第193話 妻の両親が仲良しなのは良いことです

女王の住まいは里の中央にあった。

巨大な木の複数をまたぐ形で大きな屋敷が建てられている。

どうやってこの屋敷に上るかというと……

浮遊の魔法だ。

この魔法は体をゆっくりと上昇するだけのようだ。


「風の精霊に力を貸してもらって、体を上昇するだけだ。私はこの里の中でないと使えない」


それでレティは外で使っていなかったのか。

便利な魔法だね。

ラナだけじゃだめで、もっと精霊の力が必要だということだろうか?

少しいじれば里の外でも使えるかもしれない。


「ルーカス殿。ただ上昇するだけの魔法だ。飛ぶわけじゃない」


僕が興味を持ったのが分かったのだろう。

だけどね。

僕は魔法関連が意外に強いんだよ。

そこは夫に任せて欲しい。

飛行の魔法とは、これまたロマンじゃないか。


師匠は女王に抱えられ、僕はレティーシャさんに抱えられ上昇する。

しっかりと風の精霊の力を感じる。

精霊師の僕からするとちょっとくすぐったい感じがする。


『精霊たちがはしゃいでいるんですわ。まったくはしたない。私の契約者に馴れ馴れしくしないで欲しいですわ』


メーリーアが不機嫌だ。


『しょうがないわよ。風の精霊は無邪気なの。水の陰険とは違う』


『エイリアナも単純ですものね』


『メーリーアは見た目通りの陰湿だからな。見た目がふわふわしている分、ハーマリーのがマシかしら』


精霊たちのいつものやり取りを聞きながら女王の家へ。

彼女たちがいるから、どこでもいつものような感じがするね。

心強い。

感謝だね。



セラフィーマリナさんという若いエルフが出迎えてくれた。

侍女の役割みたいだ。

彼女がお茶を出してくれる。


部屋の中、家具類は木でできている。

村の木とは別の物。

手触りが違う。

たぶん、このエルフの里に生えている木。

里の外はこの木は生えてなかったから、特殊な木なのかもしれない。

柔らかく、温かい感じを受ける。

僕は結構好きかも。


お義母さんとレティは着替えてきた。

なるほど女王は着替えていたので、老エルフとのやり取りのとき、到着が遅れたんだね。

久しぶりの旦那様だものね。

そりゃあ、綺麗な服がいいだろう。

今は、動きやすい部屋着って感じだ。

レティも着心地の良さそうなワンピースに着替えている。

シンプルだけど、上質そう。

なんとなく王女様って感じ。


で、ゆっくりと話の時間。


「まったく、アナタは……。やっと私の所に来てくれたのですね」


「いや……。あの頭ガッチガチがおるからの。そうやすやすと帰ってこれんわ」


「申し訳ありません。私があのとき、あれを抑えられれば……」


「過ぎたことを言ってもしょうないじゃろう。儂はこの里では気が詰まる。どちらにせよ、いずれこの里を飛び出したことじゃろう」


「私が女王でなければ、一緒に行けたのですが……」


「リアーナは自分の役割をまっとうするのが良いじゃろう。あの老エルフの言っていることもあながち間違いでもないところが、痛いのお……。人間の世界は争いばかりじゃ。心優しい、お前が傷つくのも見とうないわ」


