第38話 死体

〜カンナリ目線 エレナ部隊超越者対峙と同時期〜


「カンナリ様、お願いです。一度戻りましょう。」

「嫌ならお前だけ戻ればいいだろ。」

「わ、私だけで帰ったらガラド様に叱られてしまいます。」

「ちっ、なら黙ってついて来い。」


コーディ部隊での任務から1ヶ月、俺は臨時でガラド部隊として任務に当たっている。

そして、今はゴフェル探しだ。

本来、覚醒者1人で済む任務だが、チーム体制がなんちゃらとかで、解放者のガラドと共に任務についた。

こんな簡単な任務に解放者を同行させるとは戦力の無駄遣いもいいところだ。


早く終わらせて次の任務に行くため、歩くのが遅いガラドのおっさんをおいて、1人でゴフェルを探そうとしたが、これもチーム体制がなんちゃらとかで、探索班のやつがついてきやがった。


「はぁ、はぁ、。」


探索班が息を切らしている。

まあ、覚醒者のスピードで合わせて歩いているのだ、無理はない。


「おい、疲れてるだろ。早く俺に地図をよこせ。」

「それはっ...できません。規則...ですから。」


探索班の男は頑なにゴフェルの場所が記された地図を渡さない。

そんな真面目すぎる探索班の様子に俺は大きくため息をついた。


「はぁ、どれくらい休めば歩ける?」

「15分ほど...貰えれば。」

「10分だけ休んでやる。」


ーーー


結局20分ほど休んだ後、俺たちは再び歩き出した。


「あと、どれくらいだ?」

「5kmほどかと。」

「あー、めんどくさ。何で俺がゴフェル探しなんだよ。」

「任務を選ぶ事はできません。我慢して下さい。」

「ちっ、んなこと分かってんだよ。2人も覚醒者はいらねぇだろって言ってんだよ。」

「チーム体制が規則になったので仕方ないです。」

「クソが。」


文句を言いながら歩いていると、目的地に近くなったところで人影が1つ見えた。


「おい、なんだあいつ。」

「わ、わかりません。」


こちらに背を向け立っている人影は、白いローブのような服装だった。


「お前、ここに何のようだ?」

「・・・」


返答はない。

こちらに気づいているはずだが、何の反応も見せない。

様子が変だ。


「おいっ!無視してんじゃねぇ!」

「・・・」


「ちょっと1発ぶん殴ってくる。」

「ちょっ、カンナリ様!それは..」


俺が探索班の制止を振り払おうとしていると、白いローブの人影がこちらを振り向き、ゆっくりと口を開いた。


「お前ら、ゴフェルは既に回収したか?」

「・・・ん?」


今、ゴフェルって言ったのか?

こいつがここにいる目的もゴフェル...。

いや、それ以前に何故ゴフェルの存在をしっているんだ?

アーク以外でノアや厄災について知っている奴は少なくない。

でも、ゴフェルはアークの機密情報の一つだ。

アークに所属している者以外に知っている奴がいるはずがない。

それに、この場所にゴフェルがある可能性は石板を解析しなきゃ分からない事だ。

こっちの最新の情報までもこいつは知っている。

一体、こいつは何だ?


「ゴフェルは既に回収したのかと聞いているんだ。質問に答えろ。」

「なんでゴフェルがここにあると知ってる?」

「・・・」

「てめぇこそ質問に答えたらどうだ?」

「・・・」

「答える気はないってか。なら、力ずくで聞いてやるよ。」


俺はノア化し、雷を利用した高速移動で白ローブ野郎の目の前まで一瞬で移動した。

そして、奴の首根っこを掴もうとした時、突然目の前に大きな塊が現れた。


「うおっ、」


咄嗟に避け、元いた位置まで下がる。

鼻先を掠ったようで、鼻血が垂れた。


「危なかったな。」

「危なくねーよ。」


そうは言ったが、実際危なかった。

突然現れたあの大きな塊。

武器...なのか?

