第221話 闇というもの
自室。
横にはアルベルタ。
『闇はね……。世界の始まる前にあって、世界の終わりの後にもあるもの。全ての親にして、全ての帰る場所。恐れられながら、語られることも恐れられ、忘れられた。だけど、そこに確実にあるもの……。そう、終わりの時まで。終わりを超えたとしても』
「うーん……。むずかしいね」
本日は、アルベルタと闇の強化を勉強している。
闇属性のため、エイリアナ、メーリーアには退出してもらっている。
結局、闇は良く分からなもの。
いつも隣にいて、こちらをのぞき込んでいるってやつだ。
おそらく創造神がこの世界を作る前からあったもの。
そこに創造神がまず光を作る。
光があり、視界ができる。
視界があるということは、そこに何か物が存在できるようになるということ。
全てが闇の状態だとすれば、物があることを確認できない。
認識できなければ、物は無いと同じだ。
よって、物は存在できない。
だから、光は4属性より上の属性。
神の属性だ。
そして、闇は……光の属性の上……?
『上とか、下とかの概念ではないのよ』
そのあたりの認識が難しい。
たぶん、人間の時間軸では理解できないことかもしれないなあ。
さて、次元魔法だ……
「これって魔力がザルじゃない? どんだけ使うの?」
『次元魔法だから、仕方ないわ』
転移魔法と次元魔法の違い。
転移魔法はこの世界の他の位置へアクセスする扉を開ける。
一時的、局所的にね。
東京の横には大阪があります、という状態にする感じ?
違うか。
まあ、この世界内の話だ。
それに対し、次元魔法は、この世界はもちろん、別の世界へアクセスする扉を開ける。
転移魔法は次元魔法の一部ということ。
次元魔法には空間を斬り割くことで攻撃することもできる。
そして、異世界召喚は次元魔法に含まれる。
次元にアクセスするためにはもちろん高度な技術と大量の魔力が必要になる。
そして、魔法陣も大きくて複雑だ。
いやあ……
大変。
何年かかることやら。
『貴方なら習得できるはずよ。頑張りなさい』
ということで、効果範囲の小さい次元魔法である、空間自体を攻撃する魔法を覚える。
手の平すぐの所に、これまた手の平サイズの攻撃範囲。
接近戦用の魔法で、通常では用途がない。
魔法使いが接近戦をすることはないから。
だが、これが次元魔法の初歩。
僕の場合は、機動力があるので、有効に使えそうではある。
手の平に魔法陣を展開。
魔力を……ずいぶん持っていくね。
「パンッ」と音がして、空気が弾ける。
それだけ。
見た目にも何も変わりはない。
『まあまあかしらね。さすがルーカスだわ』
成功していたらしい。
威力がわからない。
マジックバッグから鉄のインゴットを取り出す。
インゴットを手で持ち、それに次元攻撃魔法を発動する。
発動速度……かなり遅い。
そして、「パンッ」と前回と同じ音がして、鉄の塊は崩れ、落ちた。
これは……
前に作った破壊魔法とどう違うのか?
『威力が違うのよ。ほとんどの物を破壊できる威力があるわ。鉄でも、ダイヤモンドでも』
「破壊魔法でも大体壊せたけど」
『それはルーカスの魔力が高いおかげね。普通はあれほどの威力はないわ』
いやあ。
魔力が高くないと次元魔法を覚えられない。
魔力が高いなら、同じ効果の魔法が使える?
なら、必要なくない?
『この系統の向こうに、異世界転移があるのよ。どう、異世界転移を覚えてみない?』
「それは個人の魔力で発動できる魔法なのでしょうか?」
『普通は無理ね。例えばルーカスの魔力を何年も魔石に溜めれば使えるかもしれなわよ』
さすがに一人の魔力では無理そうだ。
神様のサポートがあれば?
『ルーカスを転生させた、あの神かしら。助けてくれないと思うわよ。彼は、自分の興味があることじゃないと動かないわね』
神の興味のある異世界召喚?
彼の目的に沿ってお願いするしかないということか。
もしくは彼が求めたときにしか召喚できないのかもしれない。
おそらくだが、破壊魔法と今回の魔法の違い。
破壊魔法は物質そのものを分解しようとする魔法。
そのため、対象の物質、人間とかが抵抗をしようとすれば可能。
次元攻撃魔法の場合、空間自体に作用する魔法。
防御するには空間自体を防御するか、魔法の発動を防御するしかない。
魔法防御力を無視して攻撃できる。
対策はいくつもあるだろうが、上手く使えば非情に有効だ。
あとは……
この難解なスパゲッティな魔法陣を簡単に簡潔にして、効率化をしたい。
大変そうだが、とても暇つぶしになる。
良いじゃないか。
『慎重にすることね。失敗したら被害が酷いから』
……まあ、まだ手のひらサイズの攻撃魔法。
それほど被害は無いと思う。
うん。
大丈夫だよね。
『手が消滅するくらいかしら。ルーカスの場合、回復ができるから問題ないわね』
痛いのはちょっと嫌だなあ……
「では、闇の身体強化を実験しようか」
『原理は簡単よ。光で身体強化できているのなら、闇に変えるだけよ』
アルベルタが微笑む。
なにか含みがあるように見えるのは僕だけでしょうか。
「まあ、やってみよう。ダメだったらそのとき対策を考えましょうか」
なに事もやってみないと分からない。
この一歩がなかなか踏み出せずにいるんだけどね。
知っていること、やったことがあることはハードルが低いんだよね。
だけど、何事も初めてはあるんだ。
赤ん坊のころなど全てしたことがない。
それを一つ一つやって、間違って、出来るようになる。
経験を積むと失敗が怖くなって、恥ずかしくなって、足が重くなる。
やってみるのが良いんだ。
そう、自分に言い聞かせてみる。
保険はかける。
ハードルは下げておこうと思う。
まず、闇系の魔法を使うときと同じように魔力を練る。
『そうね……。もう少し純粋な闇が欲しいわね』
純粋な闇と言われても。
どうしろと?
