【トール】エピローグ:再会と新たな旅立ち
無限に広がる数式の海の中で、私は没頭していた。新たな宇宙理論を構築する作業に、時間の感覚さえ忘れていた。そんな中、突然聞こえてきた懐かしい声に、私の心臓は大きく跳ねた。
「これで準備は整ったね」
その声を聞いた瞬間、私の体は震え始めた。ゆっくりと振り返ると、そこには間違いなくダンが立っていた。彼の姿を見た途端、これまで抑えてきた感情が一気に溢れ出した。
「ダン……本当に、君なの?」
私の声は震え、目には涙が溢れていた。ダンとの別れ以来、私はこの時をどれほど待ち望んでいたことか。彼との旅で学んだこと、感じたこと、全てが鮮明に蘇ってきた。
ダンは優しく微笑んだ。その笑顔は、まるで宇宙の真理そのものを体現しているかのようだった。
「準備? いったいなんの?」
私は涙を拭いながら尋ねた。心の中では、様々な感情が渦巻いていた。喜び、安堵、そして新たな冒険への期待。
ダンは答えない。代わりに、彼は深い愛情を込めた眼差しで私を見つめた。その瞬間、私は全てを理解した。この再会は、新たな旅立ちの合図なのだと。
「時が満ちればまた逢えるよ。その時までしばらく待っててくれるかい?」
その言葉に、私の胸は熱くなった。別れの時が近いことを悟り、私は思わずダンに駆け寄り、強く抱きしめた。
「ダン、ありがとう。全てに感謝してる。もう二度と会えないんじゃないかって、ずっと怖かったの」
私の頬を伝う涙は、もはや悲しみのものではなかった。それは、深い感謝と新たな決意の表れだった。
ダンはゆっくりと私から離れ、消えゆく前に最後の言葉を残した。
「君の中にいつもいるよ、トール。さあ、新たな宇宙を創造する時だ」
その言葉と共に、ダンの姿は光となって周囲に溶けていった。しかし、不思議なことに寂しさは感じなかった。むしろ、ダンの存在が宇宙全体に遍在しているような感覚があった。
「ダン!」
私の呼びかけは、もはや悲痛な叫びではなく、感謝と決意に満ちた宣言のようだった。
深く息を吸い、私は再び目の前の方程式に向き合った。心は静けさと高揚感に満ちていた。ダンとの再会は、私に新たな力と勇気を与えてくれた。
これからの旅は、もはや私一人のものではない。ダンの教えと、彼との絆を胸に、私は人類全体と共に、この新たな宇宙の謎を解き明かしていく。
ペンを握る手に力を込めながら、私は心の中でつぶやいた。
「また会おう、ダン。その時までに、きっと素晴らしい発見を携えて帰ってくるから」
そして、新たな宇宙の創造へと、第一歩を踏み出した。
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