巨大なハンマーのような形をしている。


「どうする?質問に答えるか?答えるなら殺さないでやってもいい。」

「あぁ?殺す?やってみろや。」


俺は鎌状の方舟を発動し、構えた。


先に出たのは白ローブ野郎だった。

大きな武器を持っているが、意外と早い。

でも、俺の方がより圧倒的に早い。


男の大振りの攻撃を余裕でかわし、隙を見て方舟で切りつける。


「ぐうっ、」


何度か“避ける切りつける”を繰り返すと、白ローブ野郎が膝をついた。


「おい、どうしたんだよ。もう終わりか?」


鎌状の方舟の先端を野郎の首元に当てる。


「はぁっ、はぁっ、」


白ローブ野郎は異常なほど大量の汗を流し、目も空だった。

そこまで大きなダメージを与えていないはずだが、ひどく苦しんでいる様子だ。


「あ?なんだ?気持ち悪りぃな。まぁいい、お前喋る気も無さそうだし、楽にしてやるよ。」


そう言って、方舟を振り上げた時だった。


「あ..アァァァァァァッ!!」


白ローブ野郎は大きな叫び声を上げ、頭を抱えた。


「な、何だ!?」

「ヴゥゥッ、エァェッ!」


突然叫び出した白ローブ野郎の体はボコボコと音を立て、みるみるうちに2倍、3倍と大きくなった。

体には多くの触手が生えており、既に人間の形を留めていない。


っ!この気配...厄災か!?

いや、にしては体が大きすぎないか?

こんな厄災見た事がない。


「おいっ!探索班、隠れてろっ!」

「は、はいっ!」


突然異形化した厄災のようなものは大きく膨らんだ“腕だったもの”を振り回してこちらへ向かってくる。

しかし、大きくなったぶん、遅くなった攻撃は俺には届かない。

俺は迫り来る“腕だったもの”を切り落とした。


「ウオァァッ!!」


そしてすかさず、俺は脳天から地面にかけて方舟を振り下ろした。


「ギャアアアッッ!!!」


大きな血飛沫が上がる。

厄災のようなものはしばらく、のたうちまわった後、動かなくなった。


ーーー


少しして、隠れていた探索班がガラド・ヴィナスを連れて戻ってきた。


「カ、カンナリ様ー!大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ない。って、おっさん!おっせーんだよ!」


探索班の後ろで腕を組んでいたガラドを指さす。


「おっさんではなく、ガラド隊長だ。ぶっ飛ばすぞ?」

「んなこたぁ、どうでもいいんだよ。厄災に襲われた。早くゴフェルを探すぞ。」


俺がそう言うと、ガラドは首を傾げた。


「厄災?」

「なんだよ。」


ガラドは何かに納得いっていない様子だ。


「その後ろに倒れている“もの”の事を言っているのか?」

「当たり前だろ!見りゃ分かる... っ!?」


俺はある事に気づき、後ろを振り返った。

そして、地面に伏した死体に近寄る。


・・・

あぁ...やっぱりだ。

死体が灰になってない。


厄災は死ねば、死体が灰になる。

これは全ての厄災に当てはまる事だ。

しかし、俺が殺した“厄災のようなもの”は灰にならず、死体がそのまま残っている。

と言う事は、これは厄災じゃなかったってことだ。


「これは厄災じゃない。人間だ。」


ガラドはそう言うと、探索班の方を向いた。


「君、すぐ俺たちがゴフェルを探してくるから、この死体を見張っていてくれ。」

「は、はい。承知しました。」


「ではカンナリ、さっさと探すぞ。」

「どの口が言ってんだよ...って、おっさん。」

「なんだ?」

「鳩が来たぞ。」


出発しようとした時、空にアークの鳩が飛んでいるのが見えた。

俺たちを見つけると、ガラドの肩にとまる。


“良かった早く見つかって。”

「ゼイン、何事だ?任務の途中だぞ。」

“その任務は一度切り上げて、すぐにエレナ部隊に合流してくれ”

「おい、それはどういう...。」

“緊急なんだ、細かい説明は省く。鳩にヴィルがマーキングしてくれている。とにかく、今すぐ向かってくれ。”


鳩から発せられるゼインの声がそう言うと、俺たちの足元に円が広がった。


「おっさん!一体何が!?」

「分からん。カンナリ、ワープ後、すぐに戦える準備をしておけ。そして探索班の君、君はその死体を持ってアークに帰っててくれ。」

「ちっ、何なんだよ。」

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