第204話 オーヴェ対エッカルード
グンヴォルさんの部屋。
集まった面子は龍王さん、グンヴォルさん、妻のディンケラさん、オーヴェさん、ティーレ……
それに何故か僕……
僕、いらなくない?
「さてと、どうしようかの。グンヴォルよ」
ディンケラさんが入れてくれたコーヒーをすすりながら作戦会議だ。
うん、コーヒーだね。
まさしくコーヒーだ!
少し焼きが強く、香ばしい香りが強い感じ。
深煎りかな。
苦みが強く、牛乳が合いそうだ。
いいじゃないか。
少し貰って帰りたい。
前世、僕はそれほどお金がある方じゃなかった……
いや、だいぶカツカツ。
で、喫茶店でコーヒーなど飲めるはずものなく、インスタントコーヒーが主だった。
まあ、コーヒー好きとは言えないさ。
僕はインスタントコーヒーを朝、昼と日に二杯飲んでいた。
牛乳をたっぷり入れて。
牛乳がないときは粉末クリームをたっぷりと。
ブラックも飲めるが、苦いコーヒーに牛乳を入れるのが好きだ。
いいじゃないか、ブラックじゃなくたって。
インスタントだって。
好きなものは好き。
ということで、フルーティーなコーヒーというのが苦手だったりする。
これも馬鹿舌ってことなのかな?
今はブラックで飲んでいる。
勝手に牛乳を入れるのもね。
他の神龍さんたちもコーヒーだ。
彼等は慣れているようだね。
東の国は普通なのだろうか。
王国では見たことがなかったけど。
「エッカルードはどうなんでしょうか? ここにいたときより腕を上げておりますか?」
グンヴォルさんが問う。
「あれは、真面目な戦闘狂故に、実力は折り紙付きじゃぞ」
「さすが、エッカルードさん。真面目なところは高得点ですわね」
いや、ディンケラさん……
戦闘狂って点は良いのかい?
義理の息子になる男だよ。
「私では勝てませんか?」
「そうじゃの……。難しかろうて……」
オーヴェさんも相当の実力者らしいんだけれど、エッカルードが鍛錬しすぎってことらしい。
勝てないと妻になれない。
うーん……
それは面白くない。
エッカルードが家庭を持てば、少し大人しくなるんじゃないだろうか。
彼は僕への当たりが強いからなあ……
少し押さえてほしい。
「……ということで婿殿」
「はい?」
急に振られてビックリだ。
僕に何を?
「オーヴェの武器を魔強化じゃ!」
なるほど!
ドーピングですね!
お義父さん、了解です!
実力で勝てないなら、装備をアップデートすればよい。
それはRPGの常套ですね!
「すみません……。その方向で本当に大丈夫なのでしょうか? エッカルードに勝てますでしょうか」
「オーヴェ。私の夫を信頼してください。ルーカス様は武器強化が趣味の人。武器強化には並々ならぬ愛情を持っておられます。妻の私を放っておけるほどに」
少しティーレの毒が痛いが、ここは頑張ろう。
さて、オーヴェさんの武器は十文字槍でした。
はい、素材がアダマンタイトです!
凄いです!
