【13】越えられない壁
挑発的な態度を取るエリザベータに、
地を割りながら、大木や草花が生み出され、荒れ地はみるみるうちに樹海へと成り代わっていく。
「うわぁぁああ!?」
足元から出てきた幹にしがみつき、なおも成長を続ける樹海で、俺は情けない声を上げた。
「落ち着け、麦嶋。エリザベータ様の加護魔法がある限り、擦り傷一つ付きやしない」
樹海の木々を器用に飛び移り、アダムが俺のところへ降りてくる。
「本当に!?」
「本当だ。ほらっ!」
「がぁ!? 痛ぁぁ……くない」
「な?」
アダムに物凄い勢いで頭をどつかれたが、痛くも痒くもない。
チンパンジーに殴られて平気なら一先ず安心か。でも何で頭なんだ。肩とか小突く程度でいいだろ。無駄な殺意だ。
その時だった。樹海を横切るような一閃が走り、木々が全て薙ぎ倒される。
「うおっ!?」
アダムが俺を脇に抱え、倒れてくる木を避けた。そして、そのまま彼は空高くジャンプして、横倒れになった別の大樹に着地する。
「さすがはエリザベータ様だ」
あいつが何かしたらしい。
視線をずらすと、彼女は最初の位置から少しも動いていない上、その周囲だけ木が生えていなかった。
「このっ……!」
触手のように無数の木が一斉に襲い掛かるが、彼女に近づいた途端、何か固い物にぶつかったように弾かれる。
目を凝らして見ると、青い半透明の半球が彼女を守っていた。たぶん結界魔法だ。
すると、そこへカブトムシのジジィが現れる。まるでテレポートしてきたかのようなスピードだった。
「ふんっ!」
瞳を光らせたジジィが殴ると、結界は容易く崩壊し、ガラスの割れる音が鳴り響いた。
「やるじゃない」
未だ余裕そうな彼女は、既に手元へ緑の魔法陣を展開していた。そこから突風が起こり、周辺の木ごと彼を吹き飛ばす。
「んぐ!?」
何とかジジィは、浮き上がった木の根にしがみつき、体勢を立て直そうとする。
だが、エリザベータは風魔法を発動しながら、もう片方の手にまた別の魔法陣を出した。
「『ファイアボール』……」
何が可笑しいのか知らないが、エリザベータは少し笑っていた。
そして、有無を言わせず、樹海を呑み込むレベルの巨大な火球が放たれた。
「
木を伸ばして彼を助けようとする少女を、黒蛇が咎めた。
「必要ない! 攻撃の手を緩めるな!」
「っ!」
彼女は能力を中断し、身を翻して火球を避ける。
瞬く間に黒焦げの道ができ、その焼け跡の中にはジジィと思わしき塊があった。しかし、彼の体を何事もなかったかのように再生していく。
「蛇。これはあんたの能力? 超高位の回復魔法……というより不死の能力かしら?」
「……」
「裏を返せば、あんたがいる限り他二人も倒せないってことね」
エリザベータが蛇の方を指さしたかと思えば、眩い光が発生した。そして、次の瞬間には、蛇の頭部が吹き飛んでいた。
だが、蛇は
「たとえ神であろうと……我を殺すことはできない」
「嫌らしい能力だこと」
彼女は白い翼を広げ、ジェット機みたいな猛スピードで蛇との距離を詰める。いつの間にか、彼女の手には長剣があった。
「うっ!?」
情け容赦なくエリザベータは蛇を地面に串刺しにし、わざと剣を動かし傷を広げる。
「あがっ! うぁぁ!」
「痛みは感じるようね」
「じゃ、邪神め……」
瞬間、完全復活したジジィが飛んできて、エリザベータの死角から殴りかかる。
しかし、後ろに目がついてるんじゃないかと思うくらい、彼女は攻撃を完璧に見切った。
「遅い」
蛇に剣を刺したまま、彼女はまた新しく長剣を召喚し、ジジィの首を斬ろうとする。
彼はそれを拳で受けた。彼の拳が剣に触れた途端、あろうことか剣の方が木っ端微塵に破壊された。
「くらえぇ!」
続けて正拳突きを狙うが、エリザベータは後方に飛んで難なく躱す。