師匠は義母さんの手をとる。


「あなた……」


義母さんは潤んだ目で師匠を見つめる。

……師匠のロマンスをみるのもなあ。

複雑な気分。

離れていても仲が良いことはいいんだけど、あの師匠だからなあ……



「母様、父様。その程度で……。こちらの本題に入らせてください」


レティが痺れを切らし、話を切り出す。


「ああ。そうでした。お客様を待たせてしまって」


お義母さんが少し頬を染める。

……エルフって罪だよね。

人間から見たら、彼女はまだまだ年若い女性に見える。

そして、さすが女王。

美人なんだよね。


レティが敏感に察知し、表情をそのままに僕の腿をこっそりとつねる。

なので、僕も表情を変えずに、彼女の手をそっと握る。


「ルーカス様でしたね。よくこんな娘を貰ってくださいました」


「いえ、よく出来た娘さんです。僕にはもったいないくらいです」


ま、これはお決まりのやり取り。

お義母さんも娘のことを悪く思っていないだろうし、僕の方だって好きだから結婚するんだ。

わかり切ったこと。


「秋に結婚式を挙げるのです。村の共同ですが。お義母さんに出席していただきたいです」


「しかし、私は長い時間ここを開けられません……」


「転移の魔法があります」


「まあ、ルーカス様は転移の魔法まで。精霊使いではないのですか」


「この男はだいぶ規格外じゃからの。常識が裸足で逃げ出すような奴じゃよ」


最近、師匠からの評価が酷いことになっている。

僕は普通の農家を目指しているんだけどねえ。


「それでも、ここから転移は行えないはずですが」


「いえ。この結界は精霊の力によるものだと思ういます。それなら、精霊に頼めば問題ないでしょう」


「そうなのですが……。結界は闇の精霊にお願いしているもの。そう簡単にお願いすることは……」


『ということですが、アルベルタ』


『問題ないわ』


『ありがとう』


「問題ないみたいですよ」


「まさか……。闇の精霊まで……」


「あー、少し仲が良いのですよ」


やっぱり闇は特別な属性なのか……

エルフでも闇の精霊と話せる人は少ない?

女王様でこれだからねえ……


「それならば、お願いしたいですわ」


「ありがとうございます。お義母さん」


これでとりあえず、今回の任務は完了。

あとは観光をしてゆっくりと帰ろう。


「まあ、一人娘じゃからのお。結婚式くらいは出といた方が良いじゃろう」


「転移が使えるということは、貴方に会いに行くこともできるということですわね」


「う……。それは……。リアーナは王女としての仕事も忙しかろう。無理に来んでも良いぞ」


「貴方も、レティーも出て行ってしまって、私は少し寂しいですわ」


「……それは……」


「さすがに母様……」


師匠とレティーシャさんは反対?

いや、苦手なだけ?


エルフの女王が頻繁に外出ね。

危険じゃないか?

ないか……

村だし、平和だし。


「今回は自分が迎えに行きますが。専用の魔道具を作っておきますね。転移先は師匠の家ですね」


「ちょっと待つんじゃ、ルーカス! さすがに王女が簡単に動くのはマズかろう!」


「あなた」


ビクリと師匠が体を震わす。


「私が行くと、なにか不都合がありますか?」


女王の視線が冷たい。


「ま、大したことはないと思いますよ。女性の尻を追いかけられないくらいでしょうね」


「あなた……。その歳になってまで……」


「リアーナも、儂が若い方が嬉しいじゃろう?」


いやあ、その言い訳はちょっと細いなあ……


「それとこれとは話が違います。……少しお話をする必要があるようですね」


「……いや、儂は……」


いい流れです。

あとはお義母さんに任せましょう。


「さて、レティ。部屋を案内してもらえる?」


「はい。ルーカス殿。少し恥ずかしいですが、私の部屋に行きましょう」


師匠のすがるような視線を振り切り、奥へと移動する。

ま、頑張ってください。

これで、師匠の女好きが少し収まればいいな。

たぶん無理なんだろうね。



夜。

レティーシャさんの部屋に泊まる。

さすがに王女様。

部屋は広く、ベッドも大きい。

二人が寝れる大きさだ。


僕は一度村に帰り、グレースを寝かせてきた。

まだ、睡眠の魔法が必要な状態だからね。

怖い夢を見ることは少なくなったらしいが、まだ、たまにあるようだ。

酒井なんて小物、すぐに忘れた方が良いのだけれど、難しいね。


「グレースさんはまだかかるの?」


「うん。心の問題だからね」


前世の記憶。

心の病気ではないが、精神病の場合、投薬が必要なものがあったと思う。

こちらでは光の回復魔法がある。

おそらく脳の過剰反応とか、それは何とか治ると思うのだけれど。

やはり魂だろうか?