ドワーフ作らしいです。
やっぱりドワーフはアダマンタイトの武器をつくれるらしいです。
で、ドワーフは武器生成は優れているけれど、魔法は弱い。
なので、武器の魔法強化がまったくされていない状態でした。
ド・ノーマル。
まあ、この世界のほとんどの武器は強化されていないんだけどね。
錬金術師が少なすぎると思う。
ステータスは以下。
概要:槍
素材:アダマンタイト
強度:300
攻撃:220
うん。
ミスリルの剣より、およそ倍近く強い。
槍だから若干剣より強度は低いはず。
それでこの数値だから、アダマンタイトは強度が高い。
本当に素なので、強化のしがいがあるってものだ。
さてさて、どうしましょうか……
「どうでしょうか、ルーカス殿……」
オーヴェさんが心配そうにのぞき込む。
「やってみましょう。きっと大丈夫ですよ」
たぶんエッカルードに倒すには、純粋に強化して、数値を高くするだけじゃダメだ。
少し特殊なことをしないといけない。
「✕✕✕」
何やら廊下が五月蠅い。
「……あれは、エッカルードの部屋の方向。まさか……」
耳を澄ませていたオーヴェさんが慌てて出て行った。
「まったくオーヴェは世話しないんですから。ちょっと見てきますね」
ディンケラさんも様子を見に行く。
続いてティーレも。
しばらくすると。
「アウロ、アンセル! あなたち何してるのよ!」
オーヴェさんの絶叫が響く。
どうやら双子が何やらやらかしたらしい。
ふむ。
ちょっと興味があるが……
「婿殿、これを使うのはーー」
「ラウレンホルト様、それでは私のがーー」
「えっと、それならここをこうしたら……あ! こういうのはどうでしょうか?」
「なるほど、婿殿! それはエッカルードが嫌がるじゃろう」
とういう感じで、お義父さんと、グンヴォルさんと楽しく錬金術をしました。
待ってろよ、エッカルード!
必ず倒して見せるからな。
後でティーレに聞いた話。
双子はエッカルードをひん剥いて、縛り付けていたらしい。
裸で襲うところをギリギリ見つけたとのこと。
既成事実を作ろうとしていたらしい。
うーん…大変残念。
向こうも面白そうだった。
……人間状態だとしても神龍を縛り付けられる縄ね。
ちょっと貰っていきたいところだ。
グレイプニルとかそんな感じ?
翌日、決闘の日。
やはりこの屋敷にもただ広いだけの部屋があった。
戦闘訓練用の部屋だろう。
中央。
オーヴェさんとエッカルードが相対する。
オーヴェさんは僕たちが強化した槍をもち、エッカルードは無手。
彼は武器を使わない戦闘スタイルの様だ。
試合前にオーヴェさんに調子を聞いたところ……
「昨夜のエッカルードの裸体が目に焼きついて……睡眠時間が短いですが、問題ありません」
目がギンギンなのだが大丈夫だろうか。
強化槍の訓練に時間も使った。
睡眠時間が削られている……
が、エッカルードの方も本調子じゃなさそう。
双子に襲われる可能性を思うと寝付かれなかっただろうか。
五分五分。
「では、はじめえ!」
龍王さんの号令で試合は始まる。
「オーヴェゲリーン殿、全力で行かせてもらいます」
エッカルードの身体強化は、前回僕と立ち会ったときよりも力強く、圧力がある。
鍛錬を積んだのか、前回が手抜きだったのか……
「エッカルード。オーヴェと呼んでくれて良いのですよ」
オーヴェが身体強化と武器強化。
身体強化はやはりエッカルードより弱いか……
しかし……
武器が赤紫に輝く。
火属性の魔力の赤、僕の強化の紫が混ざり合って、とても禍々しい。
うーん……
僕には聖剣は作れないようだね。
できて妖刀。
それはそれでロマンがある。
「ルーカスの強化か……」
「武器を強化してはいけないとのルールはありませんでしたよね」
「問題ない。当たらなければただの棒だ」
「さて……全て避けられるでしょうか?」
エッカルードが動く。
やはり速い。
しかし、攻撃範囲が違いすぎる。
拳と槍。
槍の突き。
エッカルードは避け、そのまま突撃……
オーヴェは槍を突きから薙ぎに繋げる。
エッカルードは腕でガード。
が、オーヴェは力強く振りぬく。
エッカルードが飛ばされる。
どこかで見たような光景だな……
……神龍の女性って怪力自慢が多い?
