第187話 花咲く森の道、ヤツと出会う

「水野君、大久保さんに告白したんだって」


「え、もうですか?」


夕食の時間、フィオナさんからの爆弾発言だ!

水野君はフィオナさんのポーション作りとか手伝い始めている。

その関係で情報が早い……

いや、きっと、フィオナさんが聞き出したんだろう……

もしかしたら、彼の背中を押したかもしれないな……


「あの顔でな……」


「ダメよ、ネルちゃん。顔で決めちゃ。優しそうじゃない」


「愛があればいいんじゃない。そういえばミウさん、浮かれていたわね……」


「あ、この『すき焼き』というは美味しいですね。卵につけるというのが、また良いです」


「そっかー、ティーレさんは他所のお家のことは興味ないのね。あ、でも確かに、この濃い味が卵でまろやかに……。ご飯が進む!」


「私は良いと思う。男女が一つ屋根の下で暮らすのなら、結婚していた方が健全だろう」


「私は結婚という制度が良く分かりませんが、マスターが沢山の妻を得て、幸せそうですので、彼等が結婚するのは良いことだと判断します。水野様、奥様が沢山増えるといいですね。ティーレ様、そのお肉はまだ火が通っていません」


ネル、エレノアさん、リネット、ティーレ、ミラベルさん、レティ、レアの感想だ。

レアの結婚の認識が間違っているような気がする……

僕のところを参考にしてはいけないと思う。


ちなみにミラベルさんはまだ家にいる。

姉さんが熱心に魔獣を狩っているからだ。

食料確保らしい。

この森の肉が忘れられないとのこと。


「……で、大久保さんの返事はどうなんです?」


「うん。結婚するって!」


「良かったじゃないですか」


エレノアさんたちも盛り上がる。

ティーレはすき焼きの方が良いみたい。


「ティーレ、最後にうどんを入れても美味しいんだよ。卵を上から溶いてね」


「それは……。天才ですね! 是非やりましょう!」


「ルー君……。真面目に聞いてる?」


「はい! 大丈夫です!」


いけない、フィオナさんに怒られてしまった。


「……でね、指輪を買わなきゃでしょ」


「この村の結婚式で良いんですか?」


「うん。秋ので良いって」


彼らは召喚者なので、こっちの合同な結婚式はどうかと思ったが、郷に入っては、か。

村に馴染もうとしているのだろう。

良いことだと思うよ。

自分の殻に閉じこもっているよりずっと良い。


「で、水野君、戦闘力ないじゃない。ルー君一緒に行ってくれる?」


「あ、狩りですね。いいですよ」


そっか、そろそろ準備しないといけない季節か。

僕も、レティとアイリスの指輪を準備しないとね。


「レティはどんな指輪が良い?」


「あ……。どのような物でも。指輪を貰えるなら……」


レティは、結婚とか、そのあたりについては従順なんだよね。

戦闘に関しては、意見が強いのに。

もう少し主張しても良いと思う。


「あれ? 私たちのときは聞かれなかったと思うけど」


「いや、リネット……、それは驚かせようと思って……」


「指輪を買いに行っているのは周知だったはずよ」


いつの間にか僕が責められるターン?

ここは話題を逸らそう……


「……そういえば、ジェフリー義兄さんはどうなの?」


「……ま、いいわ。兄さんは『やっと』今年、ケイティさんと結婚するわ」


「そっか。じゃ、一緒に狩りに行こうかな」


ありがとう、義兄さん。

結婚してくれて。

上手く話しが逸らせました。

ま、紆余曲折あった二人だから、それからの結婚だから、きっと上手く行くだろう。

困難を越えていけると思う。

ちょっと、オーレリアさんが邪魔?

いや、あの子も大変なので、幸せにしてあげてください。


「ルーカス様! おうどんは、いつ!」


あ、そうだね。

おつゆが煮詰まっちゃう!

しめに移行しましょう!


