第182話 いい人材を確保できたようです

村外れの小さな家。

少し前までは空き家だったところだ。

元の家族は家族が増えたため、新しい家を建て、引っ越していった。

まだ、使える家だ。

ま、二人で住むくらいなら十分だろう。

子供ができたとしても、一人くらいなら問題ないと思う。

それは少し早い話しでしょうかね。


「今日は。調子はどうですか?」


ちょっと二人の様子を見に来た。

まだ、それほど真面目に話し合っていないので。

ちょっと話も聞けたらいい。


「あ、今日は。ルーカスさん」


出迎えてくれたのは水野恵一君だ。

ちょっとポッチャリな、目のつぶらな瞳の男性。

素直で良い人そうだ。


「水野君、来客? 誰……。ヒッ!」


と、僕を見て怯えているのが大久保海羽さん。

黒髪、眼鏡女子。

真面目で優等生タイプかな。

……なんで僕はこれほど怖がられているのだろうか?

何も彼女に悪い事していないと思うのだけど……


そう、彼らはあのときの召喚者だ。

城を攻めたときに助けていたんだよね。



あの時の話……

城に突入と同時に探知系の魔法を使った。

僕とティーレを除いて、この上には反応が五つ。

上層の階に三人の反応。

二人の反応が塔の最上階に向かっていた。

他の三人のうち、一つはステータスが高そうな雰囲気。

これが酒井だろう。

魔法使い系の反応が二つ。

塔に向かっているのと、酒井と同階にいる者。

残り二つは戦闘力を持たない。

だから、塔の最上階に向かっている者は少なくても一人は召喚者だ。

何のために塔の最上階に?

さて、どうしたものか……

例えば空を飛べる能力を持っていて、逃げ出せるとか。

ラウニャさんからは、そのような情報は無かったが……


『塔の彼女たち、気にした方が良いわね』


『アルベルタ。召喚者かな?』


『そう。それほど悪い子じゃなさそうね』


ふむ。

彼女がそういうなら、そうなのだろう。


『エイリアナ、ちょっと様子を見てもらって良いかな?』


『まったく、ルーカスは人使いが荒いんだから』


『エイリアナ。殺してはダメよ』


『なによ、アルベルタ。私が殺すわけないでしょうが!』


そんな感じで、エイリアナに塔に向かってもらった。

まあ、それがギリギリ間に合った感じだ。

二人は塔の最上階から飛び降りた。

自殺だ。

殺すなと言われたエイリアナが、地面に衝突寸前に二人を助けた。

自分が殺したと疑われるのが嫌で。

僕は疑わないけどね。

アルベルタに責められるのが嫌だったようだ。

二人はそのまま気絶していた。

酒井を倒し、二人を回収し、村に運んだ。


そして今ってことだ。


申し訳ないが、気絶中にこっそりとステータスを確認させてもらった。

アルベルタが大丈夫と言っているので問題がないが、念のためだ。


水野君の結果。

人間、男性

 称号:召喚者、上級魔法使い(水回復系)


大久保さんの結果。

人間、女性

 称号:召喚者、世界をしる目、下級魔法使い(土)


ホッとした。

称号に『神龍殺し』みたいなのがなかった。

あったらティーレ案件。

アルベルタが大丈夫と言っていたから問題はないと思っていたけど。


今回ステータスが見えたのは、恐らく彼らが命を絶つことを決めていたからだろう。

もう、死んだと思い込んでいたため、魔法抵抗がなくて確認できた。

さて、死を覚悟した人を助けてよかったのか?

あの状態だと、僕たちに攻められて死ぬしかなかったのかな。

それなら、生き残れるなら、死ぬことを選ばなかったかもしれない。

他の理由で自殺したいのなら問題だ。

助けて、また自殺されるのも気が重い。


気になるのが大久保さんの『世界をしる目』だ。

これは情報系の称号だろうか?