エッカルードは着地の瞬間、地面を蹴り、再度突撃。
槍の突き。
それを上へ跳躍でかわし、回転、かかと落とし。
オーヴェは躱す。
エッカルードは攻撃の手を休めない。
懐に入られたオーヴェは槍を短く持ち対応するが、やはり厳しい。
エッカルードに押し込まれ……
掌底を腹に貰う。
オーヴェも後ろに飛んで躱そうとしたが、間に合わなかった。
エッカルードは追撃しない。
二人の間が少し空いた。
「さすが、エッカルード。やりますね」
「オーヴェゲリーン殿も、更に強くなりました」
笑い合う。
うん……
オーヴェさんも戦闘狂。
神龍さんたちって理性で押さえているけど、その本質は好戦的じゃないかな。
それって結構怖くない?
人間を滅ぼせる戦力が戦闘狂って……
今は深く考えないようにしたい。
「では、行きますよ。エッカルード」
「楽しみましょう」
なんか仲良しじゃないかな。
相性良いじゃないかと思うけどね。
オーヴェさんが連続で突きを繰り出す。
なかなかの速さ。
エッカルードも躱すのがやっと。
これね。
武器のサポートもある。
力の方向に合力が加わるようにしている。
この能力、普通に考えて、じゃじゃ馬。
我ながらこれは扱いにくいと思う。
昨日の今日で使いこなせるものじゃないんだけどね。
完璧に使いこなしている。
オーヴェさんは天才だよなあ。
そして……
エッカルードが避けきれず、十文字槍の横手に掠る。
普通の槍より当たり判定が大きいからね。
で、頬に傷ができる。
エッカルードが驚きの表情を浮かべる。
エッカルードの身体強化だと普通の槍、まあ、普通のアダマンタイトの槍では傷つけることは出来ない。
が、強化槍だよ。
オーヴェさんと相性が良いように、神龍、グンヴォルさんの鱗で強化されていたりするんだよ。
いやー、凄いね神龍の鱗。
概要:槍
素材:アダマンタイト・神龍の鱗
強度:1300
攻撃:1200
付与効果:強度+3、攻撃+3
こんな感じ。
もう少しでエルリックのハバキリまでいけそうだ。
少なくともエッカルードに届く武器になった。
でさ、さらに……
「これは!」
エッカルードが僕を睨む。
ねえ、よそ見していて良いのかね?
オーヴェさんの攻撃が続く。
エッカルードの動きは目に見えて悪くなっている。
ギリギリ攻撃を躱している。
そう、重力魔法だ。
槍の攻撃を受けると重力魔法にかかってしまう。
僕との戦いの悪いイメージが残っているかね。
ちょっとした嫌がらせ。
重力魔法を起点に相打ちまで持っていかれたからね。
冷静さを失うといいんだけど。
エッカルードが何とか距離をとる。
「こんなもの!」
気合とともに、魔法効果が消えたようだ。
なるほど、さすがエッカルード。
対策もしているか。
だけどね。
息をつく暇は与えないさ。
オーヴェさんの突きが襲う。
エッカルードが躱すが……
ほら、肩に掠った。
また、重力魔法。
エッカルードが距離をとろうとするが、それはさせない。
オーヴェさんの追撃が続き、被弾。
更に重力魔法が追加される。
動きが更に悪くなり、攻撃に被弾する確率が上がって…
重力魔法が重なり続け、そして、エッカルードの動きは悪くなっていく。
一つ呼吸をする間がある。
二人は見つめあい、笑いあう。
「では、最後の勝負!」
「……いきます」
エッカルードの両腕が青白く輝く。
オーヴェさんの槍が更に赤く輝きを増す。
二人、叫ぶ。
「拳魂一擲‼」
「百火繚乱‼」
……厨二病的表現が聞こえたが無視だ。
エッカルードの突撃。
しかしオーヴェさんの高速の連続突きが彼を包む……
普段ならエッカルードに軍配が上がるのだろうが、何重にもかけられた重力魔法が足枷。
オーヴェさんの攻撃が終わる。
エッカルードは床に膝をつく。
体には無数の傷。
重力魔法は更に強力に発動している。
……その魔法を発動するでも、相当な魔力が必要なのだけどね。
さすがオーヴェさん、神龍。
エッカルードの傷は、見ているうちに回復していく。
魔法ではない。
どんな生物だよ、神龍……
オーヴェさんの槍先がエッカルードの首元を突きつけられる。
「終わりですね、エッカルード」
「……くっ……ルーカス! お前!」
エッカルードが僕を睨む。
けどさ、龍王さんだって、グンヴォルさんだって、ノリノリで同意してくれたからね。
僕だけの責任じゃないよ。
「エッカルード。往生際が悪いですわよ。ルーカス様は私の武器を強化してくれただけ。あなたも武器強化を許可していわよね」
「しかし!」
「しかしではありません! 私が勝ち、あなたは負けました! 違いますか?」
「……いや……違いない……」
おー。
オーヴェさんに怒られて、エッカルードがしゅんとしてる。
もうすでに尻に敷かれている感。
頑張れエッカルード。
君もこっち側だ!
