第十四話 盗賊対峙は遠慮なく

 街道をガタガタと荷馬車が走る。ペスカと冬也は自動運転の馬車で、意気揚々と出発した。しかし、荷物が満載で重量過多の上に窮屈、運転で使用するマナ消費量が予想外に多い。そんなコスパの悪さに嫌気が差し、伯爵邸に戻り馬車に乗り換えたのだった。何とも締まらず、恥ずかしい再出発であった。


「ペスカ。最初から、これにすればよかったんだよ」

「だって私、馬車の操縦なんて出来ないもん」

「それでわざわざ操縦を教えてもらうなんてよ。御車さんに操縦を頼めば、良かったんじゃないか?」

「嫌! ぜ~ったい嫌!」

「だいたいお前は、いつも計画性がねぇんだよ」 

「お馬さんのお世話も操縦も手伝うもん。だからもうこの話は終わり!」


 ペスカは生き物の世話を、真面目にした事がなかった。懇願されて飼い始めた熱帯魚を、ペスカが世話をしたのは最初の三日位で、後は冬也が世話をした。他にペスカが欲しがった、カブトムシやハムスターも、全て冬也が世話をした。

 反省を生かす冬也は、ペスカに全て任せる訳にはいかないと強く感じ、伯爵家の御者から、詳しく馬の世話の仕方を聞いていた。


 フンッと鼻息荒く、ペスカは馬車の操縦をする。ややもすると都市部を抜け、見渡す限りの田園風景が見えてくる。


「ペスカ、あれ米だろ? 結構頑張ってるんだな」

「そうだね。それ以外にも、この辺りでは色んな物を栽培してるよ」

「へぇ~」

「この辺は、ラフィスフィア大陸の中でも、比較的温暖だから、稲作に向いているのかもね」

「確かに、過ごしやすい気温だな」

「因みに街で売ってた野菜は、全て同じ領内で作られた物だよ」

「地産地消ってやつだな。兄ちゃん知ってるぞ」


 エルラフィア王国は、ラフィスフィア大陸でも南西に位置し、気候が温暖である。その上、ルクスフィア伯爵領の付近に広がる平原は、土壌が豊かな上に水源も豊富の為、作物の生育に向いていた。

 元々あった作物だけで無く、シルビアが日本から持ち込んだ、米や大豆等が新たに生育され、エルラフィア王国の食糧事情を満たしていた。


「私は治水関連の開発にも、携わった事あるんだよ」

「もう何を言っても、兄ちゃんは驚かないぞ。確かにお前はすげ~けど、手の掛かるやつだからな」

「ぶ~! せっかく色々と、説明してあげてるのに。いつかお兄ちゃんを、ギャフンって言わせてやるんだから」

「ギャフンってお前。それ位なら、何時でも言ってやるよ。ほら、ギャフン、ギャフン」

「う~むかつく! お兄ちゃんの癖に、お兄ちゃんの癖に、お兄ちゃんの癖に~」

「ところで、害獣対策とか大丈夫なのか?」

「農村部は平気だよ。領軍が定期巡回しているからね。ほら、あそこにも」


 冬也は、ペスカが指さした方角を見やる。すると、農作業をしている人とは明らかに違う、槍等を持った兵士の姿が有った。


「ああやって、二人組で見回りしてるんだよ。村ごとに領軍の拠点があるから、そこを中心に見回りするんだよ。戦争が無ければ、軍隊は訓練位しかやる事無いしね」


 伯爵邸を出発して、長い時間馬車で進むが、特に何も起こる気配が無い。農村地帯の穏やかな雰囲気に、冬也は化け物が出たのは、何かの間違いだったと考え始めていた

 しかしペスカの言葉で、少し気を引き締め直す。


「モンスターみたいなのが出るとすれば、たぶん山間部だね」


 これから向かうメイザー領は山脈を超えた所にあり、山脈の辺りに領の境界がある。街道には関門があり、領軍の兵士が詰めている。しかし兵士の多数は、都市部や農村部の巡回に配置される。その為、街道の警備は手薄となっている。


 山越えの街道を行くのは商人が多い。その殆どが護衛を連れて旅を行う。それ故、盗賊等に遭遇し、軽度の被害を被る事は有るが、人命に係わる大きな被害報告は少なかった。

 ただ最近は、ルクスフィア領とメイザー領を繋ぐ街道付近に、モンスターの発生報告がされていた。

 そして、ペスカ達は山間部に差し掛かろうとしている。


「ここからの街道は、余り整地されていないから、かなり揺れるよ」


 馬車は、原木が立ち並ぶ森に、無理やり通した様な道へと入って行く。少し進んだ頃、突然一本の矢が、馬の頭を掠める様に飛んできた。ペスカは慌てて馬を制御し、馬車を止める。すると森の中から、剣を持った五人の男達が現れ、馬車の前方を塞いだ。


