第363話 ランディ達以外もそろそろ進展して欲しいよね
リズとエリーの二人との婚約を認めてもらったランディは、その後レナセントの高級ラインである〝オーラム〟の広告を作りつつ、途中で合流したルークやセシリア、そしてキャサリンに恥ずかしそうに婚約したことを報告した。
まだ両家を交えた正式な婚約とは言わないが、それでもここまでランディ達三人を支えてくれた仲間には、ちゃんと報告したいと思ったからだ。
ちょうどルシアンが中座して、ランディ達しかいないこともあり……ランディの報告を聞いた全員が思わずといった具合に声を上げている。
「ようやくか!」
バシバシとランディの背中を叩くルークは、まるで自分のことのように喜び、
「おめでとうございます! 良かったですわ」
リズの手を取ってピョンピョン跳ねるセシリアは、普段の様子と比べると少女のような可愛らしさを見せ、
「う、羨ましくないしぃ!」
とても……それはもうとても羨ましそうな顔で、エリーとリズを見るキャサリンは、やはりキャサリンであった。
皆が喜び彼ららしい祝福をくれたことに、ランディ達三人も素直に「ありがとう」と返すしか出来ない。ただランディがあまりにも素直な返事をするのだから、全員がまた驚いた顔を見せていた。
「お前、何か変なモン食ったろ?」
「そうですわ。もしくは体調が悪いか……」
「頭でもぶつけたんじゃない」
言いたい放題の三人に加え、
「まさか。ランディは少々腐っていても大丈夫ですよ」
「あと風邪はひかん。馬鹿じゃから。それと頭を打っても大丈夫じゃ。馬鹿じゃから」
と味方のはずの二人まで、ランディをいじるのだから、笑い声に包まれ彼ららしい祝福は更に盛り上がる。だがランディからしたら面白くない。
「俺は元々素直で正直、更に腰の低い人間だろ」
眉を寄せるランディに、全員が顔を見合わせ「です?」とリズの言葉に合わせて首を傾げてみせた。そうしてまた起きる笑い声に、ランディが「ンだよもう!」と口を尖らせた。
「冗談ですよ」
「うむ。お主が言いたいことは、皆分かっておる」
笑顔でランディを両脇から支える二人に、「なら……いいけど」とランディが若干照れた顔で更に口を尖らせた。
実際ランディはこの場にいる全員に、いや今までランディと関わった全ての人に感謝をしている。ここに至るまで本当に多くの人間の手を借り、時に対立をして、時に助けてもらい……。と絶対に自分だけでは、この日までたどり着けなかった事を理解しているのだ。
魔の森でリズとエリーに出会ってから今日まで……。学院の前身たる学園に戻る前から始まり、キャサリンとの確執を乗り越え、帝国の侵略を跳ね返しエリーの身体を取り戻した。
思い返してみても本当に数奇な運命の元、様々な人間に支えられて、三人での写真撮影という瞬間にたどり着いた。
だからこそ、この感謝だけは嘘偽りなくストレートに伝えたかったのだ。
そんなランディの恥ずかしい心の内を、リズとエリーが「ランディは〜」と語るものだから、ランディとしては恥ずかしくてしかたがない。
あまりの恥ずかしさに、両手で顔を覆うランディを、
「知ってる知ってるー」
「意外に可愛いところあるもんねー」
とルークとキャサリンが肘でつついてニヤニヤと笑っている。
「う、うるせー! お前らには全然感謝してねーからな!」
顔が赤いランディが顔を顰めるのだが、ルークとキャサリンは顔を見合わせ肩をすくめてまたニヤニヤとした笑顔を見せた。
「はいはい。照れ隠し照れ隠し」
「デカ男。ごつい男のツンデレはキモいわよ」
ニヤニヤしたまま綺麗な連携を見せるルークとキャサリンの姿は、やはり色々な事を乗り越えてきた間柄だからこその光景である。微笑ましい光景であるのだが、それを微笑んで見ていられる程、ランディも大人しくはない。
「お前ら……。俺のことばっかり言ってるが、お前らも頑張れよ」
ランディはニヤニヤした顔で、まずルークの肩を叩いた。
「いつまでセシリアを待たせてんだよ」
「おまっ! それは――」
慌てるルークがそっと振り返る先では、セシリアが恥ずかしそうに顔を背けている。綺麗に決まったカウンターに、ランディは一人満足して「それにお前」とキャサリンに悪い顔で向き直った。
「何よ……」
「お前は、アレか。レオン待ちか」
小さく溜息をついたランディに「関係ないわよ」とキャサリンが不満そうに頬を膨らませた。
「アタシは聖女であいつはただの――」
「それこそ関係ねーだろ」
呆れ顔のランディにキャサリンが眉を寄せる。
「お前が何だろうと、誰かを好きになるのも好きになってもらうのも、誰にも関係ねーよ」
ランディの言葉にいち早く頷いたのはリズとエリーだ。
ランディ達三人だけではない。セシリアやルークもゆっくりと頷くのを見たキャサリンは、思わずという具合に「で、でもアタシ――」と声をもらした。
だが続く言葉はランディが遮るように上げた掌を前に、紡がれる事はない。「それ以上はストップだ」と掌を向けたまま、ゆっくりと首を振るランディにキャサリが困惑した顔を見せている。
