第五十一話 内乱鎮圧戦 後編

 城門前の領軍を粗方鎮圧した後、ペスカは急いで車に戻るとパネルを操作する。その時のペスカは、酷く慌てている様子だった。

 今、城を攻めている領軍はこれが全てではない。そう予想していたからだけではなかろう。わざわざ内乱という手を使ってきたのだ。ここに何かの思惑が有っても然るべきだと、考えていたのだろう。


 そしてペスカは、ドローンを飛ばして城の周囲を探った。城の裏側では、城門と同じ様に二つの領軍が攻めているのが見える。


「将校も洗脳されてんだろ? それなのに、裏側からも攻めるなんて作戦立てられんのか?」

「お兄ちゃん。この盤面を動かしてるのは、人間じゃなくてロメリアなんだよ」

「ホント、面倒だな。何考えてんだ、糞神ってのはよ」

「それは、帝都内に行けばわかるよ。手遅れにならなきゃいいけど」

「確かにな。これじゃあ、帝国を滅ぼそうとしているとしか思えねぇ」


 ペスカにも焦りが見える。冬也の言った事が、あながちピント外れとは言い切れないからだ。だからこそ早く城外の兵を鎮圧して、帝都内の様子を探りたい。

 ドローンだけで全てを把握するのには限界が有る。なにせ城内の様に、建物の中までは確認出来ないのだから。

 今の所は落ち着いている様にも見える。だが、何が起きるかわからない。


「トール隊は、このまま周囲の確認! 残る辺境領の襲撃に備えろ!」

「はっ」

「シルビア隊、メルフィー隊は私に続け!」

「「はっ」」

「残りを素早く鎮圧するぞ!」


 そしてペスカは、戦車を中心に右にシルビア率いるアサルトライフル部隊、左にメルフィー率いるロケットランチャー部隊を展開させる。更にシグルドの乗るトラックを後方にトラック配備し、再び進軍を開始した。


 城壁を中心に回り込むと、二つの領軍が城壁に攻撃を続けていた。ペスカ達には、気が付いていない。それどころか、気にも留めていないのだろう。

 そのままペスカ達は、領軍に気付かれない様、背後へと回り込む。


「メルフィー隊、構えながらこのまま前進。射程範囲に入ったら撃て! シルビア隊、いつでも撃てるように準備しておけ!」


 後方から近づきロケットランチャーの射程に入ると、メルフィー隊のロケット弾が一斉発射される。着弾したロケット弾は、二部隊を包み込む様に大きく広がる。光が消えた時には、兵士は全員倒れていた。


 ペスカは大きく息を吐く。しかし、まだまだ安堵をするには早い。ペスカは皆を鼓舞する様に、声を荒げた。


「皆、注意を怠るな! このまま城壁を一周しながら城門へ戻るぞ! 周囲を警戒! 何か有れば直ぐに報告せよ!」


 城壁を一周し城門へ戻るペスカ達。だが途中で報告以外の軍隊とは、遭遇する事が無かった。城門へ戻ると帝国大隊が、領軍の治療や移送を忙しなく行っていた。戦車が戻って来るのを見つけたトールが駆け寄って来る。


「ペスカ殿、ご無事でしたか」

「裏で攻めてた領軍は鎮圧したよ。そっちの治療も頼む様に伝えてね」

「了解しました。しかし、帝国が精神汚染を受けておらず、助かりました」

「そうだね。それで状況は?」

「帝国、辺境領共に被害は甚大。特に辺境領からは、死者が多数出ております。要因はマナの欠乏による死亡。それと、著しく肉体を損傷させている者は、精神汚染が解除された瞬間に命を落とした様です」


 ペスカは少し目を伏せた後、質問を続ける。


「精神汚染の状況は?」

「全て治まっております。それだけに、傷に苦しんでいる者は多く。今は重傷者から優先し治療に当たっています」

「帝都内は?」

「住民達は避難しており、そちらも精神汚染は行われていない様子。建物の被害も軽微だと報告が上がっています」

「帝都が無事ってなると、狙いは城内か?」


 ペスカがトールから報告を受けていると、城門方面から近づいて来る男がいた。男は大声を張り上げながら、こちらへ近づいてくる。


「トール大佐! 今まで何をやっていたのだ!」


 声をかけられたトールは振り向くと、腕を胸の前で交差して姿勢を正した。


「将軍閣下、この様な事態になるまで、駆け付けられなかった事、不徳の致す所であります」

「いや、それは今回の活躍に免じて不問にしよう。良くこの窮地に駆け付けた。所でそちらの御仁は?」

「かの英雄ペスカ様、その生まれ変わりでございます」

「なんと! それであの未知の兵器か!」

「我等も彼女達の部隊に救われました」

「ペスカ殿。此度の支援、誠にかたじけない。改めて陛下からもお礼が有るだろう」


 将軍がペスカに頭を下げる。ただペスカは、少し面倒そうに手をひらひらと振っていた。今は、将校に構っている暇はない。それよりも、ロメリアの企みを阻止しないとならない。

 しかし、将軍は内乱が収束しつつあるとでも考えている様子だ。それには、少しひっかっかる


「全て其方らのおかげだ」

「閣下、安心してはいけません。辺境領の軍がほどなく到着するでしょう」

「その顔。援軍、では無いのだな?」

「辺境軍は、今の倍近くの兵力になります」

「一体、何が起きている?」

「邪神の仕業でございます」

「何と、報告は誠か?」

「鎮圧は、我が部隊にお任せ下さい」

「ならば、ペスカ殿。其方らは、暫くここで休まれよ。後に使いを寄こす」


 将軍はペスカ達に待機を告げると去って行く。ただ、不安は拭い切れない。このまま何もなければ、帝都は平穏を取り戻すだろう。

 そして、領兵の治療が終われば、軍も各領地へ戻っていくだろう。そうなれば、当初の目的通りに戦争を回避出来た事になる。

 だが、これで終わりのはずがない。ロメリアの事だ、これだけの大仕掛けをしておいて、ただの内乱で終わらせるはずがない。


「一先ず、みんなには休息を取らせよっか」

「あぁ、流石に連戦だったしな」

 

 そしてペスカは、シグルドを通じて兵士達に休憩する様に指示を出す。これまでの連戦で、疲れて果てていたカルーア領軍は一斉に座り込んだ。

 

 続いてペスカはここまでの情報を整理し、王都へ報告する様にシグルドに指示をする。


「ペスカ、これで終わりじゃないんだろ?」

「まだ何か起こりそうな気はするけど……。シルビア、帝都に変な気配は有る?」

「今の所は感じません。帝都に入らないと、詳しくは感知出来ませんが」


 ペスカは軽く息を吐き頭を掻き上げると、メルフィー達に向かって指示を出した。


「セムス、メルフィー。疲れてる所悪いけど、兵達全員に糧食を渡す様に伝えて。それとあなた達も休みなさい」


 セムス達は兵を動かし糧食を配り始める。しかし王都に報告をしていたシグルドが、慌てて駆け寄って来る。常に冷静なシグルドにしては、珍しく顔を青ざめさせていた。

 

「ペスカ様、大変です。北で戦争をしていた小国が戦争を集結。そのまま合流し、エルラフィア王国に侵攻を開始しました」


 一同にどよめきが起こる。エルラフィア王国を取り巻く状況は、悪化の一途を辿っていた。

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