「命が惜しけりゃ、有り金全部置いてきな。勿論荷物もだ」


 ペスカは、やれやれと言った表情で頭を振る。


「モンスターより、盗賊が先に出たよ。しかも何てテンプレ台詞。脅し方にもう少し工夫が欲しいね」

「あぁ。何言ってやがんだこのガキ! 早く金出せってんだよ」

「だが断る」

「てめぇ! 命が惜しくね~のか」

「ったく、はしゃいでんじゃねぇ~よ、三下」


 数人の盗賊を相手に、下手に出ても仕方あるまい。しかし、挑発し過ぎる必要もあるまい。ペスカと冬也からすれば、繁華街で絡んできた酔っ払いと大差ない。それでも盗賊を相手に荒ぶるペスカを横目に、冬也は溜息をついていた。

 これしきの人数であれば、魔法を使う必要がない、本気を出す必要すらない。冬也が馬車から降り様とした時、更に五人が姿を現し完全に馬車を取り囲む。剣を抜き取り囲む盗賊達に向け、ペスカが言い放つ。


「ともかく、やっちゃえお兄ちゃん」


 やれやれといった感じで冬也は首を大きく回すと、クラウスから貰った剣を抜いた。冬也は見様見真似と語ったが、その技は部位に当てるだけの剣道とは大きく違う。人を無力化させる事を目的とした、立派な殺しの技だ。それは、戦国時代に発祥した剣術に近いだろう。端から勝負にはならないのだ。


 剣を抜くと、冬也は盗賊との距離を詰め、手前二人の剣を弾き飛ばす。そして剣の柄頭を使い、その二人共昏倒させた。更に次の瞬間には、残り三人の剣を弾き飛ばし、同様に昏倒させた。そして冬也は残った盗賊を威嚇をする。


「お前ら! これ以上やるなら容赦しねぇぞ」 


 一瞬の出来事に盗賊達は恐れを無し、倒れた者を連れ森の中へ逃げて行った。


「流石だね、お兄ちゃん。修行の成果が現れ、いだっ」

「ペスカ! ああいう輩を、威嚇するんじゃない。怪我したらどうするんだ」


 冬也からのお仕置きがさく裂し、ペスカが蹲る。だがその直後に、盗賊が逃げて行った方角から叫び声が聞こえた。そして、その叫び声は直ぐに途絶えた。


 そして叫び声が聞こえた方角から、顔中を血だらけにし、人の頭らしき物を咥えたマンティコアが、ゆっくりと森の中から歩いてきた。

 それも一頭ではない、昨日の森で出くわした個体より一回り大きな個体が牙を剝いている。


「さて、八つ当たりの時間だよ。お兄ちゃん、ここは私がやるね」


 ペスカは素早く馬車を降り、マンティコアに向き合う。マンティコアは咥えた頭を噛み砕き、グルァアアア~と大きく叫び威嚇をし、姿勢を低くし何時でも攻撃出来る様な体制になる。


「お兄ちゃんの技で、一気に片を付けてあげるよ」


 マンティコアが飛びかかろうとした瞬間、ペスカの魔法がさく裂した。


「切り裂け、ジャック・ザ・リッパー!」


 冬也の魔法とは桁が違う数千もの刃が、マンティコアを周囲ごと切り裂く。マンティコアは、跡形も無く肉片となり、周囲の木々もことごとく切り裂かれ、なぎ倒されていた。


「お兄ちゃんを傷つけた罪、忘れない事だねってもう死んでるか」


 ペスカの凄まじい魔法を目の当たりにし、冬也は暫く放心状態だったが、ペスカの声で我にかえる。


「お兄ちゃん。褒めてくれても良いんだよ」


 冬也は言われるがままに、ペスカの頭を撫でながら、辺りの状態を見回す。マンティコアが居た辺りを中心に、局所的な大型台風が来た様な、散乱状態になっていた。


「ぺ、ペスカ、お前さ、すげ~んだけどさ、これどうすんの? 木が倒れて馬車が進めなくなってるんだけど」


「か、片付けるの手伝って、お兄ちゃん」


 ペスカと冬也は、風魔法等を併用し木々を片付ける。その後、盗賊が逃げた辺りを確認しに行くと、食い散らかされた様な死体の後だけが残っていた。


「ペスカ、これは流石に」

「あ~、慣れないと辛いよね」


 日本で暮らしていれば、いや紛争地帯のど真ん中でもなければ、死体を目撃する事は滅多に無いだろう。

 幼少の頃より何度もアマゾンの奥地に置き去りにされ、そこから生還した冬也でさえ死体を見る事は稀だった。

 それ故にショックであった事だろう。死体を直視した冬也は、少し胃の中の物を外へとぶちまける。


 肉体的にも精神的にも、へとへとになりながら、冬也は馬車に乗り込む。ペスカすら、街道の片づけで疲れた顔をしていた。


 途中、何度も大小様々なモンスターと出くわし、撃退しつつ関門に着いた頃には、とっぷりと日が暮れており、関門で一泊する事となった。関門に着き、身元チェック用カードをだすと、兵士達が畏まった態度になった。


「良くいるんですよ、日暮れに到着する商人が。流石に夜は危ないですから、通常関門には宿泊施設が有るんです。通告許可が下りずに停泊する連中も居ますがね、ハハハ」


 部屋へと案内する兵士の丁寧な説明を、二人は聞き流す。そして宿泊用の簡素な部屋へ通される。


「お兄ちゃん、私もう限界」

「兄ちゃんもだよ」


 二人は直ぐ様ベッドに倒れ込み、死んだように眠るのだった。

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