「それまでじゃ。エッカルード。お主の負けじゃ。約束通り、大人しくオーヴェゲリーンの夫となるのじゃな」
お義父さん、威厳があるように装っているけどね。
何となく楽しそうな感じが漏れ出ている。
「……ラウレンホルト様に従います」
本当はさ。
結婚は合意の上で合って欲しい。
けど、エッカルードだからまあいいよね。
「分かりました。オーヴェゲリーン殿……」
「オーヴェとお呼びください」
彼女は手を差し出す。
エッカルードはその手をとる。
「……オーヴェと結婚いたしましょう」
「エッカルード。末永く。この世の尽きるときまで二人。幸せになりましょう」
「……しかし、私はラウレンホルト様を守る身。ラウレンホルト様から離れるわけには行きません。そのところは承知していてもらいたいです」
「私、エッカルードとともにラウレンホルト様を守りますわ!」
「いえ、神龍は夫が通う、通い婚の形式。その文化をないがしろにする訳には行きません」
「しかし! ……それでは寂しいですわ」
ふむ。
なるほど……
エッカルードよ、往生際が悪すぎるぞ、それは。
オーヴェさんも可哀想だ。
ということで助け船だ。
喜ぶが良い、エッカルード!
「僕が転移装置を設置しましょうか? 龍王さんの住居とここを繋ぎましょう」
「ありがとうございます! ルーカス殿!」
「ルーカス! お前は!」
エッカルードよ。
そこは喜ぶべきところ。
ほら、オーヴェさんに睨まれる。
夫にそれほど権力なないよのだよ。
妻の手の平で踊らされているくらいがちょうどいいのさ。
諦めなさい。
「ラウレンホルト様も良い婿をとったものですな」
「そうじゃの。面白い婿殿じゃろう」
義父さん方の覚えもよろしく、良いことだ。
エッカルードも無事に妻を娶った。
少し大人になって、僕への当たりが弱くなってくれるといい。
……さすがに、やりすぎ?
さらに恨まれたか?
「いやー! 私もお嫁にいく!」
「僕も一緒に連れてって!」
双子。
昨夜の件のため、たしか部屋に閉じ込められていたはず。
どうやって抜け出たのか、エッカルードに突撃する。
弱っているエッカルードを押し倒し……アウロがキスを……
「あなたたち、空気を読みなさい! ここは私へのプロポーズの場面なのよ!」
オーヴェさんがそれを阻止。
エッカルードから引きはがす。
「ちょ、アンセルやめ……む……」
……が、その隙にアンセルがキス。
やられたい放題だな、エッカルード……
「なんでよ! 私とエッカルードがキスの場面でしょう!」
「あー、アンセル抜け駆け! 私も!」
混沌としてきたな……
龍王さんとグンヴォルさんも笑っているから良いのだろう。
イェスタさんとシーラさんは慌てているようだけど。
「エッカルードが幸せそうで良かったですわ」
ティーレの感想。
そうか、彼は幸せなのか。
ならいいや。
どうやら、これでいいらしいです。
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