第180話 これは全部エルリックがやりました
さて、ティーレが酒井を倒すのは良いのだけれど、僕たちが目立つのはいけない。
酒井を倒したのはアンディ王子の軍、もしくは英雄エルリックでないとダメ。
僕たちはアンディ王子の遊撃隊ってところなんだけれど、酒井を倒せる力がある部隊がいるって大っぴらにしたくないよなあ。
僕たちが英雄に祭り上げられる可能性もあるしね。
ということで、エルリックだね。
彼に酒井撃破の功績をあげよう。
うん、きっと喜ばないだろうがな!
早速、エルリックあたりに転移だ。
フレデリカさんが魔道具を持っているので、彼女の所へ。
ティーレは残して、僕一人だ。
彼女には念のため、酒井の遺体を見てもらっている。
一応、重要だからね、酒井の遺体は。
「あ、先輩どうしたっすか?」
おう。
タイミングよく、エルリック。
転移したところはフレデリカさんのそば。
エルリックがいなかったら探しに行かないとと思っていた。
「これはルーカス殿! 転移魔法ですか。便利なものですな」
ドレイク伯爵もいた。
うん、この人も無事で良かった。
これからのこの国に必要な人物だ。
そして上機嫌だ。
おそらく戦況は良いのだろう。
「ドレイク伯爵。調子良さそうですね」
「はっはっは。戦いはもう終わりですぞ。エルリック殿がワイアット侯爵のヤツを打ち取りましたからなあ!」
「それはそれは。エルリックもお手柄じゃないか」
「あー、俺は酒井側に行かなかったっすから、ここで手柄をあげとかなきゃでしょ? それはそうと、酒井はどうなったっすか?」
「ああ、こっちも終わったよ」
「ほほう! ルーカス殿! サカイを倒したましたか! これはこれは、儂が手を下したかったところですが、倒すなら早い方が良いですな!」
「そうですね。ということで、エルリックには酒井を倒したという名誉を与えようと思うのだよ」
「……面倒くさくなってるっすね、先輩。俺に丸投げっすか?」
「そういうことさ。いいだろ? この戦、一番の手柄だ。有難く受けとっておけよ」
「ルーカス殿は欲がないのですな? サカイ討伐なら英雄として後世に名を残す功績ですぞ!」
「伯爵。先輩はそういうのが嫌いなんですよ」
エルリックが溜息をつく。
そうそう。
まさにだ。
後世に名を残したりしたくない。
「僕は農家ですからね。戦働きで手柄を立てる意味がないんですよ」
「農家ですかな……。我が伯爵家に仕えて欲しいくらいですが」
「無理ですよ、伯爵。貴族の家は、先輩には不足していますよ。そこに収まるような人じゃないです」
「はっはっはっ。そうですな。全くその通り! ルーカス殿は大きなお方ですからな!」
なんか、伯爵の評価が高いんだけど……
僕はただの農家。
期待とかそういうのは止めて欲しい。
問題事も持ってこないでね!
「じゃあ、行こうかエルリック。あ、フレデリカさんたちもお願いします。エルリックが酒井を倒した場に、パーティメンバがいないのもおかしな話ですから。まあ、あまり綺麗な現場じゃないですけど……」
「あーー……。そんな酷いっすか、酒井……」
「うん。頭が無いからね」
「そうっすか。俺も見たくないっすね」
「ま、お前は強制だからね。他の人は連れてくだけで見ないでいいじゃない?」
「私は! 私はこの国の王女として、サカイの最後を確認する義務があります!」
うーん。
フレデリカさんは真面目だね。
別にいいのに。
死体なんて確認しないでも。
エルリックに任せておけば。
あれかな?
父、母を殺した敵の最後を確認したいということか……
ま、色々な奴に恨まれてたからな、酒井。
「儂も行きたいところですが、ここの責任者がいなくなるわけにもいかんので。大変残念」
ドレイク伯爵は偉い人なのに面白いよね。
きっと、アンディ王子を支えて、国を立て直してくれるだろう。
再度、転移で城に戻る。
酒井を確認に行くのは、エルリックとフレデリカさん。
セリーナさん、ニナさんは不参加。
「ああ……。これがサカイですか……」
フレデリカさんが青い顔で呟く。
さすがに女性に見せる状況じゃないよね。
エルリックが彼女の肩を抱き、支える。
「これを俺がやったことにするっすか……。勘弁してくださいよ。もう少し綺麗に殺してくださいよ」
ティーレは涼しい顔をしている。
僕がやったんじゃなくて、ティーレがやったんだけどね。
僕も見ていたので同罪ではあるか。
「勇者なんだから、これくらいの腕力はあるだろう?」
「ねえっすよ! あったとしても、やらねえっすよ! なんで頭をトマトみたいに潰さなきゃいけないっすか?」
そりゃね……
敵大将だからね。
首をとって、晒してナンボってことだよね。
「んで……。なんで手足が無くて、しかも治療してあるっすか? 拷問すか? 拷問をしていたんすか?」
いやあ……
だって、コイツが治療してって五月蠅かったから。
そうか、知らない人がこれを見たら、拷問に見えるか……
うん、見えるね。
エルリックが拷問?