『頑張りなさい』
唸りながら数分。
これね、魔力練りながらって結構辛いんだよね。
まあ、なんとかアルベルタの合格レベルを達成した。
ジャンルは違うが、複数ある闇系の魔法。
そのなかにある共通の感覚を抽出していく感じ。
だけどそれは純粋で単純で……
だけどそれは奥が深く、その先が見えない。
少しの恐怖。
うん。
体でできただけで、理論としては分からない。
そんな感じ。
では……
『そうね。気を付けた方が良いかもしれないわね。慎重にね、ルーカス……』
まあ、やってみましょう。
闇をじっくりと体に染み込ませていく。
ゆっくりと闇が広がっているような感覚がある。
すぅぅっと、静かになっていく。
熱が無くなっていくような感覚がある。
それは冷たくなっていくわけではなくて……
『……ルーカス……』
アルベルタの声が遠く、近く聞こえる。
すごく不思議な感じ。
いや……不思議と思う、その僕は誰だ……
広がっていく。
意識が体をはみ出し、世界にしみ出していく。
どこまでも、どこまでも広がっていくような気がする。
意識は世界と混じりあう。
僕は誰だ……
気持ちがいいとか、悪いとかそういうことではない。
ただそれが必然、当たり前のことに思う。
僕は世界の一つで、僕は世界そのものだったんだ。
何で気づかなかったのだろうか。
僕はどこだ……
『ルーカス! ダメよ! それ以上行ってはダメ!』
……あ、アルベルタだ。
いや、珍しい。
真面目な顔をしている。
『私を見なさい! ここに留まるのよ! あなたはルーカス・ブラウン!』
どうしたのアルベルタ。
そんなに真剣に。
あれ、君はそんなに大きかったっけ?
『貴方の形を、体を思い出して! 感じるのよ!』
アルベルタが僕を抱く。
冷たく、少しだけ暖かい。
……どこかで嗅いだような、良い香りがする。
『そう感じるのよ。貴方の体が、五感が感じているものを』
『アルベルタ……』
『そう私はアルベルタ。そして貴方はルーカス・ブラウン。森の村の農家。ただそれだけの人』
『ルーカス・ブラウン』
そう、僕はルーカス・ブラウンだ。
まだ、ルーカス・ブラウンだ。
ただの土いじりが好きな、どこにでもいる農家だ。
『そう、ちょっと妻を多く持っただけの農家よ。いい、彼女たちの顔を思い出すのよ』
そうだ……
エレノアさん、リネット、フィオナさん、ティーレ、ミラベルさん、アイリスさん、レティー、アーヴィ。
沢山妻を持ったものだ。
まだだ……
彼女たちに会えなくなるのは……まだまだ先だよね。
まだ、ここにいたい。
まだまだ。
今じゃないんだ。
何となく……意識が体に収まったような気がする。
ぼやけていた視界がクリアになっていくような気がする。
目の前にアルベルタがいる。
小さなアルベルタが、目の前に浮いている。
『貴方は才能がありすぎるわね……。闇に近づきすぎよ。ルーカス、まだ早いわ。もう少しゆっくりといきなさい』
おそらく、とても助けてもらったような気がする。
「ありがとう。アルベルタの真剣な表情って初めて見た気がするよ」
『知らないわよ……。私が本気になったら酷いんだから』
「それは怖い。遠慮しておくよ」
『そうね。闇の力は強いわ。ゆっくり、少しずつ慣れるのよ』
いやー、怖かったね。
よく覚えていないけれど、怖い事だったと理解した。
……本当に怖かった?
うーん、分からない。
闇の身体強化は、出力を弱めで訓練しよう。
何だか恐ろしかった。
けれど、なんとなくやっておかなければいけない事のような気がする。
『きっと、人類最強になれるわよ』
最強になりたいわけじゃない。
だけど、戦うなら圧倒的な勝利がいい。
それが一番被害が少ないじゃないか。
『ルーカス。貴方は本当に我儘ね。そうね。今回は少し驚いたわ……。戻ってきて、本当に良かった』
アルベルタは僕の肩に座り、顔に体を寄せる。
なんか、僕は色々な人達に生かされているなあ、と思ったり。
事の発端はアルベルタじゃなかったか、と思ったり。
一つため息をつく。
しょうがないよね。
僕は天才じゃないし、失敗もある。
だけど、一緒にいてくれる人がいる。
そういうことなんだろう。
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