第107話 あの柔らかめのうどん!
店は比較的狭く、四人掛けのテーブルが6組。
壁にメニューの張り紙、水はセルフ。
なんか日本で見た定食屋みたいな。
客は最大二十四人。
そのすべてに人が入ることはないので、半分の十二人くらいか。
歴史がある割に細々やっているなあ。
先客は一組。
金髪のイケメン、金髪美女、青い髪の可愛らしい女の子。
この人たち、なかなか強いな……
特に強いのはイケメンだ。
勇者、剣士、聖女みたいな。
うーん、ありがちなパーティ構成。
魔法使い系がいないのが残念。
黒髪のセクシー魔法使いか、ロリエルフ魔法使いがいいかな。
彼らはうどんを食べている。
出汁と醤油の香りが店内に漂う。
ふむ、イケメン君のメニューは温かいうどん、サイドに海老天とコロッケか……
その組み合わせは若いな。
コロッケはしっかり出汁に浸すタイプね。
ぐずぐずに溶かして、うどんにからめる食べ方。
悪くない、好感が持てる。
しかし、そこに海老天はどうだろう?
海老天自体は旨い。
が、コロッケうどんに海老天はマイナスだ。
海老天のよさが死ぬだろう。
……そう、うどんか。
いいかもしれない。
「らっしゃい!」
「いらっしゃいませ!」
大将と女将さんの元気のいい声。
夫婦で店をやっているようだ。
先客と離れた席に座り、テーブルのメニュー表を見る。
「フィオナさんは何にします?」
「うーん、迷うわね。生姜焼き、カツ丼……」
「僕はうどんが食べたくなっています」
「あ、わかる! 他の人が食べてると、どうしてもね」
「温かいのと、天ぷらかな。かき揚げと竹輪……あ、きんぴらごぼうがある!」
「私は初めてですので、ルーカス様と同じもので」
「私はねー……私もうどんにしよう。わかめので、天ぷらは……茄子と蓮根」
とりあえず、注文を終え、セルフの水を用意。
お、お茶がある……
いい店だ!
お茶とか、麦茶とかあるとちょっとだけ嬉しくなるよね。
「でも、フィオナさん、本当にJKだったんですか? わかめうどんに茄子、蓮根って……」
「いいじゃない、わかめうどん、美味しいわよ。あとは、大根おろしのうどんとか、とろろうどんとか」
「否定はしないですが、JKらしさって何でしょう?」
「知らないわよ。一回おばあちゃんまで行ってるんだから、しょうがないじゃない」
「せめてそこにレモンを絞りませんか?」
「ええー、さっぱりと食べるより、出汁の味を楽しもうよ」
それがJKらしくないってことなんですけど……
金髪イケメンがじっとこちらを見ている。
今の会話、何かまずかったか?
立ち上がりこちらに来る……
「あの……失礼します。もしかして異世界人でしょうか……?」
あ、マズイ。
バレた……
「JKとおっしゃってませんでしたか?」
「JK」はダメか……
しかし、それを知っているということは……
この人も異世界だ!
いや、少なくとも異世界を知る人だ。
問題は敵対的か、そうでないか……
『大丈夫よ』
はい、アルベルタさんの合格がでました。
大丈夫らしい。
なんだかなあ……
「貴方もそうですよね……」
イケメンは嬉しそうに頷く。
「はい! 俺は転生者なんですよ!」
「前世で死んだんですか? 異世界トラックですか?」
「いえ、俺の場合は軽バンでした、荷物配送の……」
何だか聞いたことがあるような話だ……
転生なんてどこも同じか?
「ねえ……」
ちょいちょいと、フィオナさんが僕の脇をつつく。
「この子、後輩君じゃない?」
後輩?
前世の会社の後輩?
こんなイケメンに転生?
「え……佐谷だっけ?」
「惜しい! あと一文字! ってむしろワザとっすね。佐竹っすよ」
「おー! そうだ、佐竹惣次郎だ。名前が妙に古風なんだよな」
名前は古風で逆に覚えていた。
イケメン佐竹は嬉しそうに……
「先輩! 先輩っすか。やっぱり、こっちに来てたん……」
「はいよ! わかめうどんはどちら?」
女将さんがうどんを運んできた。
おー、いい匂い。
「あ、こっちの女性で……」
僕らのテーブルにうどん、天ぷらが並ぶ。
久しぶりのうどん!
旨そうだ!