そりゃマズイや。
「じゃあさ。手足だけでもくっつけとく?」
「くっつくっすか?」
転がっている手足を持ってきて、光の回復魔法でくっつける。
「気持ち悪いっすね……。その回復魔法」
「え……。セリーナさんと同じ回復魔法だけど?」
「え……。神の奇跡っすか?」
「そう。光の回復魔法。お前もこれで怪我を治してもらってるんだろう?」
「……死んでても回復するんすね。これ……」
そういう魔法だよ、神の奇跡って。
うーん……
死んでても回復するって、人間を物質的に対処しているって見方もできる。
そうすると、魂とか関係ないっていうか……
神って言葉と相容れないというか……
ま、実態は光の回復魔法なのでそんなものかもしれないね。
とにかく酒井の遺体は綺麗になった。
「頭は……。生えないっすよね」
「さすがにそれはできないさ……」
多分できるとおもうけれど、気持ち悪いからやらない。
頭が生えてくるところを誰が見たいと思う?
それに、酒井の顔なんてないほうがいいよな。
もし、頭まで回復させたとして、そこに誰かの魂を入れたとしてら、動くのだろうか?
酒井の魂は『大いなる流れに』合流しているとして、彷徨っている魂があるだろう。
『そう簡単にいくものではないわ。脳や体に記憶があるでしょう。それと魂の記憶が相容れるかどうか。そのあたりをクリアする必要があるわね』
アルベルタが酒井を見下ろす。
『入れた魂が体を支配したとしたら?』
『まあ、それが妥当かしらね。体が持っている元々のその人らしさを押さえつける。その辺は<死霊魔術>の領域ね』
『へー……。<死霊魔術>あるんだ』
『<リッチ>とかの魔物もいるわね。彼女に教わってみたら』
リッチね。
どこかにその彼女とやらがいるらしい。
さすが闇の精霊。
死とかに関係するところは情報も持っているんだね。
だけど、僕はそのリッチとやらに会うことはないと思う。
必要ないからね。
と、話を戻す。
上の階の廊下にも一人、女性の遺体があった。
彼女は浄化の炎で焼いた。
おそらく彼女も召喚者だ。
鳥居レナと思われる。
誰に殺されたか分からないが、後ろから刺されていた。
まともな死に方じゃない。
恨まれていたのかな?
酒井の遺体があれば十分だから、彼女は浄化でいいだろう。
それと女性のものらしい部屋に少年の遺体。
幸せそうな顔だったね……
とても可愛らしい少年だった。
どのような状況で亡くなったのか?
彼も浄化の炎で焼いた。
「じゃあ、エルリックよろしく!」
「はあ……。これを持って下に行って、酒井を討ち取ったぞ! ってやるんすよね。誰がこれを酒井だって分かるんすかね?」
「いや。英雄エルリックが言い張れば、そして、それらしい死体があればいいんじゃない? 酒井は豪華な服を着てるしさ。みんな納得するさ。今後、酒井は現れないんだしね」
「力業っすよね。先輩。結構、考えが雑っすよ……」
失礼な!
ここまで結構頑張って来たんだぞ。
僕とエドガールさんが、どれだけ考えたか……
まあ、計画がザルだったことは認めよう。
しかし、誰かが計画を立てないといけない。
そして計画を立てるということは、とても難しいことなんだ。
見えないことも多い。
動きを予測できない見方もいるしなあ……
「あ、そうだ、忘れてた……」
「……まだ何かあるっすか?」
エルリックが嫌そうな顔をする。
「父さんたち……どうしているかな?」
「え……他の突入メンバーすか?」
何が問題かと、エイルリックが首を傾げている。
いや、大問題なんだよ。
彼ら、放っておくと全滅させるよ、兵士を。
もう戦争は終わりなんだから、ここからの死者は無駄死にだ。
早く止めないといけない。
父さんと師匠。
強くて信頼できるんだけど、扱いが難しい……
ホント、戦争とか向いていないよね。
レティーシャさんも苦労しているだろう。
後で優しくしよう。
あの二人を制御するなら、フィオナさんが一番いいんだけど。
彼女を前線に持ってくることはできない。
レティーシャさんなら師匠を多少は制御できるからね。
父さんには影響がないんだよな……
さて、まだまだ後始末が大変。
エルリックにもその辺をわかってほしいな。
今回の戦。
きっと、僕が一番大変だったと思うんだ。
なんで農家の僕がね?
不思議なことだ……
褒めてほしいとは思わないけどさ、少しはわかってほしいと思うんだよ。
このくらいの承認要求はあってもいいよね。
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