おそらくとても貴重な称号だろう。

彼女がいたから王子・王女の位置を把握することができ、暗殺ができたのかもしれない。

そう考えると、彼女には間接的にだが、とても重い罪があるのかもしれない。

……まあ、彼女たちの話を聞いてからかな。


ステータスを確認したのは内緒だ。



「食事を持ってきました」


彼らは料理ができないらしいので、エレノアさんが作ってくれたのを僕がマジックバッグで運んできた。

テーブルに広げる。

パンに、スープ、サラダにステーキだ。

まあ、ここの一般的な料理です。


「お腹減っているでしょう。食べてください」


ハーブティも取り出してカップに注ぐ。

ああ、いい香りだ。

ちょっとバラの花が入っているかな。


「ねえ、おいしいよ。海羽さん」


水野君は早いな……

もう食べて始めている。

とても嬉しそう。

ステーキを食べて、パンをちぎり口の中へ入れる。


「ほら、柔らかいパンだよ! すごく美味しいよ!」


食べるのが好きそうだね。

彼とは仲良くなれそうだ。


「恵一……。ま、しょうがないわね」


彼女はスプーンでスープを掬い、口に運ぶ。


「あ、美味しい……。野菜の味がする」


野菜のスープなのだから、野菜の味がするのが普通だと思うけど。


「家で採れた野菜だからね、美味しいよ」


野菜を褒められることは単純に嬉しい。

美味しい野菜は料理の基本だ。

野菜が美味しくなければ料理も美味しくないし、健康な体も作れないよね。


「……家庭菜園?」


「違うよ、僕の畑。僕は農家だからね」


「農家? その戦闘力で?」


「あー、なんでみんな僕を農家って認めてくれないんだろう。こんなに農業を頑張っているのに」


「……だって、強すぎでしょ」


戦闘力と農業って両立すると思うけど。


「え、ルーカスさんって、あの城を攻めてきた人なんですか?」


「水野君、当たり。よく分かったね。なかなか面倒な事件だったよね、今回のは。もう今回のようなことはやらないでね」


「……すみません。僕もこんなことになるとは思わなくて」


「悪いのは、恵一じゃないわ! みんな酒井が悪いのよ!」


大久保さんが立ちあがり、水野君を庇う。


「だけどさ。酒井を止められなかった君たちにも責任はあるんじゃない。そばにいたんだから」


「……くっ……。力が……力が、なかったのよ」


彼女は力なく椅子に座った。

まあね、そういうことだと思うけど。

彼女たちにはどうしようもなかったのだろう。

しかし、外から見ているだけだと、彼女たちも同罪にみえるんだよね。

被害者からみたら、止められなかっただけで同罪。

そして、きっと彼女たちもそれを感じている。

今後、常に付きまとってくるんだ、その罪の意識が。

それを背負って生きていく。

大変だと思うよ。


「あなたは、私たちを殺さないの?」


「あー、そうだね。殺さないよ。酒井は倒したし、それで終わりで良いじゃない」


「そう……。やっぱり酒井は死んだのね」


「ふーん、酒井って、君たちのリーダーで最強だったんでしょ。すんなり死を受け入れるね」


「あの男は力が強かっただけよ! 力で支配しても、更に強い力で倒されるだけ。それだけよ」


やっぱり彼女は酒井が嫌いだったんだね。


「なんで酒井なんかにくっついてきたのかな?」


「……っ……それは……。あのころはアイツまだマシだったのよ。バダンシュヴァール神国は私たちをいいように使うだけだったし。元の世界に戻れるって言っていたけど、嘘だってわかったし……」


神国は、ラノベ勇者召喚物にある、ダメな方の召喚する側だったってことね。

まあ、召喚された人たちって、帰れないのがお約束。

それはしょうがない。

酒井も神国で勇者していた頃は、まだ良かったってことか。

権力を持って、おかしくなった……

もしくはそれ以前は猫を被っていたか……


「で、まだ死にたい?」


「……っ……。それは……」


「僕は生きていたい。海羽さんと一緒に、生きていきたい」


水野君はそっと手を大久保さんの手に重ねる。


「恵一……」


なんか見つめ合って、ラブラブな感じ……

本人たちだけの世界に入りつつある。

これって外から見てると辛いね。

ということで、話を続ける。


「ま、いいんじゃない。生きていれば良いことあるかもよ。で、どうするの? 村を出て冒険者とかになる? それとも村人になる?」


「……冒険者は無理よ。私は戦えない。恵一は回復役として活躍できるかもしれないけど」


「そうだね。大久保さんは村からでて森に入ったところで、魔獣に殺されるレベルかもね」


「っ……」


大久保さんが俯く。

うん。

実は僕が村に欲しいのは水野君の方ではなくて、大久保さんだったりするのだけど、それは秘密。

おそらく希少な能力を持っているはず。


「なら村で暮らせばいいよ。この村は豊かだからね。食事も美味しいし。森に入らなければ安全だよ」


「えっと……。その森というのはどんなところなんです?」


「良い質問だね、水野君。人間の数倍もある猪とか、熊とか、体長10メートル級のトカゲがうろついている、豊かな森だよ」


「そ、それは、魔物よりも脅威なのでは?」


「そうだね。その辺の魔物よりも狂暴だよ。水野君も一人で森に入ったら死ぬね」


「この村は大丈夫なんですか?」


「ああ、みんな強いから……」


その時、来客があった。


「おう、ルー坊。新入りさんが来たんだってな」


果樹園のトーマスおじさんだ。

今も僕のことを「ルー坊」と呼ぶんだよね。

もう大人だよ。

勘弁してよ。


「こちらの方だよ。水野さんと大久保さん」


「おう。そうか、そうか。元気そうじゃないか。桃、持ってきたら食ってくれよ」


トーマスおじさんは4個、桃を置いていった。

桃の甘い香りが部屋に漂う。

持つと少し柔らかくなっている。

食べごろじゃないか。


あ、そう言えば彼らは料理ができないんだっけ?