「キャサリン嬢。それはレオンに聞かせてやれ」
「だ、だからなんでレオンが――」
「気付いてんだろ。あいつの思いに」
あまり見ることがないランディの優しげな眼差しから、キャサリンは黙って視線を逸らした。
「俺達がここでどれだけ言葉を紡いでも、結局お前のそれを解き放てんのは、お前を一人の女として好いてる男だけだ」
微笑んだままのランディが「お前も好きなんだろ? レオンが」と目を逸らしたままのキャサリンを真っ直ぐ見た。
「し、知らないし」
「今はそーゆーことにしといてやる」
小さく笑うランディだが、「ただ……」と今度は真剣な顔を見せた。
「アイツは本気だ。お前の横に並ぶために……。だから、安心して待っててやれ」
ランディの真っ直ぐな視線にキャサリンは顔を背けたまま、だが小さく、とても小さく頷いた。
「よっし。ちっとしんみりしたし、閣下が戻ってくる前に最後の広告を作り上げて、甘いモンでも食いに行こうぜ」
手を叩いたランディに、「準備は出来ています」とリズが壁に貼り付けられた巨大な紙を指差した。
「じゃあ、やるか!」
「写真はどうします?」
「面白いのが一枚あるんだよ」
ニヤリと笑ったランディが、リズとエリーにだけ見えるようにマジックバッグから一枚の写真を取り出した。
「これは――」
「なるほど。お主もワルじゃな」
ニヤリと笑った三人が、もう慣れたとばかりに前の三回同様、真っ暗な部屋にした会議室で、写真を大きな紙へと映し出した。
「よーし、明るくしてくれ!」
声とほぼ同時に差し込んできた光が、皆の視界を明るく照らす――。目が慣れてきた皆の瞳に映ったのは、セシリア、ルーク、キャサリン、そしてレオンの四人が映った写真だ。
「こんなのいつ撮ったんだよ?」
思わず呟くルークを筆頭に、セシリアもキャサリンもお互い顔を見合わせ「知らない」とばかりに首を振る。
「撮影者はリヴィアだ。あいつはいい仕事してるぞ」
満足げに頷くランディの言う通り、彼の手元にはリヴィアが隠し撮りした、皆のオフショットが沢山ある。
これもそんな中の一つだ。それぞれの撮影会を終え、ヴィクトール邸近くにある川辺りを歩いて戻ってきている四人が笑いあった瞬間を捉えた一枚。
木々が作る自然のアーチの下、木漏れ日を受けて笑顔で歩く四人は、避暑地へのお忍びダブルデートに見えなくない。
自然な笑顔で歩く姿は、今にも写真から会話が聞こえてきそうだ。
「ちなみにこれを、もう一つの店舗の前にデカデカと貼り出す」
「はぁ?!」
「嘘ですわ!」
慌てる二人とは対象的に、「アタシのファンが増えるじゃない」と先程までとは一転、ニヤニヤするキャサリンはコロコロと変わる表情が忙しい。
「ちなみに反対サイドはこれだ」
ランディが丸めていた紙を広げると、そこにあったのは黒と白のワンピース姿で肩を寄せて微笑む、リズとエリーのツーショットだ。
「ぐぬぬ……。アタシ達の写真より大きいじゃない」
「当たり前だろ。二人が着てんのは、目玉商品だからな」
「シグネチャーアイテム※って言いなさいよ」※ブランドを象徴するようなアイテムのこと。
「そう、それ。とにかく、ブランドの顔なんだよ」
「そりゃそうだけど……」
頬を膨らませるキャサリンだが、壁に掲げられた自分達の写真をもう一度見た。リズやエリーが見せているのに負けないくらいの笑顔の理由は、キャサリンとて理解しているのだ。
だから小さく、だが嬉しそうに「フッ」と笑い、またランディへと視線を移した。
「まあ今はこれで良いわ。次の写真はソロデビューするから」
「お前のあの顔は、レオンじゃねーと引き出せねーぞ?」
「う、うるさい! それはまだ置いといてよ」
頬を膨らませるキャサリンに、ランディ達は顔を見合わせて笑うのであった。
☆☆☆
ランディ達が盛り上がる会議室の入口近くでは、ルシアンが瞳を閉じ微笑んだまま背中を壁に預けていた。
「……楽しそうだな」
「はい。羨ましい限りです」
微笑むミランダだが、実際に羨ましそうに会議室に通じる扉を見ている。
「ミランダ……。ランドルフくん曰く、『お前が何だろうと、誰かを好きになるのも好きになってもらうのも、誰にも関係ねーよ』らしいぞ」
「……はい」
小さく頷くミランダに、ルシアンは「それと……」と目を開いて、ミランダに微笑んだ。
「『俺達がここでどれだけ言葉を紡いでも、結局お前のそれを解き放てんのは、お前を一人の女として好いてる男だけ』だそうだ」
壁に預けていた身体を起こしたルシアンが、「たまには女性として話してやれ」とだけ言うと、未だに盛り上がりを見せる会議室の扉を開き、尻すぼみに静かになっていく会議室へと足を踏み入れた。
一人残されたミランダは……
「セドリック様……私は――」
……会議室の中に見えるランディ達ではなく、今ここにいないセドリックに思いを馳せるのであった。
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