「触れたもの何でも破壊できるのね。ふ~ん、三人とも強いじゃない。褒めてあげる。どうしてあのバカを殺せなかったのか不思議なくらいだわ~」
確かに。あいつらすげぇ強い。俺どんだけ下に見られてたんだろう? それに、エリザベータもヤバいくらい強い。急に超次元バトルが始まった。てか俺、最初あんなのと戦ってたの? 生き残れたの奇跡だろ。一生自慢しよ。
すると、アダムも彼女の言葉に同調した。
「全くだな」
「ま、まぁ……神白のスキルのおかげだな!」
「そういえばおまえ、あのカードはどうした?」
「……そういえばさっきあの蛇に取られちゃった」
ただ、あいつは今それらしき物を所持していない。
すると、アダムが瞳に魔法陣を展開した。
「今は持っていないようだ」
「あ、そうだ。さっきあいつ一回だけスキル使って、すぐカード捨ててたな」
「なら取りに行くか。ここにいても、俺たちにできることはなさそうだしな」
※ ※ ※
アダムらが離れていくのに気づき、私はエラーコードたちの注意が自分に向くよう言葉を投げかける。
「いくつか分かったことがあるわ」
「……」
「一つはあんた達の能力は魔法の一種だって事よ。相も変わらず魔法陣は出さないし、七大属性のどれに分類されるのか、等級はいくつなのか……既知の魔法と比べて相違点はいくつも挙げられるけれど、魔法であることに変わりはない」
切り倒された大木の上から、
「なんでそう思うの?」
「魔力を視認する魔法ってのがあるのよ。別に大したものでもないけど、それを使えばあんた達に魔力があるのは丸分かりってわけ」
「……」
「そして、あんた達は魔力を消費して能力を発動している。術式を介さないという点を除けば魔法と同じね」
私は再び魔法陣から長剣を出し、彼女らに切っ先を向ける。
「あと、これは直感的に感じた事なんだけど、あんた達って複数の生物を混ぜて生み出された改造生命だったりしない?」
「……そうだけど? だから? 別に隠してないし!」
「やっぱり。最初に感じた違和感はこれだったのね」
私は膨大な量の魔力を練り上げる。
「何だか……物凄く不愉快だわ」
「は?」
「生物は自然な形で生まれる。その中で突然変異が発生し異質な存在が生まれることがあっても、それもまた自然の理……大いに結構よ」
「……」
「でもあんた達は違う。明らかに人工的、作為的に発生した不自然な生命。この上ない侮辱を感じると共に、不憫にも思える」
「不憫……あたしらが?」
「ええ、そうよ。どうして花が誰かと争わなければいけないの? そこにあんたの意思はあるの?」
「……」
すると、カブトムシの老爺が彼女に呼びかける。
「耳を貸すでない! 彼奴はわしらの戦意を削ごうとしているだけだ!」
「戦意を削ぐ? なんで私がそんな面倒なことしないといけないのよ?」
「とぼけおって! それはお主が
「ふふ、何それ? 私のこと舐めてんの?」
「っ!?」
瞬間、ムゥの地上と天上……その全てを覆いつくさんばかりの、数えきれない魔法陣を展開した。
「あのね。次からはちゃんと喧嘩を売る相手を選んだ方がいいわよ?」
「あ……」
「生き物である以上、絶対に越えられない壁っていうのは常に存在するの。もういいかしら? 終わりにして? 不死身だか何だか知らないけど、魔力が切れたら死ぬんでしょ? だったら、それまで殺し続ければいい」
「……」
だが、黒蛇だけは真っすぐ私の方を睨み、未だ尽きぬ闘志を露わにしていた。
「邪神エリザベータ……これが噂に聞く貴様の魔法か? かつて貴様がエアルスを焼け野原にした例の? どうやら伝説は本当のようだな」
「……」
「しかしまぁ……関係ないな。貴様がどれだけ強かろうと我らが今ここで討つ──」
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