ちょこちょこっと桃を一つ剥いて、皿に盛る。


「……手慣れたものね」


「まあね。刃物は結構使うからね」


魔獣の解体とかね。


「君たちも、どっちでもいいから、料理できるようになった方がいいよ。あ、お金さえあれば醤油とかもそろえられるよ」


「私……仕事したことない……」


まあ、生きるためには働かなければならない。

この村が豊かだとしても、何もしないで生きていけるわけじゃない。

彼女たちは、召喚者として国で養ってもらっていたところもある。

この世界で何ができるのだろうってことだろう。

不安はあるだろう。

だけど、この村は豊かだから仕事もあるんだ。


「大久保さんね。うちの妻が書類整理とかできる人が欲しいって言ってたよ」


リネットが大変らしい。

ジェフリーがそっち苦手なんだよね。

リネットの苦情が酷い……

妻の機嫌って、夫の死活問題だったりする。


「それなら、慣れたら……」


で、情報系の能力だとして、村長のサポートというのは良いのではないだろうか。

なんかいい相乗効果がありそう。


「で、水野君は治療系だよね。ポーションとかも作れるようになったらいいよ。妻が助手を探していたんだ」


こちらはフィオナさん。


「僕は錬金術はやったことありません」


「ま、勉強じゃない。大丈夫、頑張ればできるようになるよ」


「それにしても、ルーカスさんの奥さんは多才ですね。色々やっているんですね」


ん、多才?

村長のサポートと、ポーション作成は別の妻なんだけどね。

妻が一人じゃないって言ってないか。

ま、いいや。

混乱させるから、言わないでいいだろう。

そして、彼らの純愛を見ると、うちのハーレムって、どうよって思っちゃう。

まあ、幸せだからいいんだけどね。


「あ、あと、この村には『女性の日』というのがあるんだけど」


「何ですか、それ?」


「街から娼婦さんを呼んで、年頃の男性が女性の勉強をする日」


「不潔!」


おっと、大久保さんの反応が凄い。

でも必要なことなんだよ。

それをしないと、村の人口が大変なことになる。

男性だけじゃなくて、女性側だってちょっと恥ずかしことになるかもしれない。


「でだ、彼女たちに回復・解毒魔法をかける役割もできるよ。水野君はできるよね」


「はい。ですが……」


「可愛い女性たちだよ。男性として役得!」


「ダメー!」


おっと、大久保さんの反応がさらに凄い。


「ちゃんとしたお仕事だよ。女性の健康のために必要。とても重要なことだよ」


「それでも、ダメ!」


うーん。

僕もそろそろ、その仕事を卒業したい。

良い替わりができたのではと、ちょっと思っていたんだけどね。

……大久保さんの反応と、水野君の怯えた表情を見るに、さすがに可愛そうになってきた。

僕も鬼じゃないからね。

ま、一度僕のお手伝いに入ってもらって、気に入ってもらったら、続けてもらうでいいかな。


「それは一旦置いておいて。ま、色々仕事はあるよ。生きていける。ゆっくりとするといい。のどかな田舎だ。さっきのトーマスおじさんみたいにみんな優しいからね。きっとこの村を気に入ると思う」


「はい。よろしくお願いします」


「……やってみるわ」


気負わないで良い。

ゆっくりとで良い。

きっと、丁寧に生きて行けば、幸せになれるだろう。

だって、一人じゃない。

二人なんだから。

僕もいる。

助けた手前、できるだけ面倒を見るよ。

一緒に頑張りましょう。



「そういえば……。何で私たち助かってるの……?」


「あ、どうやっても……」


二人、顔を見合わせている。


「うん? 僕が魔法で助けたって言ったよね」


「そう……。なんだけど……」


「……未来は確定じゃないってことかもしれないよ、海羽さん! ルーカスさん、ありがとうございました」


水野君には感謝されたけど、大久保さんは納得していない表情だった。

何に引っかかっているか知らないけど、ま、いいさ。

大久保さんもいずれ落ち着くでしょう。

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