そこに刻まれた傷というのは光の回復魔法でも治せない、ということなのだろうか。


レティは僕と反対の方へ寝返りを打つ。


「不適切な発言だと思う。だけど、少しグレースさんが羨ましくもある」


「ん?」


「ルーカス殿に毎日気にかけてもらえる。ルーカス殿の頭の中の何割かに常にグレース殿がいる」


なるほど少し寂しい思いをさせているか……

グレースの状況を彼女も知っているが、きっと理性で分かっていることと、感情は違う。

理性で押さえつけた感情はいつか溢れる。


情けない。

妻たちに平等に接するとか言っておいて、彼女たちの優しさの上で甘えていたんだ。

みんな素敵な女性だから、グレースのことを我慢しているのだろう。


さて、反省はするとして、どうしたものか……

グレースさんへの態度を変えるつもりもない。

今はダメ。

回復するまではゆっくりと。

それなら妻に優しくするしかないじゃないか……

誠実に愛を態度で表す、か。

他の女性に優しくしているのだけでダメなのだろうか?

他の女性にきつく当たるよりは良い気がするが、それも程度の問題か。

さて、僕はグレースさんが回復したとしてどうするつもりなのだろうか?

彼女は僕に依存しつつある。

しかし、それは愛なのだろうか?

良いことなのか、悪いことなのか……


うん、分からない。

なら、僕がしたいようにするしかないか。

彼女を回復させる。

そして、その時に考えよう。

ま、逃げているともいえる。


レティを後ろから抱きしめる。


「ごめんね。レティ。僕は君が大切だよ。愛しているよ」


「それは、分かっていんだ。……だけど、なんか嫌だ。モヤモヤする。ダメな妻だ」


「それはないな。レティが悪いんじゃないよ。僕が悪い。君は素敵な人だ」


「……私を愛しているの?」


「もちろん」


「それなら強く抱きしめて。もっと強く。痣になるくらいに……」


いやあ、さすがに痣はちょっと。

ま、それは比喩ってことで。

強く抱きしめる。

どこにも行けないように。

レティは僕のだと、世界に宣言するように。


エルフにしては筋肉質の体。

しかし、女性らしさを失っていない体。

すべらかな髪の毛に鼻をうずめる。

甘い香りに少し頭が痺れる。

僕はレティーシャを愛している。

そう、強く感じる。


やっぱり言葉だけじゃダメで、態度だけでもダメなんだよね。

言葉だけじゃ伝わらないし、態度だけじゃ分からない。

両方が必要か。


……そのまま二人眠りについた。


幸せってどうなんだろうか。

細い一本道でちょっとした間違いですぐに転がり落ちる?

さすがに、そんなに脆いものでもないと思っている。

だけど、だからって、気を抜いたら、手の平からするりと落ちていくように思う。

大切に、優しく手の平で包んで無くさないように……


レティーシャ……

そうだね、彼女は真面目だからね。

もっと甘えてくれるといいなと思う。

甘えてもらえるくらいに、僕が頼りになるのが一番なんだけどね。

頑張っていこうと思う。

それはいつも思っている。

結果は……

ま、ボチボチな期待でお願いします。

気合を入れすぎて、気を張っているのもさ。

それも幸せとは違うと思うんだよね。


女性からしたらダメダメな決意だと思う。

それは分かっているんだけどね。

だけど、そんな僕を許して笑って、愛してくれたらいいな……

結局、都合の良い僕の願い。

そんな感じで、頑張っていこうかな。

ん、色々と矛盾しているな……

ま、しょせん僕だ。

こんなものでしょう。

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