リネットがため息をついているけど、気にしない。

料理はタイミングが重要だ。

そして美味しい料理は幸せのもとなのです。



さて、森の中です。


「なんで、兎がこんなに大きいんですか!」


水野君が楽しそうだ。

ぽっちゃりな体をできるだけ小さくして、僕の後ろに隠れている。


「これが森だよ、水野君。そして、美味しい方々です。昨日も食べてたでしょ」


「ミズノさん。まだ兎だぜ。こんなんじゃ、指輪は買えないぞ」


ジェフリー義兄さんも一緒に森に入っている。

義兄さんも仕事が忙しく、森で狩りをしていない。

ケイティさんも、僕が一緒なら安心とのこと。

うん、ケイティさんが、僕の義姉さんか……

なんか感慨深いなあ……


義兄さんが剣で兎を狩った。

ま、村でも上位の実力。

ただ実戦が少ないので、そこが不安。

先の戦いでも指揮がメインだったしね。


「ルーカス。猪とか熊は?」


「あれ、義兄さん、熊を狩りますか」


「俺一人でやらんぞ。ルーカスも手伝えよ」


「ま、いいですけど。貸しですからね」


「お前……。なんか俺には厳しくないか?」


「だって、未来の村長ですからね。しっかり鍛えないと。お義母さんからも言われてますし」


「お前、うちの母さんと仲良いよな……」


うん。

僕には優しいよ。

たまにうちに来て、息子の愚痴を娘にして帰っていくよね。

義兄さんには内緒だよ。

ま、実の息子の距離感ってところだろうね。


「えっと……。熊って何でしょうか……?」


「ああ。熊だよ。知ってるでしょ、森の熊さん」


「……大きいんですか?」


「そうだね。最低3メートルほど。たまに風の魔法を使ってくるね」


「魔法……」


「そうそう。水野君だと真っ二つだから、気を付けてね」


彼は身体強化ができないからね。

一発でももらえばアウト。

僕の回復魔法が間に合うかどうかになるかな。


「ちょっと、森は無理かも……」


「ミズノさんは回復魔法使いだっけ?」


「はい。水魔法使いなんですが、回復魔法しか使えないんです」


水野君の反応が鈍くなっているので、代わりに僕が答える。


「でも、すごいんですよ。回復に特化しているから、効果がすごいんです! いやあ、良い人が村に来てくれました」


「お、ルーカスが褒めるなんて相当だな。ミズノさん、これからもよろしく頼むよ」


「はい! 『村の中』で、お仕事頑張ります」


やけに「村の中」を強調するね……

そんなに森が怖いかな。

ま、怖いよね。

身体強化も出来ず、戦闘力が無いから。

あれ?

魔王を倒したメンバじゃ……


「水野君、魔王倒していなかった?」


「ああ、あれは……。僕は見ていただけだし。それにスライムだったし……」


「ん? スライムの魔王?」


それって……


「あ、違う感じです。少し大きめ、2メートルくらいのスライムで、こっちが攻撃すると無限に増えるんです」


無限増殖スライムか……

それも面倒。


「スライムか。見たことねえな。倒すのは体の中の魔石を壊すんだっけ?」


「はい。動きも遅いし、弱いんです。僕でも魔石を壊して倒せます」


「魔石を壊すってことは、倒してメリットは無いんじゃないかな?」


「そうなんです。ただ倒すだけです。体も溶けて地面に染み込みます。何も残りません」


実入りが少ない魔物……

上手く確保して、食べたら?

水まんじゅうみたいにならないかなあ……

甘味はつけないとダメかも。


「それが大量に増えてしまって……。何でも溶かして食べてしまうんです。農作物も、家畜も、石垣も、家もみんな。とても経済的に打撃を与える魔王だったんですよ……」


それは大迷惑。

国の存亡の危機じゃ?


「聖騎士団とかで倒せそうですが」


「……それよりも増殖の方が早いんですよ。増えすぎて手が負えない状態でした」


「どうやって倒したんです?」


「大谷君です。大谷陽翔君です。光属性の攻撃魔法使いです。神国の聖女がバフをかけて、あと小西君が攻撃力強化の能力なので、強化した光攻撃魔法で殲滅していきました」


スライムの増殖よりも高い攻撃で殲滅ね。

しかし……


「えっと……。それだと酒井とか活躍してないんじゃ……」


「そうですね。まあ、あんまりは……」


うーん……

あんなに威張っていたのに、魔王戦ではそれほど活躍していないのか……

なんだかなあ……


「神国も、欲しいのは大谷君だけで、僕たちはどうでもいいという感じで。それで酒井君はヘソを曲げて国を出たってところもあると思います」


「まだ何人か残っているんでしょう」


「はい。でも、大谷君以外は残っても幸せなのだかどうだか……」


「ふーん……。攻撃系じゃない人もいる?」


「はい。戦闘力が低い人もチラホラと……。冒険者にもなれないって、神国に残っています」


なるほどねえ……

戦闘力が低い召喚者か。

気になるね。

レア能力持ちかもしれない。

是非とも、村に移住して欲しいと思う。

勧誘しに行く?

しかし、なんか神国って肌に合わないんだよね。

食わず嫌いがね。

あ、水野君と大久保さんに勧誘の手紙を書いてもらうとか。

そういえば、酒井の最後は、彼らに伝わっているのだろうか?

それを聞いたときに彼らはどのように思うだろうか。

自業自得だと思うのか、仲間を殺されたと憤るのか。

後者だと勧誘が難しいかもなあ……



さて、熊だ。

出会うのはお約束。

今まで見た中で一番大きな熊さん。

5メートル越え。

体の毛は銀色に輝く。

左目に傷。

歴戦の戦士感が出ている。

お世辞にも、童話の森の熊さんじゃないよね。

お嬢さん、泣いて逃げ出すよ。

イヤリングより命だ。

絶対に歌わない。


「水野君、お待ちかねの熊さんですよ」


「待っていませんって! デカすぎです! 無理です、死にます! 森は無理です!」


「ちょっとこれは……。すげえのが出たな。これで指輪の代金くらいはいきそうだ!」


森に水野君の絶叫が響き渡る。

義兄さんは満足そう。


うーん、水野君。

あんまり叫ぶと魔獣を呼び寄せるよ。

今回は指輪の代金稼ぎだから、その方が良いんだけど。

水野君が怖がって、村を出ていかないことを祈る。


グウオォォー


熊が鳴き声を上げる。

しっかりとした身体強化だ。

迫力が違う。

さすが森の熊さん。

では、熊狩り開始だ!

ほら、水野君、ボケッとしてたら死んじゃうよ。


まあ、これが僕らの暮らし。

村の日常です。

ようこそ村へ。

歓迎するよ、水野君!

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