「あ、ティーレはお箸、使えます?」
「ちょっと難しそうですね……フォークをお願いします」
ティーレにフォークを、フィオナさんに箸を渡す。
「ルー君、七味使う?」
「はい、あとで使います。まずはそのまま……」
フィオナさんは最初から七味をかけるみたい。
僕は途中で味変に使いたい。
フィオナさん、出汁を楽しみたいって言っていたのに、最初から七味はどうだろうか?
好みなので、指摘はしない。
「……って、俺との再会は?」
「佐竹、少し待っていてくれ。食事の後だ」
「俺との再会のほうが重要じゃないんすか!?」
「うどんは伸びるが、佐竹は伸びない。なら、優先度はうどんだろう。前に教えたよな。複数タスクがあったら、優先度の高いほうから片づけていくんだ」
「その優先度、間違ってません?」
悪いな佐竹。
まずは食事だ。
何年、僕が和食を欲してたと思う?
少しくらい待ってもらってもいいだろ?
佐竹は自分の席に戻り、連れの女性と話をしている。
仲はよさそう。
彼女たちはやっぱり佐竹の奥さんだろうか?
やはり転生者はハーレム体質か……
ヤツもがんばって生きてきたんだろう。
何があったかな?
さて、それはそれとして、うどんだ。
伸びないうちにね。
まずはつゆから。
色は濃いめ、関東風のつゆだ。
これ、これ!
醤油の味のする、甘めのつゆ。
旨いなあ……
うどんを箸でつかむ。
太い。
そして柔らかめ、か……
口に運び、一気にすする。
旨い!
これは……あれだ!
「小山田だ!」
「小山田うどん? 私は食べたことないからわからないな。柔らかいわね」
そうか、フィオナさんには刺さらないか。
コシがあるうどんもいいけど、これもこれで美味しいと思う。
「ルーカス様……その食べ方が正しいのでしょうか?」
ん?
ティーレが困惑している。
珍しい。
「ああ、うどんをすするね。あっちではこれが正しいんだけど……」
女将さんを見ると、微笑んでいる。
こっちでも大丈夫みたい。
「こうやって食べるとね……」
ずずっとうどんをすする。
「つゆがうどんから落ちる前に食べられるでしょ。つゆとうどんを一緒に食べられるんだよ。あと、空気を一緒に吸い込むから、つゆの香りが口から鼻に抜けるんだ」
フィオナさんもうどんをすする。
ティーレはためらいながらも真似をする。
ずっ、と控えめに。
「あ……美味しいですわ。これが醤油なんですね」
「うん。正確には醤油とみりんと日本酒と出汁かな。おいしいよね」
ティーレも気に入ってくれて何より。
では、天ぷらをサクサクのうちに。
「あ、ルー君。お茄子半分あげるから、かき揚げ半分頂戴」
「いいですね」
「そういうシステムですか。私はルーカス様と同じものなので、交換の意味がありません……」
別にシステムじゃないけど……
これ、嫌いな人もいるらしい。
人数が多いといろいろと少しずつ食べられてお得っていうかね。
まあ、交換する人によるか。
妻なら全然問題なし。
うん、茄子もいいね。
甘みがある。
子供の頃は茄子が嫌いだったんだけど、今ではとても好きだ。
そういえば何で嫌いだったんだろう。
色かな?
次、竹輪の天ぷら。
これって何で美味しいんだろう。
竹輪自体はそれほど食べないんだけど、天ぷらは好きなんだよね。
天ぷらにすると甘みが増す気がする。
磯部揚げもまたよい。
きんぴらごぼう。
太めに切られたゴボウと人参。
味は濃く、ピリリと辛い。
唐辛子の入っているヤツだ。
うん、よし。
うどんに入れる。
これもまたよい。
きんぴらの味がうどんのつゆにしみ出して、旨い。
どうも僕の味変は味が濃くなる方向が多い気がする。
バカ舌って言われる理由だよね。
「うどんにきんぴらっていうのも珍しいわよね」
フィオナさんはきんぴらうどんは食べたことがないみたい。
美味しいと思うけど……
僕はたぬきも、きつねも、月見も、肉も、味噌煮込みも、カレーも好き。
とろろをのせてもいいし、それにさらに明太子をのせるのもいい。
きんぴらごぼうもいいけど、ごぼう天もいい。
美味しければいいと思う。
そういうことだ。
久しぶりのうどん。
大変美味しく、堪能しました。
ごちそうさまでした。
さてと……
待たせたな佐竹。
話を聞いてやろうじゃないか。
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