もう、動き出さないよね」


雫が呟く。

ヒュドラはもう動かなかった。


「やったー!!」


「終わった! 長かった」


「魔力ギリギリだー! よかった、死ぬかと思った!」


私たちは手を叩き合って、抱き合って喜んだ。

こうして私たちは魔王を討伐したんだ。



そういえば、王都へと帰還する途中、雫が愛莉に絡んだこともあったっけ。


「愛莉は、榎凪太君のことどう思っているの?」


「な、なによ、いきなり。榎凪太は弟よ、弟!」


愛莉は少し動揺していたような。


「じゃあ、私がアタックしてもいい? 今回、魔王倒せたのだって、彼がいなきゃ無理だったじゃない。だけど、彼は直接戦えないのを負い目に思ってると思うんだ。私が慰めてあげようかなーって」


「べ、別に、いいけど……私、関係ないし」


うん。

明らかに動揺してたよね。


あれって、今思うと雫が愛莉をけしかけてたんじゃないかなって思う。

いやあ、意外に本気?

雫ってよくわからないところがあったからなあ。


私は、榎凪太はやっぱり弟かな?

でも、もう少しして榎凪太がもっと大人っぽくなったら?

どうなっていただろうね。

私たち四人の関係は。

まあ、今となってはわからないんだけどね。



王都に帰ると、榎凪太が入り口で待っていた。

いつ帰るかわからないのに、毎日来ていたのかな?

私たちを見ると、彼は泣いた。

ヒック、ヒックって。

榎凪太、やっぱり弟キャラだよね。

だけど榎凪太、ありがとう!

君の頑張りがあったから、私たちは生きて帰ってこれたんだよ。

すごく感謝していた。

でも……恥ずかしいから言わなかったんだ。



「ドラゴンの討伐ですか?」


愛莉が王様に聞く。


「そうだ。このところ偉そうにしているドラゴンがいてな。聖剣グラムは対ドラゴンの剣。ドラゴン退治は得意だろう?」


まあ、そうなんだけど。

魔王を討伐して、すぐ?

ちょっと働かせすぎじゃない?


「民草の生活を守るため。行ってもらいたい」


国民の話を出されると弱いんだよね。


「承知しました。でも、これが終わりましたら、少し休養をお願いします」


愛莉が受けて、そして、やっぱり榎凪太を残して、ドラゴン退治に立ったんだ。


今度の相手、それは金色に輝く鱗を持った、とても綺麗な龍だった。

綺麗で、威厳があって、威圧感があって。

神様を前にしたら、こんな感じかなって思ったよ。


もちろんね。

勝てなかったんだよ……

今はわかる。

あれはドラゴンじゃなかった。

神龍。

そう、今より少しだけ若い龍王様だったんだね。


ほぼ神様みたいな存在。

それに私たち三人だけで挑むなんて無謀だった。


そういえば、あのとき、本当に龍王様は国を困らせていたのだろうか?

国王が調子に乗って、神龍の討伐を望んだだけじゃないのかな。

高価な素材を望んで。

ただの強欲だったんじゃないかって疑っちゃう。


結局、私たちは龍王様の前で、ただ立ち尽くしただけだった。

そして、私たちは神龍のブレス一つで全滅した。

そこは良かったわね。

痛みも何もなく、一瞬だった。


そりゃあ、もっとやりたいことはあったし、死ぬのは早いと思ったわ。

もっとおいしいものも食べたかったし、恋愛もしたかった。

愛莉と、雫と、榎凪太ともっと話したかった。

笑い合いたかった。


だけど、最後はあっけなく。

一瞬だったんだよね。



それから、時間の流れはわからないけど、セントウレアの体の中に私はいた。

ガラス瓶の中、液体に浮かび、錬金術師を見ていた。

そう、前のマスター……

あれって、もしかしたら榎凪太だったのかな?

歳をとって、確かじゃないけれど。

なんとなく面影があったような。

私の記憶も曖昧でわからないけれど。


だけど、そう仮定するとさ。

榎凪太がセントウレアを作ったのって……

この体は私に似ている。

髪の色とか違うけれどね。

そして、ほんのちょっとだけ美化されてるけどね。


榎凪太は私が好きだったのかな?

どんな気持ちでセントウレアを作ったのだろう。

そして、完成できなかった。

ちょっと寂しい気持ちになる。


その彼ももういないんだよね。


そう考えると、この思い出って必要なのかな。

何も知らない、思い出さないセントウレアの方が幸せだった?


ううん、そんなことないよね。

愛莉も、雫も、榎凪太も。

思い出してあげたほうがうれしいよね。

私は彼らの思い出を持って、生きていくんだよ。

彼らが生きていたことを私が知っているんだ。



それはそれで良いんだけど……

もう一つ問題が。

マスター、ルーカス君はどうしようか?

私に記憶が戻ったことを打ち明ける?

……

ちょっと怖いんだ。

今の関係が終わるのが。

マスターとそのホムンクルス。

ルーカス君の完全な庇護下な状況。

それが少し心地よくもあるんだよ。


ちょっと卑怯な気もする。

そして、ネルちゃんと同じ状況な気もする。

あの子も逃げてるのかな?



レティさんと訓練は終わり。

ぽけーと空を見て、色々と思い出していた。


「あ、レアもトカゲ肉食べるよね。リクエストある?」


ルーカス君だ。

柔らかく笑う、優しい人だ。

ホムンクルスの私から逃げ出さずに、ずっと私のことを考えてくれた人。

ガラス瓶から、再びこの世界に連れ出してくれた人。

そりゃあさ、好きになるでしょ、そんなん。


「ステーキも良いけど、焼肉も良いよね。シチューとか作ってみるかな……。レア、手伝ってくれる?」


だけどきっと、彼は私がそんな気持ちを持っているなんて、全然考えてないんだろうね。

ちょっと悔しい。


だけど私はまだこのまま。

だけど私はいつか打ち明けるんだ。

一人の女の子として見てもらうために。


私は村井菫でもあって、セントウレアでもあるんだ。

私はここにいるよ。

私は生きているんだ。


手を伸ばせばルーカス君に触れられる距離。

だけど、まだ今は。


「はい、マスター。お手伝いいたします。シチュー楽しみです」


もう少しだけ、ただのセントウレアでいようと思う。

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